第15話 アナログ

 八月も下旬になったが未だに少し暑い。南は違う。

 魚津さんとは良好に仕事をしている。

 むしろ魚津さんは積極的に現場に来る。いつも笑顔だ。

 最初はつられて嘘くさい笑顔をしていた私だったが、最近は自然と笑うようになった。


 魚津さんは作った笑顔なのかもしれない。

 けれども毎日毎日あのきらきらした笑顔を見ていると「嘘もつき通すと本当になる」という言葉が浮かんできた。

 深田さんが苦手だからといって、他の人まで毛嫌いしてはいけない。

 魚津さんはきっと、仕事を円滑に進めるために笑顔でいてくれるのだ。

 魚津さんはコミュニケーションの一環だろうか、ちょっとした小話もしていく。

 小川さんと話せる時間が減っていった。


 ある日、魚津さんに携帯番号を渡された。

 今時ラインじゃなく、紙に携帯番号を書くというアナログな方法は私の心に響いた。方法だけ。

 私に好意を抱いているのだろうか? どうしたらいいのだろう。

 まず絢芽に報告をした。

「電話かけても話すことないよね」

 絢芽らしい、あっさりした意見だった。


 次の日、魚津さんに「今週飲みに行きませんか」と誘われた。

 都会の人は違うなぁと思った。

 携帯番号を渡して次の日誘う。

 十人並みの私でも誘われる。色んな人がいる。


 今週の金曜日、早速行くことになった。

 急だったので絢芽だけを誘った。

 仕事帰り玄関で待ち合わせて、皆で一緒に店に向かった。

 魚津さんは同期と先輩を連れてきた。

 魚津さんが店を予約していてくれて、ついて行くだけで良かった。


 道中は、私と絢芽が話して歩いている。

「先輩ちょっとかっこいいね」

 絢芽が早速目をつけていた。

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