第18羽 運ぶ鳥はただのカカポ3

 準備をして自分の部屋を出ると、オームは既にリュックの中に入っていた。


 「はい、これお小遣い。これからまず、みんなでごお昼ご飯食べるけどそのあとは自由行動だから。何に使うかは別に自由だけど、あんまり無駄遣いしないように」


 そう言ってセルシカはみんなに、一人あたり一万ソルドを手渡した。

 おお! 一万! これだけあれば結構色々な物が買えそうだ。


 「辛みトカゲ、辛みトカゲ、辛みトカゲ……」

 「アルカ、辛いものは三千ソルドまでよ」

 「ええっ!? なんでですか! いいじゃないですか別に!」


 もらって一万ソルド札を握りしめながら、欲しい物を呪文のように唱えるアルカに、セルシカが制限をかける。


 セルシカ、ナイス判断だ。こう言っておかないと、こいつは有り金全部辛いものに費やすだろうからな。そんなの使われる一万がかわいそうってもんだ。

 


 五人で宿を出て道に出ると、宿のすぐ前にご飯屋さんがあった。


 「あそこでいいんじゃねえか?」


 幸い席は空いていたので店の中に入り、席についてメニューを見る。


 「お、飛ばず鳥の睾丸の煮付けあるぞ。オーム、お前これ買い戻したらどうだ? 五百ソルドだってよ。お前の金玉安いな」

 「だから! おれはこんな簡単に金玉取られるような鳥じゃねーよ!」

 「すごーい、見たことのない料理ばっか。迷うな……」

 「私はもう決まりました」

 「私もよ」



*   *   *



 「あーおいしかった!」

 

 さすが三大主村、飯もうまい!


 「これからみんなどうするんだ?」


 「辛みトカゲ!」

 「武器を見に行ったあと、食材を買いに行くわ」

 「特にやる事なーい」

 「同じく」


 アルカは辛みトカゲを買いに、セルシカは武器屋に、俺とオームとカシルは、適当に村を散策することになった。

 


 それにしても人が多いな。冒険者らしき格好をした人達はもちろん、普通の若者の数もメラよりも多い。

 うおっ、なんだあのクソ短いスカートは! あれは見てくださいって言ってるようなもんだろ……。

 まったく最近の若者は…………時代が経つにつれてどんどんスカートが短くなっていくな。ほんと、ありがとうございます。


 「おいシュート、おれを下ろせ……」


 若者のスカート事情に厚く感謝し申し上げていると、オームが真剣な表情をして俺に話しかけてきた。

 

 下ろせ? めずらしいな、移動するときは必ずと言っていいほど誰かに背負われているのに。



 …………はっ ……そうか! そう言う事か! オームなら目線が低いからあの短さのスカートならパンツが見えるに違いない。そして、能力で視覚を共有すれば俺にも見える! さすがオーム、どこまでもくずだな。

 

 「見えたら手挙げろよ。視覚共有するから」

 「任しとけ兄弟!」


 俺がリュックから下ろすと、オームは何気ない感じを醸し出しながらターゲットの若者へと近いていく。 


 「ん? なんでオーム下ろしたの?」

 「い、いやー、たまには運動しないといけないかなって思ってさ」

 「ふーん」


 よし、いけるぞ! このままいけば確実パンツ様にお目にかかることができる! 


 そしてついに、オームはターゲットの足元にたどり着き、上を見上げた—―ー—そしてそのままの姿勢で後ろにぶっ倒れた。

 

 おいーーーっ! 見えたら手挙げる手筈だっただろうが! まさかあいつ、見えた喜びで気絶したのか? 一人だけいい思いしやがってあのくそ鳥!


 気絶しているオームを回収し、肩を揺すって叩き起こす。


 「おい、話が違うぞ! 俺まだパンツ見れてないんだけど!」

 「や、山が……」

 「……山?」

 「…………山が……もっこりしてた」


 な、なにいいいー! 山だとっ! あの人、あのギャルっぽい見た目で男なのか!? あぶねー、危うく目が腐るところだった。助かったぜ、オーム。


 「またシュートとオームがバカなことしてるよ」


 気を失いかけているオームに手を合わせて成仏を祈る俺を見て、カシルがあきれた顔をする。

  

 結局、何も買うことなく俺達は宿に戻った。


   

*   *   *



 「何も買わなかったね」

 「カシルは武器とか買わなくて良かったのか?」

 「私は基本爪で戦うからね」


 そう言ってカシルが手を突き出して俺に見せてくる。すると指の先から五センチ程度の鋭い爪が出てきた。


 カシルは擬人化の能力で体がフェレットの身体的長所を残したまま人間になっているので、異様に体が柔らかく、歯を尖らせることもできる。しかも、耳と鼻がいい上に、爪は最大三十センチ程伸ばせるという。能力一つでこんなに汎用性が高いなんて、羨ましい限りだ。 

 それに比べてオームときたら……。


 俺は、スカートの中の衝撃の真実を目にしてしまい、それ以来ずっとピクピク痙攣しているオームを見てため息をついた。

 

 しばらくして、セルシカとアルカが一緒に帰ってきた。帰り道で出会ったらしい。

 セルシカは大量の食材を、アルカは茶色の小包を持っている、中身はだいたい想像できるが。


 「フフフフ、買いましたよ、買ってしまいましたよ。お値段なんと八千ソルド……。今晩の夕飯が楽しみでなりませんな。フフフフフ……」


 なんでこいつは、夕飯にそれを使う前提で話しているんだ? 絶対使わせねえ。

 規定の値段以上の辛い物を買って、セルシカに怒られているアルカを見ながら、俺は心の中で硬くそう誓った。

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