第19羽 歩く鳥はただのカカポ
「セルシカはなんか買ったのか?」
「私は矢筒を新調したわ」
尋ねた俺に新品の矢筒を見せてくるセルシカ。
セルシカは弓使いだ。能力の追撃は、一定距離であれば自分が放った矢が自動で敵を追尾してくれるという、これまた戦闘向きの能力だ。
ふと思ったんだが、うちのグループ俺とオーム以外なかなかに優秀なのではないか? カシルが前線で戦い、セルシカが援護射撃、いざとなったらアルカの能力で戦線離脱。いい! バランスが取れてるな。
セルシカはキッチンで夕飯の準備を始め、アルカは何かぶつぶつ呟きながら、買ってきた辛みトカゲの尻尾を細かく刻んでいる。
暇だなと思いながらオームに目をやると、カシルにチェスのやり方を教えていた。
あの野郎、家を出る時にリュックにプラモデルの箱みたいなの入れてるなと思ったら、持ち運び用のチェスだったのか。本当に遠足かなんかと勘違いしてるんじゃないのか?
まあ、どうせ暇だし俺も教えてもらおう。
夕飯まではオームとカシルと一緒にチェスを楽しんだ。
* * *
夕飯を食べ終わった俺は、皿を洗いながらオームに話しかける。
「なあ、このグループ実は俺たち以外、結構優秀なんじゃないか?」
オームは皿を洗いながら、リビングで談笑する女子三人を見比べ確かにと頷く。
「昨日アルカが言ってんだけどな、俺はすっかり冒険が始まった気分でいたが、まだ本格的には始まっていないらしいんだよ。未開の地を冒険するときは小さな村を転々としながら、野宿なんかもするらしい。こんな快適な生活は送れないそうだ」
「え? そうなの?」
やはりこいつも気付いていなかったか。
そして、オームは皿を洗う手を止めずにポツリとつぶやいた。
「俺たち生きて帰れるかな」
「……生きて帰れるといいな…………」
ムーブ村生活二日目
俺たちは今テーブルに地図を広げ、次の目的地を決める作戦会議をしている。
どうやら、ここから内陸のほうに進むとユレ洞窟という王証神器があると有力視されている場所があるらしく、次の目的地はユレ洞窟に決まった。
出発は明日の朝。それまでは特にする事も無く、だらだらと過ごした。
出発の日の朝
宿を後にした俺たちは、浮舟乗り場から少し離れた未開の地への出入り口へと向かった。そこは関所のようになっており、そこで俺たちはグループ申請をして一人一つ許可証のような物を渡された。
門が開き、いよいよ本格的に冒険の始まりだ。
目の前の景色はサバンナのような感じで、浮舟に乗っている時に見た景色とあまり変わらない。
「ここからまずユキトという小さな村に行き、さらにそこからイルニクという村に向かいます。そして、イルニクからユレ洞窟へと向かいます」
「すげー遠そうだな」
これから先ずっと背負われてるだけのお前がいうな!
俺達はムーブを出て、ユキトへと向かった。
* * *
「なあ、暇なんだけど」
俺は死んだように遠くを見つめながらそう呟いた。
ムーブを出発して半日が経った。ここまで特に何かあったということはなく、ただひたすらに歩いただけ。
周りにあるのも、背の低い草と
こんなの俺の思っていた冒険とは違う! もっとこう、危機を乗り越えてこその冒険なはずだ。正直もっとイベントが欲しい。
「いいじゃないですか、暇なのは平和っていう証拠ですよ」
アルカが諭すように言う。
確かにそうなんだが……。どこまでも続く終わりの見えない草原。照りつける日差し。これじゃただの苦行だ。
結局その日は、何事もなくただ歩いて終わった。
冒険二日目
「なあ、暇なんだけど」
「それ昨日聞きました」
アルカは、俺の言葉にもううんざりだと言った様子だ。もはやこっちに顔を向けてくれすらしない。
途中、セルシカが矢で飛翔馬を仕留め、肉を剥いで持ち運べるように燻製にしたが、それ以外は特に何もなかった。
一つあったと言えば、あまりにも静かだから後ろを見ると、オームが干からびてミイラ化しそうになってた事ぐらいかな。
結局また、ただひたすらに歩いて一日が終わった。
冒険三日目
「なあ、暇なんだけど」
「さっきからそれしか言ってないじゃないですか! なんですか、だったら急に地面から巨大なバケモノでも出ろというんですか!」
やっと振り向いてくれたアルカだが、さすがに怒られた。
すでに日も落ち始めている。また今日も何事もなく終わってしまうのだろうか。
「ほんと、いっそバケモノでも出てくれたら……」
俺は思わずそんなバカなことを呟いてしまった。
『言葉には魂が宿っている。言葉は口にすることで存在として認識されるようになる』
どっかの占いがよく当たる同級生の顔が思い浮かんだ。
突然、地面が激しく揺れ始めた。立っていられず、思わず尻餅をつく。
「で、でたああああああああああーーーーーーーーーー!」
俺の発言のせいなのかはわからないが、俺が想像した通りのアホほどでかいムカデのような物が地面から這いずり出てきた。俺達の事を視認するなり、何メートルあるのかわからない巨大な体をくねらせながら。こっちに向かってくる。
「ほらあああああああ! シュートが暇とか言うからですよ!」
「いいいいいやああああああああ! ごめんなさい! 暇でいいです! 暇でいいですうううう!」
「ちょっと! このままじゃ追いつかれるわよ! 何とかしなさいよ!」
全員全速力で走っているが、少しずつ距離を詰められている。
マズイ、このままでは俺のせいでみんな仲良くバケモノの胃袋行きだ。何とかしなくては。
「カシル! あれ倒せないか!」
「無理に決まってるでしょあんな大きいの!」
「ああ……もうダメだ……俺はここで死ぬんだ…………」
「お前は走ってねーだろうが!」
走ってもいないオームが気絶しかけている。
マズイぞ。カシルでも倒せないとなると、あれを倒すのは俺達には無理だ。
考えろ。このグループに欠点は無いはずだ。
カシルが前線で戦い、セルシカが援護射撃、いざとなったらアルカの能力で戦線離脱……。
そうだ、アルカだ! アルカの能力を使えばこのバケモノをまくことができるんじゃないか?
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ…………。
…………木だ! アルカの能力で空芯木のドアをつけてその中に隠れよう!
すぐに、横を必死に走っているアルカに俺の名案を伝える。
「アルカ! 空芯木にドアつけろ! 中に隠れるぞ!」
「わ、わかりました! あそこの木にしますよ!」
全員でアルカが指差した目の前の木に向かって猛ダッシュ。
「開くことを許可する!」
アルカとの叫び声と共に全員でドアに飛び込み、即座に閉め、荒い息を押し殺しながら人差し指を立てて静かにするように合図する。
「んぐ……ぐぐぐ…………ぐぐぐぐっ…………」
飛び込んだ勢いでそのまま俺の下敷きになり、呻き声をあげようとするオームの口を手で塞ぎ、バケモノがどこかに去っていくのを待つ。
「「「「「……………………」」」」」
バケモノはしばらく周りを探した後、いないと判断したのかどこかへ去っていった。
「……あ、あぶねー、死ぬところだった。ナイス、アルカ」
「ハァ、ハァ、ハァ……つ、疲れました…………ちょうどいいし今日はここで野宿しましょう」
「……………………」
「シュート、オームが息してないよ」
セルシカがオームの顔を覗いて冷静に言う。
やべっ! 強く押さえすぎた! なんか白目剥いてないか!?
なんとかオームを蘇生して、この夜は空芯木の中で夜を明かした。
とりあえず今日は生き延びることができた。
ああ……浮舟が恋しい。
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