第24話 理由

 小川さんの助手に、深田さんの後輩が指名された。

 小川さんの助手ということは、難易度の高い部品担当になるということ。相応の実力を認められたということだろう。


「自分がですか?」

 指名された深田さんの後輩は、顔が嬉しそうだった。


「深田くん、いいかな?」

 小川さんが深田さんに許可を求めていたが、部長の指名を断れるはずがなかった。


    〇


 この騒動以来、深田さんはおとなしくなった。

 そして小川さんと一緒に、助手が来るようになった。藤木ふじきくんと言った。

 私と小川さんが話していると、横で必死にメモをとって聞いている。

 藤木くん、君がいると談笑が出来ないじゃないか。そんなことを思いながら、藤木くんを優しく教育している小川さんを見ていた。


 あの日、どうしていきなり怒ったのか絢芽に聞いた。

 なんと絢芽は、深田さんに言い寄られていたらしい。いつの間に。

 一度一緒に食事に行ったらしい。

 絢芽は彼氏がいるので、同僚としてなら行くと断りを入れて。

 その時深田さんに色々相談されたらしい。


 深田さんは意味も解らずもやもやしていたらしい。

 設計という仕事に誇りは持っているけれども、それだけを重視してしまう。

 その他の気持ちを押し殺して仕事をしている、これを打ち破るきっかけが欲しいけれど勇気がないとか。

 本当は、小川さんが羨ましいのだと言っていたらしい。


 絢芽の持っている空気には「全てを包んでくれる」ようなものがある。

 絢芽に本音を打ち明けたくなる気持ちは解る。


「じゃあ深田さんのためにわざと怒ったの?」

「いや、課長に髪の色をつっこまれてイラッとしたから」

 本当に、絢芽らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る