第5羽 生意気な鳥はただのカカポ2
契約が成立するなり目の前の鳥は、かなり興奮した様子で俺に名前をくれと頼んできた。
フクロウオウムじゃないのか? と疑問に思ったが、それは名前ではなく種類だと怒られた。なるほど、確かに同じ種類の野生動物にペットのような固有の名前はないな。
「とびっきりかっこいいのにしてくれよ!」
興奮して翼を羽ばたかせながらお願いしてくる。
そんなの自分で考えればいいと思うのに。契約相手に決めてもらわないと意味が無いらしい。
名前か……教育番組に出てくるような可愛い名前しか思いつかない。かっこいい名前だろ…………でもこの生意気な鳥にかっこいい名前は勿体無いな。かといってダサい名前も嫌だしな。
『契約相手の名前は何ですか』と聞かれて『北京ダックです!』とか答えるのはこっちが恥ずかしい。
一緒にいて恥ずかしくない名前か……。
どうしても思い浮かばないので、時間をくれたら世界一かっこいい名前をつけてやる、と適当に濁しておいた。
さて、めんどくさい名前つけるのも適当な理由で濁したし、とりあえず村のほうに行ってみようかな。さすがに腹が減った。それに喉も乾いている。
「とはいっても、呼ぶ時不便だからな、仮の名前つけるか。そうだな……オームでいいか」
「却下」
「じゃあ、やきと――」
「オームでお願いします」
俺はオームと共に、村に行くことにした。出発の直前、鳥は迷彩柄のリュックサックを持ってきた。
何だ? 何だこのリュックは。サイズはちょうどオームが入るくらい……ハッ! まさか。
俺の予想通り、オームはいそいそとリュックの中に入っていく。
あろうことかこの鳥は、俺に背負ってくれとお願いしてきたのだ。
ふざけんな! なんで手伝ってあげてる側が背負ってやらなくちゃいけないんだ。やってられるか。
リュックの中で、期待の目でこちらを見つめてくるオームを無視して外に出ると、オームもリュックを持って、慌てて俺の後に続いて外に出た。
外は雲一つない快晴。長い間、鳥臭い所にいたから、小屋から出て外の新鮮な空気を肺いっぱいに吸ったら気持ちが晴れた。なんだか空をも飛べそうな感じがした。ほんと、空でも飛べたらいいのにな……。
………………そうだ!
「オーム、鳥じゃん!」
「鳥ですけど」
「メラまで飛んで行こうぜ! 俺ぐらいなら一緒に飛べるだろ。鳥にしては体大きい方だし」
「いや、おれ飛べないけど」
は? いまこいつなんつった? 飛べない? 鳥のくせに飛べないだと?
「飛べない?」
「飛べない」
「マジで?」
「マジで」
ごく当たり前の事を言っているかのような顔で『飛べない』と断言するオーム。
嘘だろおい、鳥のくせに飛べないだと? 飛べない鳥はダチョウで十分なんだよ! キャラ被ってんだよ馬鹿野郎! やっぱりこいつ、食用肉なんじゃないのか? ダチョウというよりは、ニワトリに近いよな。
そんな俺の心の叫びなど露知らず、ケロッとした顔で俺を見上げるオーム。
いきなりとんでもない真実が発覚してしまった…………。飛べないのかよ……なんのための翼なんだよ…………。
…………待てよ。
暗闇に差し込む一筋の光のように、俺の中に、ある考えが思い浮かぶ。
ダチョウは飛べないが、代わりに強靭な脚力を持っているよな。
ならオームも何か特化した部分があるんじゃないか? 『飛べる』という鳥の一番の特徴を捨てているんだ、あってもおかくない、というかないとおかしい。
でも現に俺に背負ってくれと頼んでいるから脚力ではない。ということは……目か! 視力がいいとか夜目が効くとか。そうだ! きっとそうにちがいない!
「そうかー、オームは目に特化してるのか」
「いや、別に目は普通かな」
「……じゃあ、一体何が出来るんだ?」
「…………踊れます……」
…………む、無能……。あまりにも無能。
飛行能力と引き換えにダンス能力を得たというのかこいつは…………。救いようがねえ…………。
少し責めすぎたせいか、オームは、自分の無能っぷりは自分が一番よく分かってると喚き出した。
なるほど、納得がいった。なぜオームがこんなにも必死に契約者を求めるのかを。
飛べない、足も早くない、おまけに知性が無くなったらそりゃ死んだも同然だからな。さすがに同情せざるを得ないな。
この哀れな鳥に地面を歩かせるのは、さすがに酷な話だ。俺もそこまで鬼じゃない。
仕方なく俺はオームを背負うことにした。
オームの入ったリュックはかなり軽かった。オームにも一応能力はあり、その能力で自分の体を軽くしていたからだ。
なら、それで飛べばよいではないか、翼は一応あるのだし。そう思いオームに聞いてみると、
「コントロールできない」
と真顔で一言。こいつは鳥を名乗ってはいけない気がするんだが……。
一応、契約者である俺にも能力があるらしく、今はまだ分からないが、メラに行けばわかるはずだとのこと。
まあ、オームに応じた能力だからな……期待しないでおこう。
「そんじゃあいきますか!」
俺はオームを背負い、意気揚々とメラに向けて出発した。
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