第14話 新しい担当者

 お盆が過ぎても仙台はまだ暑い。

 夏季連休はそんなに長くなかったので、青森には帰省しなかった。


 連休中は一日だけショッピングに出かけた。夏服を買った。

 崩れた猫のようなデザインのブラウスを買った。素材が涼しそうだった。

 幅の広いキュロットのようなズボンを買った。すそがレースになっていて可愛い。

 ドクターマーチンのスニーカーを買った。マーチン専門店があるので目移りがした。


 暑いのであんまり外に出たくなかった。

 他の日はアパートで紅茶を飲んでいた。

 駅ビルにお茶屋さんがある。

 アイドルが好きだと言っていた茶葉を買った。

 真夏にクーラーの効いた部屋で熱い紅茶を飲んでいた。

 そんな夏休みだった。


 連休明け、中島さんに設計の新しい担当者を紹介された。

「設計の魚津うおづくんです。しばらく助手から担当への移行期間となります」

 

「魚津です。今までは助手なので現場での発言が許可されていませんでしたが、今後は積極的に関わっていきます。よろしくお願いします」


 笑顔がきらきらしている。仕事を任される喜びと期待に溢れているのだろうか。

 私は月並みに「よろしくお願いします」と言った。


「神崎さんと一緒に仕事が出来て嬉しいです」

 魚津さんはきらきらした笑顔のまま言った。

 どういう意味だろう。

 よく解らないけれど、つられて私もなんとなく笑顔になった。


 絢芽と一緒に帰った。

 絢芽はノースリーブに薄手のカーディガンをはおっている。

 絢芽の体型はいわゆる肉感的。腕や足が少しむっちりしている。

 普段からミニスカートやノースリーブが多く「出しちゃえば太く見えないのよ」と本人は言っている。

 絢芽は太くはない、というより色気がある。実際、絢芽はもてる。

「碧は細いね」と言ってくれるが、実際そこまで細くはない。モデル体型でもない。

 ただ単に標準体型なのだ。


「魚津さんという新しい担当が来た」

 絢芽には、それだけを言った。

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