第12羽 冒険する鳥はただのカカポ

 修理を終え、カシルから能力の事を聞いたアルカが、目が飛び出してるんじゃないかと思うほど仰天した顔でその場から数歩後退りした。


 「ええええええーーーーーーー! ぎ、擬人化!? 幻の能力じゃないですか! は、初めて見た……」

 「えへへー、ビックリさせたくてさっき話した時は言わなかったんだ。いやーみんないいリアクションしてくれるなー」

 

 俺達の反応に満足したカシルが、嬉しそうにアルカの頭を撫でる。

 アルカは驚きの表情のまま、そこに実在する事を確かめるかのようにカシルの腕をペタペタと触っている。


 「そんなにすごい能力なのか? 確かに便利そうなのうりょ」

 「すごいなんて物じゃないですよ! 擬人化は『代償のない進化』とも言われている幻の能力なんです。もとの動物の身体的長所を残しながら人間になれる能力で、しかも、その能力は成長して得るのではなく、生まれ持った才能でしか得ることができないんです。そのせいで能力を発現する人が少ないので、擬人化の事を迷信だ、何て言う人もいるぐらいなんですから」


 アルカが興奮しながら食い気味に説明をしてくれる。

 

 はーー要するに天才ね。俺とは無縁だ。

 俺は、自分の足元にいる契約相手を見て心が折れそうになる。


 「あ、あのー、一つ提案があります!」

 

 唐突なアルカの声。


 「私達と一緒にグループ組みませんか!」

 

 アルカは俺に説明をした時の興奮状態のまま、上擦った声でセルシカとカシルにそう言った。


 「グループ?」

 「はい! 私達と一緒に未開の地を冒険しませんか? 目的は王証神器です。私、このメンバーならなんだか見つけられる気がするんです! もちろん、今まで通り見つけた宝を売って生活することには変わりないんですが……でも、知らない村に行ったり、楽しい事もたくさんあると思うし、それに……その…………いい運動になります…………」 

 

 段々と自分が言っている事に自信がなくなり、声が小さくなっていくアルカが二人に提案する。

 

 「いいね! 組もう!」

 「「「え?」」」


 俺とオーム、アルカの一言が重なる。


 「この生活そろそろ飽きてきたし。ちょうどこの前のまち針事件の後から、グループ組みたいなーって思ってたんだよね。みんなで未開の地を冒険、楽しそう! てことで、いいでしょセルシカ?」


 即決したカシルがセルシカに尋ねる。


 「いいわね、面白そう。カシルの言う通り、毎回同じ所に行くのも退屈だしね。組みましょう!」


 こちらも即決。

 

 「じゃあ決定ね!」

 「い、いいんですか!?」


 あまりのスピード契約に、自分で提案しておきながらアルカがすっとんきょうな声を上げる。

 たしかに、会社の営業だったら詐欺を疑うレベルのスピードだ。

 

 

 こうしてあっさりとセルシカとカシルがグループに入ることが決まった。これでアルカのドアノブをを含め六人。無事未開の地へと行くことができる人数が揃った。

 なんてこった、ドアノブを除いて五人中女子三人。オームは鳥だし、実質男は俺一人。この国一夫多妻制だっけ? 後で調べておこう。

 

 

 記念すべき出発の日は一週間後に決まった。

 一週間後にまた、セルシカの家に集まる事を決めて俺達は解散した。

 

 俺とオームは帰りがけにユングルの鞄屋に寄り、頼んでおいたリュックを受け取りに行った。

 リュックの出来は完璧だった。左肩からオームの顔が覗くようになっており、右側は、物を入れられるようになっている。能力でオームの体重は調節できるので、バランスが悪くなるということもない。まさしく完璧だ。

 まあ、一つ問題点があるとすれば、オームが叫ぶなりしたら俺の左耳の鼓膜が破れそうになる事かな。


 リュックの出来映えテンションが上がったオームを背負い、俺はオームの家へと向かった。


 「あ、やべっ、カシルさんのハンカチ持って帰ってきちゃった」



*   *   *



 「うーん、どちらも捨てがたい。いや、やっぱりここはけちらずにお高い方を選ぶべきか…………」


 店の中で二つの商品を手に取り、慎重に見比べる。

 右手には黒色のゴツいナイフ、左手には青色のスリムなナイフ。

 うーむ。どちらも捨てがたい。

 

 「真剣に悩んでるとこ悪いんだが、それ本当に必要か? どうせシュート戦わないつもりだろ、他の奴らに任せとけばいいやとか思ってるだろ。ろくに使う機会もないのに買うつもりか? 見映え意識してんなら雑貨屋行ってこいよ。そんな高いのじゃなくても、シュートにはハサミで十分だ。つうかおれの金だし」

 「たまたま金を拾った分際でなに言ってんだ。未開の地にハサミ持って行ってどうすんだよ。いざという時、このくらいしっかりしたやつの方が安心感があるだろ? 大体、俺がこんなに戦闘力低いの誰のせいだと思ってんだ」

 「シュート」


 悩む間もなく即答するオーム。


 相変わらず勘にさわるな、こいつは。



 今俺達がいるのは、メラで一番大きい登山グッズショップ『ラブマウンテンセレクトショップ』。日本で言うところのワー〇マンみたいな感じの店だ。


 冒険に備え、必要なものを買いに村まで降りてきた俺とオームは、まずは服だろうと服屋を探して村を歩き回った。

 しかし、途中でこの店を見つけ、全部ここで揃うのでは? と二人で共鳴し店に入ったのだ。

 常に危険が伴うという面で登山と冒険は紙一重なのだろう、案の定欲しい物が大抵揃う。

 

 オームと二人で男心がくすぐられる商品が大量に並べられている店内を歩いて回り、最初に俺の目に止まったのは――――。

 

 そうナイフだ。 


 壁一面にズラリと並べられた多彩なナイフの前で足を止め、すでに二十分が経過していた。

 

 オームの言う通り戦闘は他の奴らに任せようと思っているが、さすがに手ぶらというのはどうかと思う。

 みんなが必死に戦う中、俺一人後ろの方で何も持たずに声援を送り続けるのはさすがにお荷物過ぎるだろ。

 せめてナイフ片手に応援したい。

 

 結局、悩んでいた二つの物とは全く別物の少し長めな迷彩柄のナイフを選んだ。

 他の買い物も済ませ、お会計をして店を出る。


 「よき買い物だった、見ろよこの美しい光沢のナイフ! …………安心しろ、ちゃんと使うから。このナイフなら野菜も肉も魚もなんでも一刀両断! 料理は俺に任せとけ、華麗なるナイフ捌きですべてをみじん切りにしてやるからさ」

 「ふざけんな。シュートは食材に触れるなよ。…………隠さなくていいぞ、ばれてるから。その大きさはもはやナイフというより短刀だ、どうせ料理なんかしないで腰に付ける気なんだろ、それにゴーグルまで買いやがって。使ってなかったらおれが貰うからな。というかシュート、ファッションセンス無さすぎじゃない? ダサすぎるでしょ。冒険者ってよりか登山家って感じの服ばっかじゃねえか。山にでも登る気か?」


 そう言うオームが買ったのは、紐が付いた首から下げられるタイプの水筒一つ。


 こいつは遠足にでも行く気か?


 大方の買い物を終えた俺達は、帰りがけに雑貨屋に寄り、小物を買ってから家へと戻った。 

  

 


 それから約束の日までの数日、俺はオームに教えてもらいながら時には村にも行き色々な事を学んだ。

 この世界の知識や常識、そして改めてオームの無能さも知ることができた。


 刻一刻と迫る約束の日。

 それにともない高ぶる気持ち。

 不安はなかった。なぜなら、なかなかに強そうな能力を持つメンバーがいるから。

 それに、セルシカとアルカはすでに未開の地へ行ったことがある経験者。

 不安な要素が俺とオーム以外に見つからんな…………。


 そんな事を考え、俺は今日も鳥の巣の上で眠りにつく。



*   *   *



 一週間がたった。



 「うう、ついにこの家ともお別れか……思えば長い付き合いだったな。急に知性を得て困惑していたおれを、雨風から守ってくれたのはこの家だけだったな…………途方に暮れて路肩をさまようおれの前に突然この家が現れた時、喜びで気絶したのも今ではいい思い出だな…………」


 喜びで気絶…………頼りねぇ…………。つうかこの家お前の物じゃないんかい。

 

 家との別れを惜しむオームを背負い、腰に小刀、首にゴーグルを下げ、新調したリュックを背負い俺達は小屋を出た。

 

 外に出て空を見る。


 快晴だ。絶好の冒険日和!


 これから始まる冒険の行く末に胸を踊らせ、興奮と期待を胸にメラへと出発した。

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