第14話『姉との夜-前編-』

 夕方になって、お花見は終了した。

 母さんと美紀さんは持ってきたお酒を全て呑んだのでベロベロに酔っ払ってしまった。そのため、花見の片付けは和奏姉さん達に任せ、俺が母さんに、文香が美紀さんに肩を貸して、俺の家まで連れて帰る。

 1階の寝室にあるクイーンサイズのベッドに母さんと美紀さんを寝かせる。すると、2人はさっそく抱きしめ合って眠った。


「徹君……」

「てっちゃぁん……」


 さっそく夢を見ているのか、2人はそれぞれの夫の名前を呟いている。夢の中で抱きしめ合っているのかな。

 2人のことは文香に任せ、俺だけでこもれび公園に戻ると、既に片付けが終わっており、和奏姉さん達が俺の家に向かおうとしているところだった。姉さんは重箱の包み、羽柴と小泉さんはゴミ袋を持っていた。

 小泉さんは自分のエナメルバッグを肩に掛けているので、俺が小泉さんの持っていたゴミ袋を持つことに。

 俺は3人と一緒に自宅へ帰る。小泉さんも一緒なのは、俺の家や文香の新しい部屋がどんな感じなのか見てみたいからだそうだ。

 帰宅して、文香は小泉さんに自分の部屋がどんな感じなのかを見せた。すると、


「綺麗で素敵な部屋だね!」


 と絶賛していた。窓から見える景色についても絶賛しており、それについては俺も嬉しい気持ちに。

 また、隣だからか、小泉さんは俺の部屋にも興味を持ってくれた。なので、小泉さんを部屋に通す。


「男子の部屋って散らかっているイメージがあるけど、結構綺麗だね。あと、本とかCDとかBlu-rayの量が凄いなぁ。さすがは速水君」


 意外と好評価だった。1年生の間に、小泉さんにも漫画やアニメ好きであると伝えていたからかな。

 羽柴と小泉さんが家を後にし、俺は文香と和奏姉さんと一緒に重箱を洗うなど、お花見の後片付けをするのであった。




 美紀さんが酔っ払って家で寝ていると文香が伝えていたため、父さんと哲也おじさんが一緒に家に帰ってきた。

 哲也おじさんに起こされた美紀さんは、昼寝のおかげか酔いが結構醒めていた。


「今日のお花見は楽しかったわ。また明日ね」


 と言って、美紀さんは哲也おじさんの腕を嬉しそうに抱きしめ、帰宅していった。

 夕ご飯は俺が作る。父さん以外は夕方までお花見で飲み食いをしていたので、さっぱりしている温かい山菜そばを作った。

 文香が住み始めてから食事を作るのは初めてだ。だから、緊張もしたけど、


「美味しいよ、大輝」


 と言ってくれて嬉しかった。

 夕食後、俺は夕ご飯の後片付けをして、文香がお風呂の準備をする。こうやって同じ時間に別々の家事をしていると、一緒に住んでいる感じがしていいなと思う。

 片付けが終わり、みんなの分の食後の日本茶を淹れたときに文香がキッチンに戻ってきた。


「あと10分くらいでお風呂に入れますよ。和奏ちゃん、今日は大輝と入る予定なんですよね」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、先に入ってください。和奏ちゃんは年末年始以来の帰省中なんですから」

「フミちゃんが一番風呂でかまわないよ。大輝もそれでいいよね?」

「ああ、いいよ」

「……では、お言葉に甘えて一番風呂をいただきますね」

「うん! まあ、大輝とフミちゃんさえ良ければ、昔みたいに3人一緒に入ってもいいけどね」

「な、何言っているんですか! 入るわけないじゃないですか! 大輝と私の年齢が一桁の間ならまだしも、もう高校生なんですから……」


 もう、と顔を真っ赤にして言う文香。そんな彼女の反応もあって、全身が熱くなり、ドクンドクンと心臓の鼓動が伝わってくる。

 お泊まり自体は文香と俺が小学生の間はよくしていたけど、3人で一緒にお風呂に入るのは……俺達の年齢が二桁になってからは一度もない。


「文香の言う通りだよ。小さい頃は何度も入ったけれど、もう高校生だからね。今夜は俺と2人で入ろう」


 文香とお風呂に一緒に入りたくないと言ったら嘘になる。俺も男だし、正直、今の文香の体つきがどうなっているのか興味はある。ただ、今の彼女との関係じゃ一緒に入ってはダメだと思う。それでも、入るわけないと文香にきっぱり言われてしまったことに、切なさをちょっと感じた。


「うん、分かった。じゃあ、今夜の一番風呂はフミちゃん。次に大輝とあたしが入る形にしようか」

「それがいいかと思います。徹さんと優子さんはどうですか?」

「私はそれでいいよ~」

「まだ優子の酔いが残っているから、3人が入った後に優子と一緒に入るよ。僕らのことは気にせずに、ゆっくりと入浴してきなさい」


 穏やかな口調でそう言う父さん。母さんは美紀さんとたくさんお酒を呑んだからなぁ。万が一のことも考えて一緒に入るのだろう。

 それから程なくして、お風呂が沸いたことを知らせるチャイムが鳴ったので、文香が入浴。

 文香がお風呂から出てくるまでの間は、自分の部屋で和奏姉さんと一緒に昨日録画したアニメを観ることに。その作品は姉さんも観ている作品だったので結構盛り上がった。

 アニメ1話分を観終わった頃、お風呂が空いたと文香が教えてくれた。なので、和奏姉さんと俺は必要なものを持って、1階の洗面所へと向かう。


「お正月以来の大輝とのお風呂だっ!」


 和奏姉さんはワクワクした様子で服を脱ぎ始める。

 一応、和奏姉さんに背を向けて俺も服や下着を脱ぎ始めていく。


「正月のときには、今年の年末辺りまで一緒に入らないと思っていたんだけど」

「そうなの? 夜になると寒いし、大輝と一緒にお風呂に入りたくてさ。それに、年末年始の帰省でお風呂に入ったとき、今後帰省したときには一度は大輝と入浴したいって心に決めたんだよ」

「……そうか」


 もし、俺が大学生になってもここに住んでいれば、あと数年は定期的に和奏姉さんとこのお風呂に入ることになるのか。

 あと、帰省中に一度は弟と一緒に入浴したいっていうのは、相当なブラコンだと思うのですが。これでも、『ナンパされたときに強烈なブラコンだと嘘をついている』と本人は言っているんだから凄い。姉さんは何をすれば強烈なブラコンだと自覚するのだろうか。


「でも、大輝が誰かと付き合い始めたら、さすがにあたしと一緒に入るのはまずいかな」

「へえ、姉さんもそういう考えをちゃんと持っているんだな」

「その言い方は失礼だなぁ。傷付いた。罰として、お姉ちゃんの豊満おっぱいに顔を埋められて窒息死するのと、フミちゃん上がりたての湯船に沈められて窒息死するのとではどっちがいい?」

「死ぬのは避けられないのかよ。どっちも嫌だな。あと、傷付いたのなら申し訳ない」


 ただ、文香上がりたての湯船という部分だけは、甘美な響きがあった。そういえば、文香がお風呂から上がったばかりだからか、洗面所にいてもボディーソープの甘い匂いが感じられるな。ちょっとドキドキしてきた。


「その言葉で許してあげよう。あと、付き合う相手が文香ちゃんだったら、あたしが一緒に入るのも許してくれそう」

「他の女子と付き合うよりは許してくれる可能性は高そうだな」


 文香と恋人同士になれば、また和奏姉さんと3人で一緒に入浴することがあるかもしれないな。


「ねえ、大輝。今回も髪を洗いっこしようよ!」

「ああ、分かったよ」


 和奏姉さんは髪を洗うのがとても上手だから、今回も洗ってもらおう。洗ってもらっている間に背中や脇腹に変なことをされないかどうか不安だけど。

 お互いに服と下着を脱ぎ終わったので、俺は和奏姉さんと一緒に浴室の中に。すると、ボディーソープの匂いが更にはっきりと香ってくる。


「姉さん、どっちが先に洗う?」

「大輝の髪を先に洗ってあげるよ」


 そう言う和奏姉さんの指の動きが何とも怪しげ。髪だけじゃなくて色々なところを洗われそうで心配だ。


「分かった。じゃあ、髪を洗ってください。お願いします」

「髪を強調して言ったね。変なことはしないから安心して」

「本当に変なことはしないでくれよ。そんなことをしたら、今後しばらくは帰省しても一緒にお風呂に入らないから」

「髪をしっかりと洗わせていただきます!」


 やる気に満ちた表情になり、敬礼のポーズを取る和奏姉さん。高校1年生も終わる今になって、姉さんをコントロールする術を一つ身につけられたな。

 バスチェアに座り、和奏姉さんに髪を洗ってもらい始める。

 一人で入浴し、自分の髪や体を洗うのが当たり前になったからこそ、誰かに洗ってもらうと凄く気持ち良く感じる。たまに、背中に柔らかいものが当たるのも気持ちいいけど。


「大輝、どうかな?」

「凄く気持ちいいよ」

「良かった。じゃあ、こんな感じで洗っていくね」


 鏡越しで見ると、年末年始以来の入浴だからか、和奏姉さんはとても楽しそうに俺の髪を洗っている。今年で20歳になるだけあって姿は大人らしくなったけど、楽しげな表情は昔から変わらない。

 小さい頃から、楽しそうに俺の髪を洗っていたよなぁ。3人で入ったときは、文香の髪も洗ってあげていたな。俺とは違って文香は茶髪だから興奮していたときもあったっけ。


「そういえば、昨日……文香と一緒に風呂に入ったときも、こうして髪を洗ってあげたのか?」

「うん! フミちゃんと入るのはひさしぶりだったから、髪だけじゃなくて背中も洗いっこしたよ。楽しかったなぁ」


 そのときのことを思い出しているのか、和奏姉さんはとても幸せな様子に。姉さんと文香は小さい頃からずっと仲がいいし、ひさしぶりにお風呂に入ったら楽しい時間になるのは当然か。


「楽しかったなら良かったよ」

「うんっ! 今の話を聞いて、背中も洗いっこしたくなっちゃった?」


 ニヤニヤしながら訊く和奏姉さん。そんな姉さんを見た瞬間、この流れで背中を洗ってもらうのは危険な気がした。


「今回は髪だけで十分だ。これが人生最後の入浴じゃないだろうし」

「そうだね。じゃあ、今回は髪だけにしよう。髪も十分に洗ったから、そろそろシャンプーの泡を洗い流すよ。目を瞑って」

「ああ」


 和奏姉さんの言う通りに、俺はしっかりと目を瞑る。すると、それから程なくしてシャワーの温かいお湯が頭にかかってくる。今の時期は夜になると寒い日が多いので、温かいお湯がとても気持ちいい。

 髪を洗った後はボディータオルを使って、自分で体を洗う。その間、背後で和奏姉さんが俺のことをじっと見ているので、ちょっと不安な気持ちになってしまった。

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