第15羽 冒険する鳥はただのカカポ4
セルシカの家を出た俺達は、オームの家とは反対側の村の出入り口に向かった。ムーブへは、国が運営している『
浮舟乗り場へと向かう道中。
「この世界って一応人間の世界だよな? よく鳥一羽で今まで生きてこれたな」
村の中を歩きながら、俺はオームに今までどうやって暮らしてきたのかを尋ねた。
俺はふと疑問に思ったのだ。
背負われないとろくに移動もできないようなオームが今までどうやって生活してきたのかを。
村の中には動物がいないわけではない。なんならついさっきもアリクイとすれ違った。
が、その動物の隣には必ず契約相手の人間がいる。一匹で買い物してる動物などいない、というか普通動物は買い物できないはず。オームがイレギュラーなだけだ。
俺は左を振り返り、自分の顔のすぐ横にあるのオームの顔を今一度まじまじと見る。
…………ただの鳥だな。こんな契約相手のいないただの鳥を相手してくれる人がいるとは思えん…………。
もし日本で鳥が一羽でうろついていたりなんかしたら、養鶏場から逃げ出したと思われてそのままK〇C行き確定だろう。
もちろん、この国にはK〇Cなんてものはない。
でも、いくら日本とは違い能力がある世界とはいえ鳥一羽で生きていけるほど世間は甘くないはずだ。
俺の考えが顔に出ていたのだろうか、オームがやれやれと呆れた顔で説明をする。
「シュート、お前鳥なめすぎ。もしかして、いままでおれが拾った金で生活してきたとか思ってんの? 言っとくけどおれ普通に働いてたからね、給料もちゃんと貰ってたし。なんなら現場で、『便利屋のオーム様』って呼ばれてみんなに引っ張りだこだったんだぞ。」
「便利屋ですか…………」
「それって…………」
「要するに…………」
「パシリじゃねーか。いいように使われてただけだろ、それ。つうか、スゲーなこの国。身分の曖昧な鳥ですら雇ってくれるか。まあ、飛べない鳥に出来ることなんて精々雑用ぐらいだろうがな」
「四人揃って初日からおれに喧嘩を売るとはいい度胸じゃないか。今回は特別に見逃してやるが、今後口には気を付けるんだな。空から放たれる疾風の一撃『イーグルストライク』でのうしょうをぶちまける事になるぞ」
お前のは陸から放たれる鈍足の一撃だろ。
その後も自分の技を中二臭い技名と共に解説してくるオームをフル無視し、浮舟乗り場へと到着した。
一ヶ月に二本しか出ないという事もあり、浮舟乗り場はたくさんの人であふれていた。電車の駅に近い感じだ。
「えー間もなく二番線に浮舟五号、ムーブ行きがまいります。危ないですから白線の内側でおまちください」
おい、マジでこれ電車くるんじゃねえのか? 耳馴染みのあるアナウンスすぎるだろ。
どんなものが来るのかと、浮舟が来る方向に目をやると……まんま電車が来た。窓が大きめな木で作られた電車だ。どこからどう見ても電車だ。全部で六台ある。
だが、一つだけ電車と違う箇所があった。車輪がない。浮いているのだ。
「おい待て、これ浮いてるぞ!」
「浮舟は、ムーブ村の村長の能力で動いているんです。この国の浮舟は全て、その村長一人が動かしているんですよ」
当たり前かのようにアルカが説明する。
はああ? 一人で!? どんなチート能力してるんだその村長。
人の流れに身を任せて浮舟に乗り込む。
中は……し、新幹線……。
通路を挟んで右に二席、左に三席、背もたれ付きの座席が配置してある。上には荷物を置く網棚のようなスペースもある。どうあがいても新幹線にしか見えない作りだ。
通路を通って奥に行き、背負っていたリュックをオームごと二席の方に放り投げ、三席の方の真ん中に座る。
おお、座り心地はなかなか悪くない。
「ちょっと、なんであんたがそこに座ってんのよ。あっちでしょ」
セルシカがオームの隣を指差す。
チッ……俺の、こっそり両手にバラ作戦が失敗した。
仕方なくオームの隣に座る。
「プププ、ようこそ男の園へ」
口を手で押さえ、笑いを堪えているオームが俺を小バカにしてくる。
こいつは、出発したら窓から捨てよう。
「二番線、浮舟五号ムーブ行き、発車しまーす」
やっぱりこれ電車だよな?
アナウンスの間の開け方が駅員すぎるだろ。
聞き慣れたアナウンスと共に浮舟が発車した。電車より少し遅いぐらいの速度だ。後ろのメラがどんどん小さくなる。
ムーブまではおよそ六時間程度かかる。窓から外を見ると、見渡す限りの草原が続いている。まるでサバンナのようだ。
お、遠くで馬が走ってるな。野生の動物園みたいな感じでいいな————ええええええええええっ! と、飛んでる!?
飛んだのだ。さっきまで普通に走っていた馬が急に飛んだのだ。
あれはまるでユニコーン……ではない。
ダ、ダセェ……。翼の位置、微妙すぎるだろ……。
鼻の横に大きな翼、お尻の辺りに小さな翼がついている。
せめて翼の大きさが逆だったらな……。あれだと鼻毛で飛んでいるようにしか見えん。
「おい、なんだあのちょっと残念な生き物は」
「ん? なにあれ? 気持ち悪!」
オームは使い物にならないので、通路を挟んで隣の席にいるカシルに聞いてみる。
「あれは
「え、じゃあ今こっち襲ってきたりしないのか?」
「それは大丈夫。スレプトの村長さんが浮舟が通る道の周りに、吸うと強力な睡魔に襲われるガスを張り巡らせているからね」
また村長かよ。ということはこの国の浮舟は実質二人で運営してるということか。化け物じみてるな。
外を見てみると、確かに浮舟の通る道の周りには生物らしきものは見当たらない。
変異体か……勝てるビジョンが全く浮かばない。ただの馬にですら勝てるか怪しいのに、ましてや飛ぶ馬。やっぱり戦いは他の奴に任せた方がいいな。俺はサポートに徹しよう。
「シュートの能力じゃ、あの馬にも勝てないかもね。プププ」
いざとなったら、この鳥を囮にして逃げよう。
それにしても、国の浮舟全てを一人で動かしている村長とはどんな人物なのだろう。きっと仙人のような見た目に一人称はワシなんだろうな。あぐらかいて浮きながら移動してそう。
そういえば、ルーカスって奴三人の部下って言ってたな。もしかして三大主村の村長なんじゃないか? ちょうど三人だし、『優秀な部下』って言ってたし。いやでも生きてるかどうかわからないしな……もし敵だったらどうしよ。とりあえず逃げるよね。うん。
そんなことをだらだらと考えているうちにムーブが見えてきた。遠目でもわかる村の大きさ。村は巨大な壁で囲まれているように見える。
「間もなくムーブに到着します。お手荷物の準備をしてお待ちください」
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