第9,5話② これが俺の青春


「やっと着いたぜ……」


学校のグループトークにあげられていた月島と葉賀先輩の動画。その背景に映っていたコンビニに到着した。付近のポストに特徴的な傷があり、簡単に見つけることが出来た。


自転車を降りて、店内へと向かう。本来なら晩ご飯を買っていくだけなのだが、もし俺の予想が当たっているのなら話は別だ。


「……い、いらっしゃいませ」


そこには誰が見ても明らかなほど表情に影のかかったコンビニの女神様こと、葉賀心愛の姿があった。


「やっぱりな……」


しかし、まだ俺の予想を確信に変えるには材料が断片的だ。下手に予想を立てて的はずれなことをすることなんてのは正直な所誰でも出来る。もう少し確信が欲しい。


俺は何事も無い様子で棚から好物ののり弁を取りレジへ持っていく。もちろん、葉賀先輩の方へ。


「これ、お願いします」


先程取った弁当をレジに置き、カバンの中から財布を取り出す。極端な話、直接聞いた方が一番早いのだが、俺と葉賀先輩は今日が初めての対面だ。会話するとしても、それには月島という仲介人がいない限り馴れ馴れしく話しかけることはまず出来ない。


だから俺は、このという今の立場を利用する。


「すいません、これ温めてくれませんか」


店員と客という立場なのであればどんな形であれ最低限の会話はすることになる。少なからず不可解な行動をすればより俺の考えが確信に近づく。


しかし葉賀先輩は俺の一言に全く反応せず、まるで親に怒られている子供のように俯いて微動だにしない。


聞こえていなかったのだろうか。少し声のボリュームを上げてもう一度話しかける。


「あの〜聞こえてます?」

「すいません!今すぐ!」


再び話しかけた途端に俯いていた顔を素早く下げ、一言謝るとスタスタと電子レンジの方へと向かって行ってしまった。


うむ。なかなかに手強い。都合のいいことに店内は空いているので、軽くコミュニケーションをした後に本題に踏み込む算段だったのだがほとんど無視されてしまっているのが現状。塾に行くというタイムリミットもあるため、長居は出来ない。


この際、深く考え込むより直接聞いた方が早い気がする。というか早い。


少しナンパのようになってしまうのが癪だが、意を決して話しかける。


「あの〜」

「もうすぐ終わりますので少々お待ちください」


あっさり返された。よくよく考えてみれば相手はこの町内ではある程度の名が通った有名人のような存在。対して俺は友達と俺自身のためというひとつ踏み間違えれば言い訳が少しまともなナンパ野郎だ。


それでも俺は諦めない。俺はラブでコメな青春を送りたいのではない。ラブでコメな雰囲気のある奴の友人Aでありたいのだ。俺にとってのそれは月島と葉賀先輩。二人がイチャイチャしているところに軽口を交わせるような青春を送りたいのだ!……なんか凄くくだらない気が。


「お待たせして申し訳ございません」


変な想像に囚われていると葉賀先輩はのり弁を温めて戻ってきていた。これがおそらく会話を交わせる最後のチャンス。ものにしてやる。


「謝らなくていいよ別に」

「いえ。お客様に貴重な時間を取らせてしまったので」

「謙虚だなぁ。あ、ひとついい?」

「……なんでしょうか」


よし、ここまでは順調。俺自身ある程の度コミュ力はあると自負しているので余計に考えなくても何気なく質問のできる環境に持ち込めた。……なんか下手に敬語を使うのも苦手だ。この際タメ口で話そう。


これ以上紛らわしくするのは先輩的にも俺の塾の時間的にも良くない。単刀直入に聞こう。


「和弥と何かあった?」


よしようやく第一関門突破。ここから話を広げて色々聞き出そう……ってあれ?


先輩は手を顔に近づけわなわなと震わせている。顔色も入店した時より悪くなっている。……なんか悪いことしてる気分だ。


「べ、別に何も?トラブルなんて?私と月島くんが?ないない!あるわけない!」

「わかりやすすぎでしょ」


少し込み上げてきた笑いを抑え、分析する。


……今の反応を見る限り動揺が全く隠せていないどころか俺が次に聞きたいことの答えまで言ってくれた。これはほぼほぼ正解ということになるだろう。


「証拠はあるの?証拠は!?」

「俺和弥の名字月島って言いました?」

「うぐっ!?」


本当は少しかまにかけようと思ったのだがまさか自分から暴露してくれるとは思っていなかった。聞いた話では完璧超人だとかなんだとか言われてたけどあれか。根はポンコツ属性をお持ちでございましたか。


さすがに名前も知らない男から色々と言われ続けるのも申し訳ないので、軽く自己紹介をしておこう。これで第二関門突破。


「俺は栄開学園一年の田島です。月島の友達やってます」


先輩は少し納得した様子で、しかしそれでもなぜバレているんだと言った考えを分かりやすく表情だけで伝えてくれている。


さて、もう少し事の発端について詳しく聞くことにしよう。


「……どうしてここに来たの?」

「近くに塾あるので寄り道です」

「どうやって私と和弥のこと知ったの」

「学校で有名だったので」


先輩は俺がそういうと首をかしげ、どこでバレたんだと言わんばかりに考え込んでいる。


おそらくあれこれ話すより、元を見せた方が手っ取り早いだろう。俺はアルバムのフォルダから1つの動画を先輩へ見せる。


「二人が同棲してるの、バレてますよ」

「……!?あなたが撮ったの?」

「学年のグループトークで回ってきました」

「拡散されてるの!?」


これで俺がナンパではないことが証明できた。あとは先輩と月島に起こったトラブルの解決の手助けをする口実を作るだけだ。


「話が逸れますけど、先輩明日時間あります?」

「まだ私は休みだからないことはないよ?」

「じゃあ明日、俺と出かけて貰えませんか」

「……ナンパはお断りします」


それ今一番言われたくないセリフ!ナンパと思われるのが怖くて試行錯誤してたのに無意味になるどころか心にダメージを受けた。


客観視してみれば、俺は今盛大にナンパに失敗した平凡な男子高校生である。いつの間にか増えていた客から視線が地味に集まっているのが痛い。反撃してもいいよね?


「そんなことしませんよ。先輩は和弥一筋ですもんね」

「……そそそ、そんなことないし!?」


……ちょろいなおい。先輩は月島関連の言動には耐性がないようで、動揺が一切隠しきれていない。


時計を見ると塾まであと5分。1時間目は自習だし寝坊したことにしよう。多少の犠牲は厭わない。よし、最後に1つ。


カバンから1枚の紙を取り出し、先輩へと差し出す。


「あ、これ俺の連絡先です。詳しいことはこれで」

「え?私まだいいって言ってないよ!?」

「そろそろ塾始まるのでまた後で!」


多少強引だが俺のやりたいことは全てできた。あとは連絡した通り、頼んだぜ、


俺は自転車に飛び乗り、急いで塾へと向かう。するとあることに気づく。


「……弁当受け取ってねぇな」


話すことに手一杯で晩ご飯を買うという目的を完全に忘れていた。


「タダ働きかよ……まぁそんな役回りは昔っから慣れっこだしな」


少し薄くなった財布をポケットにしまい、薄暗い道を突き進む。気のせいだろうか、突き抜ける風が心地いい。





ーーー


〘あとがき〙

ども、室園ともえです

本編に登場するキャラクターの掘り下げ的なことがしたくて今回のサイドストーリー的なものを作ってみました

葉賀心愛視点と田島裕樹視点、同じ会話だけど内側にある感情の違い、を表現したかったのですがどうだったでしょうか?

もし良ければ感想お聞かせください

余談ですが最後に出てきたおじいちゃんというのはコンビニの店長=田島の祖父といった後付け設定のようなものです

「何言ってんのこいつ?」って方はもう一度9話をお読みください

きっと意味がわかると思います

さて、ここまで長々と長文失礼しました

もし良かったら、感想やレビュー、フォローお願いします

それでは、また

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