第9羽 激辛好きな鳥はただのカカポ3

 アルカとともにユングルの鞄屋に戻ると、ちょうどオームが店から出てくるところだった。

 リュックが完成するのは明日になるというので、明日店に取りに行くことに。


 俺はオームにアルカとグループを組むことになった経緯を話した。

 すると、それを聞いたオームが、リュックの中から耳元で俺に尋ねてきた。


 「おいおい、タイプだからって露骨すぎるだろ。エロ目的なのバレバレだぜ。それに、あの子何歳だ? 下手したら小学生だぞ。いくらここが日本じゃないからって、さすがに小学生はだめだろ」

 「あほ、俺はロリコンではない、勝手に俺を犯罪者にするな。それに、俺は髪の毛は圧倒的ショート派だよ。俺達も探し物してるんだし、ちょうどいいじゃねえか」

 「本当か? そんな事言いつつも、実はシュートの内なるロリコン魂が抑え切れないだけなんじゃないのか?」

 

 「私、一応十五歳なんですけど」

 

 聞こえてた。こちらを卑下する目で見ている。


 「変態」


 アルカはそう冷たく告げ、俺達を置いて先に歩き出してしまった。


 「だってよ、シュート。どんまい、お前の恋は始まることなく幕を閉じたようだな」

 「お前もだろ! つうか、俺はロリコンじゃねえって言ってんだろ!」


 こうして俺達は能力屋に向かうことになった。

 


 「オームって、なんていう種類の鳥なんですか?」


 能力屋へと向かう道中、横を歩くアルカがオームに尋ねる。 


 「フクロウオウムだ」

 「聞いたこと無い名前ですね…………。珍しい種類なんですか?」

 「おうよ! 俺は数の少ない超貴重な鳥だからな、そこら辺のニワトリとは格が違う!」

 「それって、ただ単に弱すぎて絶滅しそうなだけじゃないのか…………イテッ!」


 持論を述べただけなのに、オームに頭をくちばしでつつかれた。


 オームは真っ向から否定してるけど、俺の考えはあながち間違っていないと思う。だってこいつ飛べないもん。


 そんな会話を三人で交わしながら歩き、しばらくすると、能力屋が見えてきた。


 能力屋は、木でできた小屋のような見た目をしている。意外とボロいな。中へ入ると、そこは小さい銀行みたいな感じだ。

 先客だろうか、前に一人女性がいる。ショートヘアの美しい女性だ。

 どうやら彼女も能力を見に来ているようだ。窓口のような場所で人差し指を読み取り機のようなものにかざしている。まさしく銀行にあるやつだ。


 「えーっと、カシルさんですね。新たに、『適応』の能力が追加されました!」


 受付の女性がショートヘアー美女に告げる。

 おおー、こんな感じで能力がわかるのか。

 

 「次の方どうぞ」

 「はっいっ!」


 興奮して思わず声が裏返る。


 落ち着け俺。オームに応じた能力なんだ、あまり期待はしない方がいい。

 期待して、残念だったときの絶望感はハンパないからな。学校で、六限かと思ったら七限だった時の感じを思い出すんだ。

 俺は、自分にそう言い聞かせて、台に近づきゆっくりと右手の人差し指ををかざした。


 「えーっと、初めての方ですね。お名前は……シュートさんでよろしいですか?」

 「はい!」


 来た! ついに俺の眠れる能力が明らかになる。

 


 「能力は『限定共有』一つですね」

 

 興奮と緊張で手が震える俺に、受付のお姉さんは簡単にそう告げた。

 

 …………一つ。一つか……まあ、最初だからな。こんなもんだろう。


 「どんな能力なんですか?」

 「契約相手と視覚や嗅覚、思考などを共有できる能力です。能力が上達すれば、契約相手の動きを完璧にトレースする、なんてこともできますよ」

 「…………」

 「他にも、あまり実用性はありませんが痛覚なども共有でき」

 「すいません。一回死んでまた来ます」

 

 「ちょっと! なにおつまみ感覚で転生しようとしてるんですか! 落ち着いてください、人は転生なんてできませんよ!」


 踵を返して店を出ようとする俺の体に、アルカがしがみついてくる。


 「その手を離せアルカ! なにが限定共有だ、しかもそれ一つ! こんな弱そうな能力で冒険なんてできるか! 俺は生まれ変わってもっとマシな能力を手に入れるんだ! 男にはやらなくてはいけない時があるんだよ!」

 「少なくとも今じゃないことは確かですよ! いいじゃないですか限定共有。使い方によっては化けるかもしれませんよ!」

 

 オームと共有したいことなんて一つもないわ! 

 なんだよ限定共有って。痛覚共有してどうすんだよ。なんだよ、俺はドMってか、おい。喧嘩売ってんのかこの能力は!


 「おいおいシュート落ち着け。そもそも契約相手がおれな時点で察しろよ。ダンス能力じゃなかっただけよかったじゃないか」

 「鳥要素ゼロじゃん! もはやオーム関係無いじゃん! 飛べないことはわかってたけどせめて鳥っぽいやつにしろよ! こんなん契約相手誰でもいいじゃん!」


 オームの諦めさせようとする言葉に、さらに駄々をこねる俺をアルカが必死になだめてくる。


 でも俺はわかってる。俺はもうどうしようもないという事が。アルカの能力と比べれば一目瞭然だ。アルカも駆け出し冒険者なのに、ここまで差があるとは。俺はまだスタートラインにすら立てていないに違いない。


 「ほら、シュート。いつまでそこで倒れている気ですか? 能力もわかったんだし、行きますよ。…………安心してください、能力は一つとは限りませんから。後になって他の能力が発現する事もあります。もしかしたらこの後、空飛べるようになるかもしれませんよ」

 「……………………」

 「……ったくしょうがないな。アルカ、この屍は俺が浮かして紐で引っ張るから。おれのこと背負ってくれ」



 俺の能力が分かった一行は店の外に出た。


 オームの入ったリュックを背負ったアルカが店を出るなり、


 「やだ何かしらあれ、人身売買? 物騒ねー、あんな幼い子供が人身売買だなんて」

 「おかあさん見て、人が浮いてるよーあれ何?」

 「見ちゃ行けません!」

 

 「オーム、周りの人からの視線が辛いんですけど」

 

 道行く人がこちらを見て、ひそひそ話をしながら、時折指を指して駆け足で通り過ぎていく。


 「しょうがないだろ、俺がシュートを浮かして引っ張る、その俺をアルカが背負う。移動するにはこれしかないだろ。まあ、シュートなんて風船だと思って気楽に行こうぜ」

 「…………私、オームとわかり合える気がしません」


 そう言って、通行人に顔を見られないよう、羽織っているローブのフードを深く被るアルカ。

 

 今日はもう帰ることにした。こんなテンションで仲間探しなんてやってられない。今は仲間よりも強い能力が欲しい。


 道行く人に軽蔑の視線を向けられながら、うつ向いて早足で歩くアルカに村の入り口まで運んでもらった。

 村の入り口に着くとアルカはリュックを下ろし、


 「明日も今日に続いてグループメンバー探すので、また来てくださいね。時間はそうだな……十一時でいいですか?」

 「オッケー」

 「じゃあ、十一時に辛辛亭で!」


 オームに笑顔でそう言い、こちらに手を振りながら町の中に消えて行った。


 「……明日は舌にワックス塗って行こう」


 「ううっ、もっと強いのがよかった。……せめて……せめてもっと鳥っぽいやつだったら…………」

 「いつまでウジウジしてんだ。もう決まった事だ、諦めて己の能力受け入れろ。ほら帰るぞ、背負ってくれ」


 さすがにオームに背負ってもらうわけにはいかないので、俺は仕方なく立ち上がってオームを背負い、重い足取りで、日が沈みだした空の中オームの家へと向かう。

 

 帰り道は行きよりも長く感じた。

 

 

*   *   *



 「いやー疲れた。それにしてもやっぱり弱かったなシュートの能力。限定共有だったか? 契約している時点で、ある程度お互いのことは把握できてるのにな」


 家につくなり、オームが他人事のように俺の能力を鼻で笑ってくる。

 

 この野郎……元はと言えばお前が弱すぎる事に原因があるというのに…………。いつかお前より先に空飛んでやるからな!

 

 オームが風呂にしようと言うので、小屋から少し離れたところにある風呂に入った。薪風呂で大変だったが、最高に気持ちよかった。


 風呂の中でくつろぐ俺を見てオームが、

 

 「最近の鳥舐めんなよ」


 いや、鳥は普通風呂入らねえよ。

 

 そうして俺たちは帰り道に村で買ったおにぎりを食べ、昨日と同じく巨大な鳥の巣の上に横たわった。


 明かりなどない真っ暗な小屋の中で、俺は目を閉じ今日という一日を振り替える。


 今日一日だけで色々な事があったな。急に異世界に来たかと思えば契約者が無能すぎて絶望し、自分の能力も弱すぎて絶望し、今現在、服を洗ったので着るものがなく、裸で鳥の巣の上に寝ているので藁がチクチクして寝れずに絶望し…………あれ? 絶望多くない?

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