第17羽 運ぶ鳥はただのカカポ2

 「では、五名様、三泊四日で七万五千ソルドになります」

 

 セルシカが受付の人に言われた金額を払い、鍵を受けとる。

 

 三泊四日で七万五千ソルド、一人一泊五千ソルドか。日本だとビジネスホテルぐらいの値段だな。

 てことは、ユニットバスか! そんなの事件が起きないはずがない。後でオームと作戦を練ろう。


 「お部屋は三階の一番奥の部屋、三〇一号室でございます。ごゆっくりどうぞ」


 エレベータはないので、階段で三階まで上がり部屋へと向かう。

  

 ユニットバス、ユニットバス、ユニットバス、ユニットバス…………。


 心の中でユニットバスである事を祈りながら鍵を開け、部屋に入ると、


 「「「「「はああああ!?」」」」」


 そんな俺の願い一瞬で吹き飛んだ。

 部屋の前で固まる一同。


 目の前に広がったのは、ビジネスホテルなんて言ったら怒られそうなほどだだっ広いリビング。天井には巨大なファンも付いている。

 

 部屋広! 五人ででこの広さ!? しかもお値段ビジネスホテル並みなのに!?


 「わー広ーい! すごい、扉が九つもある!」


 カシルが一番に部屋に入り、子供のようにはしゃぎだす。

 丸い形をしただだっ広いリビングには、巨大なソファーにテーブル、それにキッチンや、今は時期的に使わないが暖炉なんかもあり、廊下へのドアを含めた合計九つの扉とベランダへ続く窓がある。

 扉はそれぞれ、五つの部屋、廊下、風呂、トイレ、洗濯場につながっている。

 窓を開けベランダへと出る。

 これまた広いベランダだこと! 日当たりもいいし洗濯物がよく乾きそうだ。

 

 「おい! いつまで俺を背負っている気だ! 早く下ろしてくれ!」


 オームが、背負ったまま部屋を見て回ろうとする俺にドッグランに来た犬のように下ろせと急かしてくる。

 

 すっかりオームの事忘れてた。

 俺がリュックから下ろすなり、オームは鳥とは似つかわしくない走り方で、カシルと一緒に部屋を探索し始めた。


 「おいおい! 個別の部屋も俺の家よりも広いぞ! 決めた! やっぱりおれここに住むわ!」


 ここが一人五千ソルドとは……。メラで服や食料を買った時は、単位が変わっただけで日本の円とあまり値段の数字は変わらないと思ったのだが、宿だけが異様にお安い。これも冒険者が多い国ならではということか。


 「部屋決めしよう!」


 一通り部屋の中を探索し終えたカシルが提案した。

 

 部屋決めだと? 

 …………待てよ、五つの部屋は全て隣り合っている。ということは男子、女子の順番で交互に入れば両側が女子の部屋になるではないか!  

 オームの方に視線を向けるとオームもこちらに視線を向けてきた。どうやら俺とオームの思考回路は似ているらしい。もはや能力を使わずとも意思疎通ができる。


 「俺たちはもう決まってるから、あとはそっちの三人で決めてくれ」


 そう言って足早に俺は左から二番目、オームは右から二番目の部屋へと向かう。


 「バカね。あんたらの考えはわかってんのよ。男の部屋は右側の二つの部屋よ」


 くっそ! セルシカめ……。浮舟の時といい、こいつは感づくのが早い。

 仕方ない。こうなったら片側でも女子の部屋の隣になるように、右から二番目の部屋に行くしかない!

 急いで方向転換し、右側の部屋へと向かう。しかし、それはオームも同じだ。


 「おいおいおいおい、なにしてんだシュート。ここは俺の部屋だって決めたろ?」

 「馬鹿野郎。俺が左で、オームが右って言ったんだろ。ほら、右の部屋一つ空いてんぞ」

 「女子の方々の気持ち考えてみろ。隣がお前みたいな芋くさい男、いやに決まってんだろ?」

 「お前みたいな鳥くさい方が嫌に決まってんだろ。いいからここは大人しく俺に譲れ」


 「はいはい。いつまでもアホなことしてないで、ジャンケンかなんかで決めちゃいなさい」

 

 しょうがない、やってやろうじゃねえか!


 「いくぞおおおおおお! ジャンケン――――」


 

  


 WIN!


 「いーよっしやああああああああああーーーー!」

 「くそがああああああああーーーー」


 こうして死闘を繰り広げた後、部屋は右から順番にオーム、俺、カシル、アルカ、セルシカの順番になった。

 次の目的地のことについては明日決めることにして、今日はムーブの村を観光することにした。

 各々、自分の部屋に荷物を置き、外に出かける準備をする。

 個人の部屋もかなり広かった。高校の寮の部屋よりも広い。

 

 チッ……。ベッド、オーム側の壁沿じゃねえか。


 「シュート、準備できましたか?」


 ドアの向こうからアルカの声がする。


 「あーー今行く」


 ムーブ村での生活、一日目が始まった。

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