第14羽 冒険する鳥はただのカカポ3

 「こ、この話は本当なんでしょうか?」

 

 沈黙を破るようにアルカが言葉を発した。


 「わからない……今のところはね。でもこの話の言う通り、王の姿を見た事があると言う人を私は一人も知らないわ」


 セルシカの言葉にアルカとカシルも賛同するように頷く。


 ――――そしてまた、沈黙に包まれる。

 

 異世界から来た人間にだけ反応する装置。

 はたしてこの世界に俺以外に別世界から来た奴なんているのだろうか。


 脳内でついさっきの出来事がフラッシュバックする。

 

 俺が日本生まれな事を明かした時の女子三人の反応を見るに、異世界から召喚されるというのは普通ならあり得ない事なのだろう。

 もし仮にいたとしても、世間に認知されていないのだからかなり数は限られているはずだ。


 だとしたら、この音声を聞くことができる『鍵』となる人物が少なすぎる。

 もちろん、王側の人間に知られることを避けるために、ルーカスとか言う名前の人があえてそうしたのだろう。

 だが、それを考慮して上でも、メッセージに気付いてもらえないリスクの方が大きいような気がする。

 この装置も人気の無い山の中にあったのだ、たまたまオームが拾わなかったら誰からも見つかることはなかっただろう。

 王に知られる知られない以前に、見つからないのでは意味がない。ましてや自分や部下の身を犠牲にしてまで伝えたかったメッセージ、絶対に誰かしらに伝わるようにできているはずだ。


 …………異世界から来た誰がこの装置に触れるという確証があったということか? 

 この中で異世界から来た奴は…………。

 

 …………まさかの俺? 


 俺は初めてオームと出会った時の会話を思い返す。


「何でだよ! 普通来るか? 来ないよな、来るはずがないだろうがあああ!」

「あれはまあ、一言で言うとミスだな」


 鳥の巣の上でなんで来たのだと泣きながら怒るオームの顔が浮かぶ。


 …………絶対に俺じゃねぇ。

 

 という事は?


 最初は俺に向けられたメッセージなのかとも考えたが、思えばオームが召喚する人は誰でもよかったはずだ。

 つまりこのメッセージは、『異世界から召喚された人物』ではなく『召喚する側』に向けて残された物ということ。

 そうなると『鍵』となるのは…………オーム。

 俺は、すぐ横にいるオーム見る。


 オームはこんな状況にも関わらず、人間が寝癖を気にするような感じで、左肩から一本だけピョンと飛び出た翼をしきりに手で押さえている。


 …………こんな奴が鍵だと…………ないだろそれは…………。


 「ルーカス・ヘドリッチの名前に聞き覚えはないのか?」

 

 俺の問いに女子三人が首を振る。


 「お前らが知らないなら俺が知ってるはずがないよな…………。まさかとは思うが、こっちの世界の人間だったりするのか? そういえばこんな感じの名前のサッカー選手いたような気がするな。あ、違うわ。あれモドリッチだ」

 

 人物に心当たりがないとなると、手がかりが無いに等しい。

 俺は腕を組んで思考を巡らせる。

 俺の考えでいくと、このメッセージはオームに向けた物…………。



 俺がオームにもルーカスと言う名前に心当たりがないか訪ねようとすると、寝癖を直し終え満足げな顔でオームが立ち上がる。

 その拍子に今度は右肩からピョンと羽が飛び出る。


 「…………ほう、この俺に歯向かうとはいい度胸じゃないか、体の主が誰かわかっていないようだな。いいだろう、この圧倒的な力の前にひれ伏すがいい!」

 

 オームが聞いてるだけで恥ずかしくなるような言葉を吐き、自分の右肩に素早く張り手を食らわせる。

 

 いやいやいやいやいやいやい、ないないないないないない。


 自分の右肩と格闘し始めるような奴がこの世界の命運を握る鍵なはずがない。

 もし、オームに絶対的な信頼を寄せてこの装置を託したのだとしたら、ルーカスは相当見る目のない人物に違いない。

 

 そんな事を考え、自分の問いかけにあり得ないと首を振る俺の横で、右肩と格闘を終え次はくちばしが気になり始めたオームが、

 

 「ま、別に目的は変わらないからいいんじゃない? だって、多分その三つの装置って王証神器のことでしょ」


 たいして緊張した様子もなく、くちばしをいじくりながらいつも通りの口調でそう言った。


「でもだったら、知られないように隠したのにどうして王証神器がこの国に知れ渡ってるの?」


 それを聞いたカシルが反論するように口を開く。

 

 カシルの言う通りだ。隠したのに国中に知れ渡っているのはおかしい。だが俺もオームと同じで、その装置はと王証神器のことを指しているんじゃないかと思う。なんとなくだが。


 全員が頭を悩ませる中真剣な表情でセルシカが語り始める。 


 「オームの言うことも一理あるんじゃないかしら。これはあくまで私の考えなんだけど、三人の人間が国に追われながら何かを探し求め、隠したとなれば多少なりとも噂にはなるんじゃない? その噂が形を変えながら今に伝わった。でも王は姿を見せられないので、本当か嘘か断定することができない。実際、王証神器のは国から聞かされたわけじゃなく、いつの間にか知っていたって感じだからね」


 おおー、なかなか筋の通った意見だ。セルシカ、かなりの切れ者である。

 


 その後も全員がポツポツと色々な意見を口々に言うが、それで真実が明かされるわけではない

 ここで話し合ってもしょうがない。とりあえず、この辛気臭い雰囲気をどうにかしなくては。

 俺はなるべく明るい声でみんなに話しかける。

 

 「ここで話し合ってもしょうがない。違う物だったら両方探せばいいし、一緒だったら探す手間が省けるってことでいいんじゃないか? ってことで最初の行き先決めようぜ」

 「…………そうですね、そうしましょうか」


 俺の意図を汲み取ってくれたであろうアルカはそう言うと、立ち上がって自分のカバンから地図を取り出し机に広げた。


 「これがこの国の全体図です。ここが今私たちがいるメラで、ここが王都です」

 

 オームを肩車して机の上に広げられた地図を見る。

 

 ジェーブジェスは丸い形をしていた。時計でいう四の所にメラ、六の所に王都と示してあった。いくつか村が点在しているが、その中でも一際大きい村が三つ、それぞれ三、八、十の位置にある。


 「じゃあ、半時計周りにこの国をぐるっと一周するのはどうだ? そうすればでかい村も通れて情報も得やすいだろうし」

 「いいと思います」

 「いいんじゃないかしら」

 「いいね! 楽しそう!」

 「え、だる」

 

 「よし! じゃあこれで決定だ」

 

 若干一羽変なのがいたが気にしない。この道順で行くことになった。


 「となると最初の目的地は……」

 「三大主村の一つ、ムーブですね」

 「「三大主村?」」


 首をかしげる俺とオームにアルカが説明をしてくれる。


 「『運びの村ムーブ』、『眠りの村スレプト』、『空気の村ブレス』この三つの村の総称です。この国を支えているのはこの三大主村と言っても過言ではないほど大きな村で、三代主村にないものはないとまで言われています。しかも、三人の村長全員が一人で未開の地へ行くことが許されている超強者なんですよ」

 「へー、コンビニで言うセブン、ファミマ、ローソンみたいなもんか。いや、ローソンじゃなくてセイコーマートか…………ポプラの可能性もあるな…………」


 セイコーマートとポプラを知っているだと…………。オームの奴、なんでこんな地方のコンビニ詳しいんだ…………。


 「決定だね! 最初の目的地は『運びの村ムーブ』。いやーいきなり三代主村だなんて、楽しみだなー」

 「…………スリーエフ?」


 …………こいつ絶対日本生まれだろ。

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