第15話 先輩からのアドバイス


「なぁ田島、ちょっといいか」


 心愛さんの誕生日を知ってから数日間、女子高校生の欲しがりそうなものを考えてみたが全く検討がつかなかった。さすがに本人に聞く訳にもいかず、様々なサイトや店を見て回ったが納得のいくものは見つからなかった。


 というわけで、和弥の数少ない友人に猫の手も借りたい一心で聞いてみることにした。


「なんだ」

「お前って女子へのプレゼントって何渡してる?」

「なんだ自慢か」

「違うわ。あくまで参考程度に」


 田島は気軽に明るい性格とニュースやアイドルなどの見聞が広いことからクラス内での友好関係は和弥から見てとても良好である。


 女子と話しているところもよく見かけるので、誕生日プレゼントについてアドバイスが貰えないかと思ったのだ。


「お前の場合葉賀先輩しかいねぇだろうが」

「……昔の知り合いだ」

「ふーん」

「何かアドバイスくれると助かる」

「なんか喉乾いたなぁ」

「……何か買ってきてやるよ」

「おぉ♪ 気が利くねぇ」


 わざとらしくパタパタと顔を扇ぐ田島をよそに、和弥は中庭の自販機へと走った。


 最悪学食を奢ることまで考えていたので、幸いポケットの中の小銭は自販機の飲み物1本ぐらい平気で買えた。


 ─────


『まぁまず本人の好きなものが1番だと思うぜ。それか無難に雑貨類とか』


『服とか花とかはやめとけ。気に入らなかった場合処理に困る』


 和弥は田島から得た様々なアドバイスを元に、学校帰りにデパートへと寄り道していた。


「……んなこと言ってもなぁ」


 今和弥の前にある店のはは女子ものの文房具や雑貨品などを取り扱っている場所だ。この中に入れば何かいいものがあるかもしれない。……だが、


「……入りづれぇ」


 その店から漂う雰囲気はとてもファンシーなもので、男子1人ではとても耐えられそうにないものだった。思春期真っ只中の男子高校生が1人で可愛い雑貨買いに来たとなればそこそこ浮いてしまうに違いない。


 しかも買うものが決まっていない以上、長居することになってしまう可能性もある。そんなのはとてもじゃないが耐えられない。


 別に今日無理に買う必要はない。まだ心愛さんの誕生日までは何日か余裕がある。それにまだこの店で買わなければならないと決まった訳では無い。


「仕方ねぇ……今日は諦めるか」


 そうして和弥は渋々帰ろうとした。いや、していた。彼女に会うまでは。


「あれ? 月島じゃん。ここで何してるの」


 そこには、ツインテールに髪を纏め、化粧をしているせいか学校で見た姿より幾分かギャルっぽくなっていた柚木美紅がいた。


「なんか今ため息ついてたけど、なんかあった?」

「……まぁ、色々とな」

「財布落としたとか?」

「……これ」


 そう言って後ろのファンシーな雰囲気が漂う店を指さす。美紅は和弥の意図が分かったのだろうが苦笑し始めた。……いいじゃん恥ずかしいんだよ。


「……つまり、1人でじゃ入りづらいから私もついてこいってこと?」

「別にそこまで言ってねぇよ。そんな迷惑かけられねぇし、俺はもう帰るつもり」

「そうなんだ」

「おう」


 ここで会ったのは何かの縁かもしれないがさすがに迷惑はかけられない。


 そろそろ話を切り上げて帰ろうかと思ったのだが、和弥が帰ることを伝えると、美紅はどこか気まずそうに視線を泳がせていた。


「な、なんか言い出しづらいんだけどさ」

「なんだ?」

「じ、実は私もその店に用事があって……」


 そう言って美紅が指さしたのは和弥がついさっき行くことを諦めた女性向け雑貨店。やはり何度見てもそのファンシーな雰囲気に圧倒されてしまう。


 ……なんか気を使われている気が。


「……そんなわざわざ気を使わなくても」

「別にそんなんじゃない。ただの偶然よ」

「そうか」

「いや『そうか』じゃなくて! 私は行く予定がある、和弥は1人が気まづくて入れない。なら私たち2人で入ればいいじゃない」


 急に声を荒らげてさすがにビクッとしたが……なるほどその手があったか。


「いいのか?」

「えぇ。別に嫌じゃないし」

「……なんかお礼した方がいいか?」

「別に友達だし、そんなのいらないわ」

「優しいなお前」


 聞いてるか田島? お前も少しは見習えこの慈愛心を。


「……何? 口説いてんの?」

「まさか」

「ならいいけど。ほら行くわよ」


 美紅はそう言うとスタスタと店の方へと歩いていった。和弥もその後を追う。


 ……何かいいものがあるといいんだが。


 そんなことを考えながら、可愛いの具現化のような雰囲気を醸し出す店内へと足を踏み入れた。




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