第22話 髪の色
十月になった。
絢芽が髪を染めてきた。金髪に近い色だった。
お客様の前に出る仕事じゃないし、特に髪色の規則はなかった。
絢芽の派手な顔立ちによく似合っていた。
少し遅れて課長が出勤してきた。
電車が遅れたらしい。珍しく余裕のない表情をしていた。
課長が絢芽を見て放った一言が、騒動の発端になった。
「野々村さん、髪の色、明るすぎないか?」
課長はふざけて言ったのか本気で言ったのかは解らない。
元々感情がつかめない人なのだ。
ただ、今日の余裕のない表情は、おふざけに見えなかった。
絢芽がどんな気持ちで髪を染めたのかは解らない。
ただ、少しだけ良くないタイミングが重なっただけなのだろう。
絢芽が叫んだ。
「深田さんなんてシルバーですよ」
最近芸能人がこぞって色んな髪色にしている。
シルバーだったり青だったり緑だったり。
深田さんはそれに乗っかったクチだろう。
そんなことよりも、絢芽が叫んだことに驚いた。
何を怒っているのだろう。
「設計は何をしてもいいんですか? 大体部品が完成したらこっちに丸投げってどういうことですか」
周りがざわついた。
私も何が起こったのか解らなかった。
「問題があると組立て方が下手だとか上手いやり方を考えろだとか全部おしつけられる。物理的に不可能なものをいくら改善しても良くなりません」
絢芽は止まらない。どうしたんだろう。
おろおろしていると、深田さんが見えた。
多分聞いていたのだろう、顔が怒っていた。
「作る前からそっち側の意見を汲む余裕なんかあるか! こっちは計算やら図面やらコストや納期に追われるし営業についていくこともあるんだ」
深田さんも怒鳴っていた。シルバーの髪色が、ちょっと浮いていた。
「まぁ飲みに行く時間はたくさんあるみたいですがね」
中島さんがぽつりと言った。周りに聞こえるか聞こえないかの大きさで。
笑ってしまった。
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