第13羽 冒険する鳥はただのカカポ2

 「なあオーム、契約って破棄できたりするのか?」

 「それ現在進行形で契約してる相手に聞くか普通?」


 既に村へ入りセルシカの家へと向かう道中、俺は前から気になっていた事をオームに尋ねた。

 オームは俺のそんな質問にブツブツと文句を垂れている。

 デリカシーがどうのこうの言ってるようだがそんな事は気にしない。

 


 

 ――――契約。 

 

 それは人間と人間以外の物が結ぶことが出来るもの。

 契約相手が動物ならその動物は高い知性を、反対に人間はその契約相手の動物に見合った能力をそれぞれ得る事が出来る。

 また、契約相手が動物でなくても人間側は能力を得る事ができ、一見人間にとってのデメリットがないように感じる。


 …………が、実はそうではない。契約相手によってはデメリットが生じるのだ。

 能力は契約相手に応じたもの、つまり契約相手がザコいとそれに伴って自分の能力もザコくなるのだ。

 俺を見てくれれば一目瞭然だろう。

 さらに、契約者はお互いに長い間離れることができないという。なぜなら死んでしまうから。

 長期間離れたら死んでしまう。そんな意味のわからないルールがあるのに、もし、ろくに考えもせずに馬の合わないザコと契約しようものならその時点でそいつの人生は詰んだも同然である。

 能力がザコい上に、死ぬまで馬の合わない奴とずっと一緒に生活するなんてまさしく生き地獄。

 だから契約は相手選びがかなり重要になってくる。


 俺は問答無用でオームだったけど。

 


 ――――こんな感じで、契約はお互いの利害関係が一致して初めて成り立つものだ


 では、ここで言う人間以外の物の定義とはなんなのだろうか。

 今の所、俺が知っている中で一番驚いた契約者はカシルが出会ったというまち針と契約した男。

 なぜまち針と契約しようと思ったのか気になるところではあるが、そこは一度置いておこう。


 一度落としたら探すのに何時間もかかったというのだからこの世界のまち針も日本と同じ、数センチにも満たない裁縫道具の一種なのだろう。

 それならもっと小さい物、反対に大きい物はどこまでいけるのだろうか。

 小さい物で言えばダニとかノミ、大きい物で言えば象、あとはこの世界にあるかわからないが高層ビルだとか。

 

 …………うーむ。考えれば考えるほど無限の可能性が広がる。

 それと同時に、有無を言わさず契約相手がオームだった自分が気の毒でならない。

 

 「そもそも契約とはなにかがいまいちわからん。どういう原理で能力が発現するんだ?」

 「知らね」

 「…………」

 

 俺、この鳥もうやだ。

 

 

*   *   *



 俺の疑問を『知らね』の一言でかたづけたオームに若干の苛立ちを覚えながら歩き続け、セルシカの家の前にやって来た。

 ドアをノックすると、階段を降りる足音の後に続いてドアが開きカシルが出てきた。


 「お、来た来た、二人以外全員もう集まってるよ。全く、男二人が揃って一番最後なんて、いささかやる気が足りてないんじゃない? アルカなんて、家来た時ものすごい汗だくだったんだからね。たぶん私達を待たせまいと家から走ってきたんじゃないかな」

 「「うんそれたぶん違うと思う」」



 階段を上がり二階のリビングに行くと、案の定唇が少し腫れているアルカと、キッチンでなにやら用意をしているセルシカの姿。

 アルカはいつも通り黒っぽいフード付きのローブを羽織っており、セルシカも狩人のような格好をしている。カシルは動きやすそうな感じの服装だ。この三人の中で一番露出が多い。…………でも、前よりも全体的に露出が減ったな。何故だ? 


 リュックから降りたオームもその異変に気が付いたようだ。二人で舐め回すようカシルの体を見る。

 すると、そんな俺達の視線に気が付いたカシルが、


 「二人ともアルカに聞いた通り変態だね。目付きがいやらしすぎ、そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ」

 

 こちらを見ながらニヤニヤして言う。


 アルカに聞いた通り? 俺は嫌な予感がしてアルカを問い詰めると。


 「なあに、少し事実に基づいた話をしただけですよ。辛い物を食べて汗をかいた私をいやらしい目で見ていた事とか、最初は体目的に私とグループを組んだ事とか」


 ふざけんな、やりやがった! アルカの野郎、事実無根な事を吹き込んで目の保養を減らしやがった! くそっ! しかも、辛い物の事に関してはお前の方がよっぽど変態だっただろうが! 

 

 カシルの後ろに隠れこちらに向かって腫れた唇の間から舌を出してくるアルカに、絶対にやり返すと固く誓い俺は拳を握りしめる。


 


 ――――と、俺は後ろでなにかが動くのを感じた。

 振り返った俺の目に飛び込んできたのは――――。


 「何してくれてんしてんじゃ、このエロ鳥がーーーーーーーーーーー!」


 俺のまつげをかすめ、ソニックブームを放ちながら音速で吹き飛んでいくオームの姿。

 オームはそのまま後方へと飛んでいき、『ゴリッ』という鈍い音とともに後ろの壁に叩きつけられ床に落ちた。

 

 あれは死んだのでは?


 「このくそ鳥、調子に乗りやがって。おしとやかな雰囲気醸し出して損したわ。こんなもんじゃまだ足りないわ。羽全部むしり取って生きたまま解体して煮込んでやる」


 右手の手首を回しながらオームの方をにらむセルシカさん。 


 あれ、セルシカさん? だいぶお言葉が汚いんですけど……雰囲気? 雰囲気ってどういう事ですか? セルシカさんの清楚さは偽りの清楚さではないですよね? あなたは俺の心を浄化してくれる女神ですよね?

 

 「お、いつものセルシカに戻った」


 カシルの言葉が疑いを確信に変えた。セルシカさんの清楚さは偽りの清楚、セルシカさんは今まで清楚な女性を演じていただけだったのだ。


 そんな……うちのグループの最後の砦だったのに……。あなただけは、理想の女性でいて欲しかったのに……。

 俺の心の中で蘇った猿共が俺を嘲笑う。


 くそがあああああああ!


 「まさかここまで変態な鳥だったとは。人の下着を持ち帰ってしかも口を拭くなんて。今後の世の中の女性の為にこの鳥始末した方が良さそうね。カシル、キッチンから包丁取ってきてくれる? 今ここで解体しちゃうから」


 オームを加工肉にしようとするセルシカを、カシルがまあまあと椅子に座らせてなだめる。


 …………下着で口を拭いただと? なんてうらやましい…………じゃなくてどういうことだ? オームはずっと俺の横にいたはずだが、下着なんて持ってたか?


 見ると、カシルにお茶を勧められているセルシカの手に女性の下着らしき物が握られている。


 フリルのような物がついた真っ白な下着…………なんか既視感があるんですけど…………。

 まさかとは思うが、どう見てもあれにしか見えない。

 前にオームが煎餅を喉につまらせて水を飲んでいた時に渡されたあれ。

 

 …………あれ、オームが水飲んだ時にセルシカさんに手渡されたハンカチじゃね?

 いやまさか、そんなアホな。自分の下着とハンカチ間違える奴がこの世にいるとは思えん。

 …………でも、見れば見るほど、渡されたハンカチにしか見えないんですけど。


 「まあまあ落ち着いて、落ち着いて。もしかしたら間違って持って帰っちゃっただけかもしれないし、一回話をきいてみ」

 「パンツとハンカチ間違えるわけないでしょ!」

 

 パンツ片手に憤るセルシカ。

 

 ………………………………今、端の方にシカって文字が見えた気が。

 …………確定ですよね。確実にセルシカのシカですよね? 違う要素が一つも見つからないんですけど…………。

 

 え? 下着とハンカチを間違えたのか? セルシカさん、ハンカチポケットから出してたよな。てことは、ポケットに下着忍ばせてたってことか? 一週間前アルカの家に来た時、オームにハンカチと間違えて自分のパンツ渡したのか!? 


 俺も絶対にあり得ない事だと思う。だが事実、目の前でセルシカさんの手に握られているのは紛れもない女性物の下着。

 

 …………己の正義を貫き、信じてもらえないであろう真実を言うか、このまま黙ってオームに犠牲になってもらうか。



 僅差で後者。すまんオーム。

 

 俺は、俺だけが気付いてしまった真実を早く忘れ去る為に、なるべく明るい声を装ってみんなに提案する。

 

 「な、なあみんな、このグループのリーダー決めないか? 冒険ってのは危険が付き物だ。未開の地に行ったら危険な事がたくさんあるだろうし、そういう時に頼れるリーダーがいた方がいいと思うんだ。って事でリーダーを決め」

 「て、適任がここにいるぞ……」


 説明の途中だというのに、後ろの方で声がする。

 振り返ってみると、床を這いずりながら瀕死のオームが近づいてくる。

 少なくとも今のお前ではないと思うんだが……。



 ――――他に誰もやりたがらないので、結局リーダーはオームになった。


 「では改めて自己紹介をしようではないか! 俺はフクロウオウムのオーム。能力は『軽量化』と『鈍感』、ちなみに飛べない。あ、でも滑空程度ならできる。よろしく!」

 「へー、オームってカカポだったんだね」


 腰に手を当て、堂々たる姿で自己紹介したオームにカシルが反応した。


 ん? カカポだと? その鳥知ってるぞ。確か人間に求愛行動した、弱すぎる絶滅危惧種の飛べない…………似てるな。でもおかしい、オームはフクロウオウムじゃないのか?


 「ま、まあその話は後に……」

 「カシル、どういう事だ?」

 「フクロウオウムはカカポの別名だよ」


 話を曖昧にされないよう速攻で質問する俺にカシルが答える。


 別名…………そういうことかーー!

 オームの野郎、見栄はって別名の方言いやがったな。なんだよカカポかよ、そりゃ弱いわ。日本でも一時、弱すぎてネタにされてたしな。

 

 「ほら、これこれ。うわオーム、図鑑の写真とそっくりだね。もしかして家族?」

 「俺をカカポ名義で図鑑に載せるとは。その図鑑の出版社どこだ、訴えてやる」  

 

 そう言って背表紙を見ようとするオームの頭を強めに叩き、カシルから図鑑を受け取ってカカポのページに目をやる。


 体が大きい、飛べない、緑色、求愛ダンス、敵に遭遇するとなす統べなくフリーズする。


 まんまオームじゃん。


 「な! 出版社が書いていないだと…………」 

 

 恐らく活字印刷などないであろうこの世界の本から、必死に出版社を探すオームを俺は冷めた目で見る。


 なんで俺の契約相手はいつもこうなのだろうか。しかも、ちゃっかり俺より能力の数多いし。


 オームは出版社探しを諦め、そのまま普通に鳥図鑑を楽しみ出した。


 「じゃあ、次は私! 名前はアルカ・ギムテスク。能力は『ドア』と『複唱』。好きな食べ物は…………辛い物! よろしくお願いします」

 「次は私! 名前はカシル。能力は『擬人化』と『手癖』。 好きな食べ物は卵焼き。よろしく!」

 「セルシカ・ミリエルズ。能力は『サイレント』と『追撃』。好きな食べ物は親子丼。よろしく」


 みんな能力が二つある。しかも、名前からして使えそうな物ばかりだ。

 それに比べ俺は弱小能力一つ、笑われるに違いない。


 みんなの視線が注がれる中、俺はゆっくりと立ち上がり、死んだ目をして自分のプロフィールを述べる。


 「名前は若狭修人。能力は『限定共有』、好きな食べ物は焼き鳥以上。無能なのは自覚しています」

 

 暗い声で言い終え、即座に席に座る。


 ――――誰も何も言わない。

 

 あまりの弱さに絶句しているに違いない。今になって俺とグループを組んだことを後悔しているのだろう。もしかしたら、今ここでグループ解散なんて事もあるかもしれない。


 …………泣いていいですか? 



 しかし、みんなが食いついたのは能力についてではなかった。


 「ワカサ・シュート? あんまり聞き慣れない名前ね。シュートはどこ出身なの?」

 

 セルシカが発音しにくそうに俺の名前を言い、出身場所を聞いてくる。

 どうやら全員、俺の能力ではなく名前に引っ掛かるらしい。


 …………なるほど、そういうことか。思えば俺以外全員、名前が日本人らしくない。どちらかと言うと英語圏に住む人の名前に近い。

 こいつらからしたら俺は外国人的な立ち位置だもんな。俺、外国人超えて異世界人だけど。

 

 「ああ、俺この世界の人間じゃないからな。こことは別の世界の日本って言う国生まれだ。ちなみに、育ちは東京だけど、生まれは神奈川」


 俺は嘘偽りなく、自分の経歴をみんなに言う。が、


 「「…………………………………………」」

 「……無能で変態な上に、頭までおかしくなったんですか?」


 セルシカとカシルが俺の言葉の意味を理解できずポカンとする中、アルカが驚くほど辛辣な言葉を俺に投げかけてくる。

 

 え、ええひどくない? 俺そんなに変なこと言った? 聞かれたから答えただけなのにすごい言うじゃん。頭までおかしいって…………別に頭がおかしくなったわけではないんですけど…………。


 「い、いや、本当なんだって。なあ、オーム。俺、日本生まれ日本育ちの健全な高校二年生だよな」

 「健全かは知らんけど、シュートが日本生まれ日本育ちなのは確かだよ」


 俺は、あわててオームに賛同を求めるが、それでもなお女子三人の顔からは困惑と疑いの表情が消えない。全く信用されていない。

 俺は仕方なくここまでの経緯をみんなに一から説明した。


 

 

 ――――話を聞き終えたセルシカは腕を組み、


 「んーー、いまいち信用に欠けるわね。シュートと契約する前はオームには高い知性がないのに、異世界に行ってしかも自ら契約するなんて、そんな事出来るの?」


 俺は今まで疑問には思わなかったが、もっともな事を言う。


 言われてみれば確かにそうだ。ただの鳥にそんな高度な事は出来ないはずだ。

 すると、オームが疑問に答えるようにこう言った。


 「俺、契約する前から知性あったよ」


 流石に俺もこれには少し驚いた。

 

 オームは元から人間と変わらない脳のレベルの鳥だったということになる。

 そんな高度な知能のある鳥なんて、学会に提出したら後生に名が残るレベルのネタだ。

 だがそれなら、オームが働いていたというのも頷ける。雑用だけでなく簡単な事務作業ぐらいは出来るだろう。


 そんな風に俺がオーム実は本当にすごい鳥なのではと思い始める中、俺以外の奴らは驚きなど通り越して言葉を失いフリーズしていた。


 「…………契約する前から知性があった? そんなの聞いたことないし、見たこともないですよ。…………でも嘘をついているようには見ませんね……。そういえばシュート、カフェでお金払うとき、持ち金全部出して『お釣りを頼む』って言ってましたよね。もしかして、通貨が違うから…………ということは本当に? でもどうやって?」

 「全部これのおかげだよ」


 やっとこさ俺の言葉を信じ始めたアルカの疑問に答えるような形でオームはそう言って、リュックから両手で持てるサイズの巾着袋を取り出した。

 全員が口をそろえて何かと尋ねると。


 「落ちてた。ただの鳥だった時の記憶は曖昧なんだけど、確か道に落ちてたこれに触ったんだよね。で、気付いたら知性が宿ってた。今おれが持ってるお金も全部その袋の中にはいってたやつだよ。ちなみに、今はおれの財布になってる」

 

 触れたら知性が宿っただと? て事は、その袋に触れた時点で俺とは別の人と契約が成立していたという事か? いやでも契約は一人しかできないはずだよな…………。 そもそも触れるだけで契約なんて出来るものなのか?


 …………わかんね。とりあえず金を盗みはしていないようで安心した。


 袋を開け、全員で中を覗き見る。お金の中に何か丸いものが埋もれている。俺が取り出そうと手を入れ触れた途端、


 「これを聞い——」

 「うわっ!」

 

 思わず手を離してしまった。


 なんだ、今声が聞こえたな? これを聞いているだとかなんとか。


 「だ、大丈夫ですか!?」

 

 アルカが心配そうに俺の手を見る。手は別に普通だ。


 「なんだ今の声、シュートか? シュートそんなダンディーな声出せんの?」


 意味のわからない勘違いをしているオームが、俺に近づいて喉を覗き見る。

 カシルが、目の前で起こった不思議な現象をオームに説明すると。


 「触ったら声がした? なんだそれ? 俺の財布には、あんなダンディーな声が出る仕掛けはないぞ」

 

 そう言ってオームは袋に手を入れ、なにかを取り出した。

 それは一部分がくぼんだ黒い球体だった。



 音は―ー——鳴らなかった。

 

 あの声は気のせいだったのだろうか。でも俺以外の奴にも聞こえてたみたいだから勘違いなんて事は…………。

 俺は自分の耳を疑いながら、もういちどオームの持っている黒い物体に手を触れた。


 「これを聞いている——」

 「うおおお!」

 

 手を触れた途端声がした、やはり聞き間違いではなかった。

 オームも突然の声に驚いている様子だった。


 どうやら俺が触れると音が鳴るらしく、他の三人も触ってみたが特に反応はない。反応するのは俺だけだ。

 触った感じ、体に異常はない。危ない物ではないと思う。

 すこし不安に思いながらも、最後までこの声を聞いてみようと思い物体に手を触れる。



 「これを聞いていると言うことは君も、私と同じ世界の人間なのだろう。私は、現この国大臣ルーカス・ヘドリッチだ。これから信じられないような話をたくさんするだろうが、どうか落ち着いて聞いて欲しい。


 それはこの国の王についてのことだ。そちら時代ではどうかわからないが、少なくとも今現在まで、王は他の人に姿を見せたことがない。全く人と関わろうとしないのだ。唯一、王と連絡が取れるのは数年一回、先代の王が亡くなり、新たな王が即位した時だけ。その時でさえ、王は『代替わりをした』と一言だけ書いた紙を扉の隙間から差し出すだけ。

 そのため実質、大臣である私がこの国を仕切っている。

 

 私は不思議に思った。なぜ王は自分の国について全く関わろうとしないのか。ついこの間も、この国の名前を決めようとしたが、全く関心を示さなかった。

 私は常々、王に疑問を抱いていた。


 そしてある日、たまたま王の部屋を通りすぎたとき、扉のすぐ向こうに王の気配を感じた。つい出来心で、私は自分の能力である『感情移入』を王に対して発動してしまった。


 真っ黒だった。悲しみや苦しみの上に立つ強大な怒りと復讐心。人間らしさと言うものは全く感じられなかった。

 私は耐えきれずにその場で吐いた。


 その日から私は確信した。王は復讐するためだけにに生きているのだと。その時を待っているのだと。そして私は決意した、王を止めようと。いざとなったら殺すこともいとわない。このままでは王は何かしでかすに違いない。しかし、私一人でどうにかなるとは思えない。私が生きているうちに止めることができるかどうかもわからない。


 そこで協力を頼みたい。

 私は自分の直属の優秀な三人の部下にこの事を話し協力を求めた。三人ともこの国から追われる身になると理解しながら、協力を了承してくれた。この三人にはそれぞれ王の目的、過去、そして止める方法を調べてもらった。そして私が開発した、この世界とは別の世界からきた者だけに反応して音声が流れる装置にボイスメッセージとして記録してもらい、それをこの国のどこかに隠させた。 

 これを聞いている未来の者よ、もし、まだ王が世に姿を出さずにいるのならどうか、私の部下が残したこの装置を頼りに王を止めてもらえないだろうか。少ないかもしれないが、この国の通貨『ソルド』も一緒に入れておく。

 …………時間が来てしまったようだ。どうかこの国をよろしく頼む」


 ここで音声は終了した。


 いきなり告げられた嘘か本当かわからないこの話に、この場にいる全員がしばらく動かず、ただじっとこの装置を見つめていた。

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