第2羽 起きない鳥はただのカカポ
「のああああああぁぁぁぁ!」
目を覚まし、隣にいるのがあの夜の鳥だと分かるなり、俺は奇声に近い悲鳴を上げた。
しかし、俺の叫び声で目を覚ました鳥も、こちらの声量の二倍はあろうかという大声で泣き叫んだ。
「ああああああああああっ! 許してください! 何でもします! ほんとに何でもしますからあああ!」
許してくださいだと? なぜ向こうがこちらに許しを乞うのだろうか。
この場においては俺の方が立場が上ということでいいのか?
見た感じ、俺を襲う気は無さそう…………と見せかけて、フェイントの可能性もあるな。油断させておいて、安心して背中を見せたところで俺に飛びかかってくるかもしれない。一応近づかないでおこう。
とりあえず話を聞いてみようと思い、目の前で泣き叫び続ける鳥に、落ち着いて話を聞くようにお願いするが、叫んでばかりで全く会話にならない。
「あああああああああああああ、いやああああああ!」
嫌になるのはこっちの方なんですけど……。もういい、このうるさい鳥は一度放っておいて状況整理をしよう。
ここはどこなのか。少なくとも家ではないだろう。俺は今、藁で作られた巨大な鳥の巣に上にいる。匂いは……ハムスターの匂いだ。周りを見渡すと、ここは小屋の中のようだ。見た目はまるで小学校のウサギ小屋——というよりは鳥小屋に近い。巨大な鳥小屋のような感じだな。
俺は立ち上がって、自分の体の動きの確認のため、その場でラジオ体操を始める。
「いやっ! いやっ! いやあああああああああ……………………いやあああああああああああっ!」
なにこれ面白い。ワンモーションごとに鳥が泣き叫ぶんだが。ちょっと大袈裟にやってやろ。
「いやあああああああああ! いやっ! いやあああああああああ、いやあああああああああ!」
鳥の反応を楽しみながらラジオ体操を終え、体に以上がないことを確認した俺は、改めて小屋の中を見渡す。
小屋の中には鳥の巣以外の物はなく、机や椅子、それに洗面所すらない。テレビを見てみようと思ったが、もちろんそんなものはない。というか、コンセントがない。
…………今、自力で得ることのできる情報はこの程度か。生活感が全く感じられないということだけ。
やはりこの鳥に話を聞かないと何も始まらない。どうにかしてこの鳥に話を……。
「たああーーすけてーーーーっ!」
カチンと来た。
「うっせえええっ! 焼き鳥にすんぞ、このあほ鳥! やかましいわっ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
しかし、そのおかげで鳥は喚くのをやめた。鳥はまるで死んだようにその場に呆然と立ち尽くしている。
とりあえず、ここはどこか、そしてお前は誰なのかを聞こうと質問するが、いくら話しかけても反応がない。
苛立ちながら鳥に近づくと、どうやら気を失っているようだ、その場で突っ立ったまま白目を向いている。。なんて騒々しい奴なんだ。
結局、何の情報も得られなかった。
どうしようか。
小屋から出て遠くの方を見てみると村らしきものが確認できた。どうやらこの小屋は山の上にあるらしく、目の前に小屋から村へと続く一本道がある。
しかし、何の情報もなしに未知の場所に一人で踏み込む勇気は、生憎持ち合わせていない。
仕方なく、鳥が起きるのを待つことにした。今は朝だ。昼頃には起きるだろう。
そう考え、小屋の中を軽く物色しながら俺は鳥が起きるのを待った。
…………だが、それは甘い考えだった。
日が沈みだしても鳥が起きる気配はなく、結局次の日の朝までかかった。俺は、何も飲み食いせずに一日以上待ったのだ。
「……はっ!」
やっと目を覚ました鳥は、起きるなり、忙しなく首を動かして辺りを見回している。
「ここは……」
『ここは……』じゃねーだろうが、お前の家だわ。どちらかというと、それ俺のセリフだから。
俺は、大袈裟に手を挙げて敵意がないことを示し、敵ではないと訴える。
「安心しろ、俺は別にお前を襲う気はない、取って食ったりはしないよ。ただ、話がしたいだけなんだ、敵じゃないぞ」
「……じゃあ…………何?」
『何?』じゃねーだろうが! こっちも急に変な所連れてこられてわけがわからないんだよ! だからお前に話を聞こうとしてたのに、叫ぶやら、気絶するやらで全く話が出来なかったんだよ! あーだめだ、イライラしてきた。
一旦心を落ち着かせて、鳥に今の俺の状況を話す。
「俺にもよくわからないんだ。いつも通り自分のベッドで寝たはずなのに、目を覚ましたら見知らぬここにいた」
――――そんな俺の話を聞いた鳥が、何かに気付いたかのようにハッと動きを止めた。
「どうしたんだ?」
「いやいやいやいや、別に大した事ではないんだけどね。そのーー寝てる時、夢を見たりしたか?」
鳥が、明らかに焦りながら、俺に質問をしてくる。
そういえば見た気がする。
「あー見たな。確か、昔飼ってたハムスターの夢だったな。ジェシーって言うジャンガリアンハムスターなんだけど」
「それで、そのハムスターの夢の中で君は何をしたんだ」
鳥はより一層焦った様子で、続け様に俺に質問をしてくる。
「確か…………原っぱみたいなところにいて…………それで、奥の方にハムちゃんがいたから、駆け寄ってもふもふしたかな。かなり肌触りはよかったぞ」
――――俺の話を聞き終えた鳥の表情が変わった。あきらかに絶望している。ハムスターの事嫌いなのか?
「来んじゃねーよ! あほか、あほなのかお前はああああ!」
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