第3羽 帰り方のわからない鳥はただのカカポ

 「何でだよ! 普通来るか? 来ないよな、来るはずがないだろうがあああ!」

 

 目の前の鳥は、急に怒ったかと思うと、今度は頭を抱えて大声で喚ぎだした。


 来るってなんだ? ハムスターのことなのか? それにここがどこかもまだわかっていない。

 

 「一旦落ち着けって。まず来るってなんだ? もしかしてお前ハムスターアレルギーか?」

 「違うわ! そんなんじゃない! ああもう…………なんで来るのかな…………普通来ないでしょ…………おかしいじゃんそんなの……………………」

 

 怒りから再び絶望へと変わっていく鳥を見て、俺は困惑の表情を浮かべる。


 そんな俺の様子を見た鳥は、突然、鳥は吹っ切れたかのように立ち上がると、コホンと一息ついて俺の目の前に向き直った。


 「来ちまったもんはしょうがない、説明するよ。まず、おれはフクロウオウムだ。名前はまだない。で、ここはメラという村の側の山の上だ。メラはこの国においては、冒険者と商人で栄える、小さめの村という位置づけだ」


 いきなり目の前の鳥がたくさん話をしたので、頭が混乱した。

 フクロウオウム? この国? 

 しかし、俺には目の前にいる鳥が次に何を言うのかを俺は簡単に予測できた。恐らく、別世界とでも言う気だろう。


 「ここはおまえがいた世界とは違う。完全に別世界だ。簡単に言うとお前はおれに召喚されたんだ」

 

 鳥が落ち着いた口調で俺にそう告げる。

 

 ほら当たった。本当にこんな事が起こるとは。意外と恐怖心はない。むしろ少し興奮している。なにせ、何の変化もない退屈な日々を過ごしていたからな。この非日常感が俺を刺激しているのだろう。

 そんな風に考え、口角の上がった俺を見て、鳥が意外そうな顔をした。


 「おや、意外と驚かないな。もっと慌てるか、泣き出すと思っていたんだけどな」

 「こんなもんだろ」


 だが問題もある。それはなぜ俺なのかということだ。目的があってここに召喚されたのならいい。だが、何かの間違いで誤って召喚されたのだとしたら最悪だ。もし、本命の奴が召喚されたら、この世界での俺の位置づけが『モブ』になってしまう。それだけは避けなくては。そうでないと、結局世界が変わっただけで、またあのクソみたいな日々に逆戻りしてしまう。まあ、その目的も死の危険と隣り合わせ、とかいうなら話は別だが。

 

 俺は鳥になぜ俺を召喚したのかを聞いてみた。

 するとどうやら、俺を召喚したのには理由があるらしい。その鳥いわく、動物が人間と契約すると高い知性を得ることができるそうだ。こんなふうに会話したり、複雑に物事を考えることができるのは契約のおかげということだ。

 さらに契約者は、契約相手の能力に応じた能力を得ることができるようになるらしい。

 そうやって契約を結ぶことで、人間は能力を、動物は知性と能力を得ることができるようになる。

 また、契約をした後は生活をともに過ごすらしく、長い間離れていると段々と契約の効果が薄れ最終的には絶命するらしい。


 なるほど、この鳥は自分が高い知性を保つために俺を召喚したのか。

 ちなみに俺がこっちの世界にいる間は、元いた世界の時間は進まないとのこと。


 「俺以外にもこんなふうに召喚された奴はいるのか?」

 「…………そ、そりゃもちろん、うんそりゃね……それはもちろん……いるよ。うん、いるいる」


 待てい。急に語彙力低下しすぎだろ、怪しすぎる。

 鳥を見つめて、再度、きつめの視線で問いただす。鳥は俺と目を合わせようとせず、この世界のどこかにはいるはずだ、と曖昧な返答をしてきた。


 「俺は帰れるのか?」

 「……い、いやだなーシュート君ったらー、君の家はここだろ。ほら、もう帰ってるじゃないか。おかえりなさいあ・な・た♡」

 「ぶち殺されたいのか?」

 「すいませんでした」


 ふざけた奴だ。


 「そもそも、なんで俺の名前を知ってんだ? 教えた覚えはないぞ」

 「そりゃ契約してますから、契約相手の名前くらい、知ってて当然。契約者って言うのは二人で一人、いわば運命共同体! 墓までご一緒させてもらいます!」

 「ふざけんな! 死ぬまでお前と一緒に過ごせってのか!? 齢十七歳にして、残りの人生をよくわからん鳥と一緒に過ごすなんてごめんだね。帰る! 今すぐ俺を元の世界に戻せ!」

 「…………帰り方知りません」

 

  いつの間にか、俺の前に正座している鳥は、床かを見つめたままくぐもった声でそう答えた。


 「…………は?」


 知らないだと? このあほ鳥、返し方わかんないのに俺を召喚したのか。よし、この鳥食おう。


 「たった今、今日の夕飯が焼き鳥に決定した」

 「ま、待ってください。焼き鳥だけは……」

 「じゃあ棒棒鶏」

 「調理法の問題じゃねえよ!」

 「え、タメ口?」

 「すいませんでした…………あの、でも帰る方法がないわけじゃないんです、一応帰れるんですけど……そのーなんていうか条件がありまして…………その条件を探せば帰れるんですけど……なんていうか、そのー…………」


 喋りながらどんどん声が小さくなっていく。ゴニョゴニョ言ってて、後半何言ってんのかよくわからん。


 「ようするに何が言いたいんだ? 簡潔に言え、簡潔に」 

 「…………探すの手伝ってくれません?」

 

 やっぱりこの鳥食べてもいいですか?

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