第18話 ふらふら

 九月になって最初の土日、絢芽の彼氏が泊まりがけで遊びに来ていた。

 邪魔しちゃ悪いので私は一人で出かけた。


 アパートから駅まで十分ほど歩く。日曜日なので人が多い。

 良い気候だった。風が心地良い。

 夏休みに買ったキュロットみたいなズボンをはいていた。

 風が吹くと裾のレースが広がって良い気分になる。スカートじゃないので押さえなくていいのも、良い。


 今日は駅ビルで過ごそうと決めた。何処のお店に行こうかとうろうろしていた。

 階段を上っている時、何かを感じて振り向いた。

 大きなスクリーンに、私の大好きな歌手のPVが映っていた。新曲だ。

 哀しいメロディだけれども背中を押す、彼女にしか書けない歌だ。

 地元から離れた土地でも、こんな風に会えるなんて。

 いや、青森にはこんな大きなスクリーンはない。

 都会だからこそ、こんなに大きな画面で会えた。

 見とれていた。私はしばらく動けなかった。

 彼女特有の哀しいメロディが、様々なことを思い出させる。

 そういえば近頃、音楽を聴く余裕もなかったことに気づいた。


「神崎さん」


 誰かに名前を呼ばれた。

 声のする方を見たら魚津さんがいた。

「びっくりしました。何処かに行くんですか?」

 いつもと同じ笑顔で聞かれた。違うのは、制服ではなく私服だったこと。

 魚津さんは、なんだか激しいデザインのTシャツとサルエルのズボンをはいていた。好きだと言っていたメタルバンドのTシャツだろうか。

 サルエルをはいている人はお洒落なイメージがある、意外だった。


「ちょっとふらふらしに来ました」

 とっさのことで、私はそのまま答えた。

 魚津さんも予定がないらしく「良かったら一緒にふらふらしませんか」と言われた。

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