第20羽 歩く鳥はただのカカポ2
巨大なムカデの形をした変異体に襲われた日の翌日、俺達はまた、ひたすらに歩いていた。
相変わらず変わらない景色、照りつける太陽。
暇だ、そう口にしようとした瞬間。
「村が見えるよ! ほら!」
カシルが指差した方を見ると、本当だ、村らしきものが見える。
やっとこの地獄の行進が終わる。
村の入り口で許可証を見せ、村の中に入った。
メラよりも小さな村だ。村の入り口付近で子供が追いかけっこをしている。田舎って感じだ。
宿屋に入り部屋をとる。部屋に入ると目的地に着いた安心感からか、一気に疲れた。めちゃくちゃ眠い。他のみんなも相当疲れてるみたいだな。顔が死んでる。
予定では、この村で一夜過ごし、明日の朝次の村イルニクに向けて出発する事になっている。
夕飯はセルシカが仕留めた飛翔馬の燻製肉をみんなで黙々と食べた。
* * *
「出発!」
俺達は次の村イルニクに向けて出発した。
昨日の夜は早く寝たので、体力は回復していた。みんなが早々に寝支度をする中、『あれ? みんな寝るの早くない?』と言い、全員の反感を買って睨まれた鳥が一羽いたが。
村を出るとそこは…………またサバンナ……。
目の前には、昨日と何ら変わらない景色が広がっていた。空雲一つ無い空が憎たらしく感じる。
また炎天下の下で変わらない景色の中をひたすら歩くのか。もうあれ嫌なんだけど……。
全員が重い足取りでイルニクへと向かう道を歩き始めた。
しかし、実際は違った。しばらくすると周りに木が見え始め、気付いた時には森の中を歩いていた。
木のお陰で日差しが遮られてかなり涼しい。その上、マイナスイオン的ななにかを感じる。ひたすら歩く事には変わりないけど、だいぶ歩きやすくなった。
歩きながら聞いたアルカの話によると、ユレ洞窟の入り口は森の中にあるらしい。
仮に王証神器が例の装置だとしたら、森の中の洞窟は隠すのに適した場所と言えるだろう。ますます同一の物の可能性が高まったな。
俺達は獣道を通り、時には草木を手で掻き分けながら進んで、ひたすらにユレ洞窟を目指して歩いた。
「そろそろ、休憩にしよう。さっきからずっと『腹減った』ってオームがうるさいし」
日が落ち始めたので、暗くなる前に今日の拠点を作ることにした。
リュックからテントを出し、オームと一緒に組み立てる。
オームが軽量化の能力を使えるので、重いものは基本的に俺が持っている。
「近くに変異体のがいないか確認してくる」
そう言ってセルシカとカシルは見回りに行った。
寝ているときに襲われたらひとたまりもないからな。野宿をするときの見回りは欠かせない。
今日は道中、肉を狩れなかったかので、夕飯は持ってきた燻製肉と乾燥野菜を茹でたものだ。こういう時のために常に燻製肉と乾燥野菜は常備してある。
しばらく見回りに行った二人を晩ご飯用意をして待っていたが、なかなか帰ってこない。おかしい、そんなに遠くにはいってないはずなんだが。
そう思い、探しに行こうとした矢先、テント裏の草むらから音がした。
二人が帰ってきたのだと思い、音がした方に声をかけるが反応がない。
不思議に思いテント裏に行くと、そこに二人はいなかった。
「プギッ!」
いたのは可愛らしい猪の子供。変異体なのだろうか? 牙がない代わりに頭に鉱物のような物がついていてものすごく硬い。
「ウリボーじゃないですか。かわいいですねー」
アルカと二人で撫でまくる。ちっちゃくて本当に可愛い。
「かわいいなー、連れて行きたくなっちゃうかわいさだな」
「シュート……」
「ん? さすがに連れて行きはしないぞ、うちのグループのペット枠はオームで十分だからな。それに、なんならカシルだってペッ」
「ち、違います……う、上…………」
さっきから様子が変なアルカを見ると、目を見開いて上の方を見つめている。
「上?」
俺は撫でる手を止め、上を見上げる。
「フゴッ!」
親来たああああああああああ! でかすぎだろ親!
高さが俺の二倍はあるであろう巨大な黒い物体がこちらを見下ろしていた。
我が子が連れて行かれると思ったのだろう、明らかにブチ切れている。えげつない鼻息だ。
「フシュゥゥゥゥゥゥッ!」
「わー鼻息で息ができなーい」
「にいいいいいいげろおおおおおおおおおお!」
「ブギィィィィィィィィィ!」
晩ご飯のために火起こしをしていたオームを抱えて走り出す。
「何でよりによってうちの主戦力がいない時にくるんだよーーーーーー!」
「いやああああああああああああ」
ブチ切れた変異体は猛スピードで後を追いかけてくる。
マズイ、これは本当にマズイ。あのサイズなら、カシルがいればどうにかなっただろうが、今ここにいる貧弱トリオじゃ無理だ。
それに、アルカの能力で隠れられるようなものは周りにはない。
相手が疲れるまで走って逃げ続けるか? いや、ダメだ。こっちは運動不足の十七歳男子と、ロリな見た目をした十五歳女子。逃げ切れるはずがない。
どうしよう、どうすればいいんだ、このままだと確実に死ぬ。
「あれ、シュートオームは?」
「え?」
アルカに言われ、オームを抱えていた手を見ると……いない! まさか…………嫌な予感がする……。
恐る恐る後ろを振り返ると…………嫌な予感見事的中。
鬼の形相の変異体が、地面に転がっている涙目のオームに鼻を押し当てていた。
「手すべったああああああああああ」
「ぎゃああああああああああああっ! シュート助けてええええええええええ!」
オームが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら俺に助けを求める
それと同時に、変異体が首を持ち上げ巨大な頭をオームに振り下ろす。
「あああああああああああああああ――――――――」
目の前で大量の血飛沫が上がる。
赤黒い血が飛び散り、辺り一体を赤く染めあげる。
この血は…………。
言葉を失いながら、俺は飛び散る血の先にいるオームを見る
オームは—――———無事だ。
大量の血はオームの物ではない。
変異体の物だった。
変異体の頭は綺麗に切り落とされ、オームのすぐ横に転がっている。
そして、俺の目の前には銀色の長い髪が特徴的な背の高い男性。
「君!」
「は、はい……」
「風、感じてるかい?」
は? 風?
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