第23話 部長
絢芽と深田さんはまだ言い合っている。
深田さんはコストと納期を守っている、みたいなことを言っている。
絢芽は、それ以外のことは全部こちらに押しつけている、ということを言っている。
「お前たちはここで組付けていればいいんだろうが、俺たちはコミュニケーション能力も必要なんだよ、外部と直接話すことだってあるんだ」
この言葉で空気が一変した。私たち青森組も、本社から来ている小泉さんたちもざわっとした。
自分の仕事以外を下に見ている発言だ。
私は自分がヒエラルキーで一番下だと思っていても、自分の仕事が不要だとか「ただやればいい」だなんて思っていない。
この仕事は何処か一つが欠けても成立しない。
この仕事だけではない。どの仕事だって無駄な工程なんて存在しないはずだ。
ざわついているのに沈黙している。そんな空気だった。
これを打ち破ったのがデータの牧原さんだった。
「品質基準をクリアする値を出せと言われるが、測定する側にそんなことを言われたって……」
治具担当の人も続けて言った。
「治具にはまらない、はまる位置を考えろと言われる。ほぼ完成してからの作業なのでおしつけられている感はこちらもありますよ」
深田さんは、顔を少し赤くして黙っている。
そこに絢芽が言い放った。
「あと小川さんを小馬鹿にしているのも大変見苦しいです」
私が小川さんを気に入っているので言ってくれたのかと思うが、ちょうど小川さんが来た。
ちょっと気まずい。どこから聞いていたのだろう。
皆が小川さんを見ている。
「僕の部品は本当にややこしくてね、もし気づいたことがあったら教えてほしいな。多分僕が年上で皆言いにくいと思うし」
小川さんは穏やかな口調だった。
「深田くん、きっかけをありがとう」
小川さんの笑顔で終了した。このあとは誰も何も言わなかった。言えなかった。
小川さんは人格者か。かっこいいと思った。
魚津さんは終始びくびくしていたが、最後は感涙していたように見えた。
「ちょうど小川に相談を受けていた所でね。一人助手をつけることにしたよ」
貫禄のある人が突如出てきた。誰だろう。
「部長、おはようございます!」
居室にいた社員が次々にあいさつをした。部長? この人が。
話し方にも貫禄があるし、昔の有名な俳優に顔が似ている。
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