第20話 日常に戻る

 夕方になった頃、そろそろ帰ろうという空気になった。


「今度は新川さんや小泉さんを誘って飲みに行きませんか」

 いつもの笑顔でいきなり言われた。

 どういう意味だろう。私は踏み台だろうか。

 新川さん達を誘いたいけれども高嶺の花だからまずは私、といった所だろうか。

 魚津さんとそのまま笑顔で別れた。


 次の日、見たことのない笑顔で小泉さんと話している魚津さんを見た。

 昨日私と過ごして脈ナシと思い、小泉さんに行ったのかしら。

 魂胆がはっきりした。私は見ないふりをした。

 まぁここで目が合ったとしても「神崎さんに見られた」なんて思うかな?

 昨日、雰囲気に流されて手を握り返さなくて良かったと思った。

 吹っ切れたので仕事に集中出来る。

 魚津さんは今日、私の所には来なかった。


 なかなか組付かない部品がある。

 こういう時は発想の転換だ。文字通り、逆から付けたらどうだろう。

 一気に解決した。中島さんにほめられた。嬉しかった。


 次の日魚津さんはいつも通り私の所に来た。何処かホッとしている自分がいた。

 吹っ切れたといいつつも意識していたのか。日常に戻る


 ある日の午前中、調達の関係で納期の日付けが変わった。締め切りが少し伸びた。

 いつも納期に追われている私たちに初めてのゆとりが出来た。

 現場は過去最高にゆるやかだった。

 私も少しゆとりがあったけれども、ややこしい部品があるので少しでも進めておこうと手をかけていた。

 設計の人はひたすらお喋りをしている。

 他の人たちもお喋りをしている。


 

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