第21話 とあるバイトでの出来事

 色々なことがあったが、心愛さんの誕生日から数日が経過した。今日は日曜日、俺と心愛さんのシフトが入っている日だ。


「いらっしゃいませー」


 俺は入店してきたお客様に、軽く頭を下げた。もちろん営業スマイルも忘れずに。


 シフト初日はありとあらゆる面で散々な有様だったが、それ以降の心愛さんの指導のおかげで着実に様になってきていた。


 まずはレジ打ち。


 以前はまともに扱うことすら出来なかったが、今となっては容易にこなすことが出来る。


 もちろん心愛さんのおかげだ。


 商品のバーコードを読み取り、会計をするだけといった単純な動作なのだが、これが結構慣れるのに時間がかかった。


 現金払いなら助かるのだが、この現代社会、支払い方法は豊富に存在している。クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどなど、方法が変わる度に対応も変えなければならないので、それらを1つ1つ覚えるとなるとかなりの手間と時間を要する必要があった。


 他には、商品の陣列。


 商品を棚に並べる際、商品名と値段が記載された札を均等にする必要があるのだが、心愛さんはその几帳面さゆえか、かなりここにも厳しかった。


 斜めになってる、間隔開きすぎ、札と商品の場所が一致していないなど、あれこれ注意されてしまった。まぁどれもこれも俺が悪いのだが。


 今となっては、わざわざ確認せずとも商品を棚に陣列することが出来る。たまに新商品などが入荷される時などは、俺が配列を決めたこともあった。


 ……情けないことは自覚しているが、これももちろん、心愛さんのおかげだ。


 他にも掃除の方法や接客態度の基礎などを容赦なく指摘し、今に至っている。


 レジ打ちに限ってはあまりの覚えの悪さに、心愛さんから厳しい言葉を何度も言われた。


 ……これが結構心に刺さる。


 今までにあまり機会が少なかったから忘れていたのだが、“コンビニの女神様”こと葉賀心愛は職場だと、家での優しさがまるで嘘のようなクールビューティーへと変貌する。


 小麦色のストレート髪はひとつに纏め、ポニーテールにしている。そこに丸みを帯びた黒縁のメガネをかけ、知的な雰囲気を醸し出していた。どこかの秘書だと納得してしまうだろう。


 いやこれもこれで可愛いんだけども。


「月島、今空いてる?」

「はい」

「そう。ならちょっと」


 心愛さんはそう言うと俺を休憩部屋へと手招きしてきた。一度店内を見渡してみたが、午後の時間帯には珍しく、人が少なかった。


 俺は小走りで心愛さんの方へと向かった。


「なんですか」

「ちょっと今から私配達があるから、1人でお願い出来る?」

「1人? 細川さんがいるはずですけど」


 細川さんは俺と心愛さんの先輩にあたる人だ。名前とは裏腹に体つきはがっしりとしていて、とても力が強い。茶髪にピアスと、一見ヤバそうな類の人かと思ってしまうが、人当たりがよく、俺にもよく話しかけてくれる。


「細川さんも、私と今から配達。今回結構量が多いみたいだから、2人で手分けするの」

「どれぐらいかかります?」

「2時間で終わると思う」

「……そうですか」

「今の月島なら大丈夫。だってこの私が手取り足取り教えたんだから」


 確かにそうだ。今の俺はあの時より成長しているはず。しかし、あまりに急なことだったで返事を躊躇ちゅうちょしてしまった。


「それじゃ、細川さん待ってるしそろそろ行くね」

「は、はい」

「……もう」


 心愛さんは少しふてくされたような表情をした後、ポケットから猫柄のポーチを取り出した。以前にも見たことがあるような気がする。


 その中から、可愛らしい小動物のキャラクターのロゴが入っているキャンディを取り出した。そして、そのキャンディを包み紙を手慣れた手つきで剥がした。


「はい。……あーん」

「……い、いただきます」

「美味しい?」

「……めちゃくちゃ美味しいです」

「じ、じゃあそろそろ行くね! 待たせちゃうと申し訳ないし」


 そう言うと、心愛さんは慌てて駐車場へと向かった。


「つき……和弥。しっかり頑張ってね」

「分かってます。心愛さんも頑張ってくださいね」

「ありがとね」

「お礼を言うのは俺の方ですよ」

「確かにそうだね」

「……そこは認めるんですね」

「今度こそ、行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃい」


 心愛さんは急ぎ足で駐車場へと向かっていった。


 店内が、しばらくの間静かになった。


 俺は、口の中のキャンディをしっかりと味わい、飲み込んだ。イチゴ味だったのか、独特の甘い香りが鼻を突き抜けていく。


「よしっ!」


 俺は自分の両頬を叩き、気合いを入れ直した。


 ここは1つ、男らしいところでも見せてやろうじゃねぇか。



〘あとがき〙

 ども、室園ともえです。

 あとがきを書くのは久々ですね。なんだか新鮮な気分です。

 それはさておき、ここまで読んでくださっている読者の方々、1つ質問をさせてください。


「この作品読んでいてどう思いますか?」


 アバウトな質問で申し訳ないです。極端な話、面白いか面白くないかってことです。

 最近書いていると、「おいバイト要素ほぼねぇじゃん」とか「両片思いって言ってるけどもう付き合ってんじゃん」などと、矛盾点のようなものを薄々感じていて、「やべぇこれ読んでで楽しいか?」と思ったのです。

 それと投稿主自身、文章力が足りない点もあり、説明不足のためご想像にお任せしている場面も多々あると思います。

 今回は、率直な感想を頂けると嬉しいです。

(もちろん強制ではないですし、スルーしてくださって構いません)


 さて、長々と長文失礼しました。

 よかったら応援や感想、★レビューなどをしてくださると幸いです。

 それでは、また。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る