第13話 三角
何が起きたのか一瞬解らなかった。
中島さんが、百番を処理してくれていたのだ。
この場合、お礼を言った方がいいのか謝った方がいいのか。両方だろう。
「丁寧なのも良いですが、期日も守らなきゃならないのよ」
中島さんは微笑んで言った。
慈悲深い笑顔と言葉が突き刺さる。
「すいませんでした。ありがとうございました」
私は心底申し訳ない気持ちと感謝と情けなさとどうしようもない気持ちが混ざっていた。
今回は完全に私のミスだ。
この後も終業時間まで心がざわついていた。
帰り道、絢芽に全てを話した。
話すことによって少しでも軽くなるかと思った。
絢芽は「そんな日もあるさ」と言った。それだけ?
この日はアパートに帰ってからも自分のミスを思い出していた。
ふと、スクールカーストという単語を思い出す。
学生時代、カーストの頂点にいるのはイケている奴らだった。
私は教室で、手を上げたり皆の前で発言するのが恥ずかしかった。
先生と仲が良い子は緊張もせずよく手を上げていた。
カーストの頂点いるギャルズが堂々と意見しているのをただ見ていた。
成績がトップクラスの人たちの意見も信用されていた。
私が発言したって「その他大勢」だろう。言っても言わなくても同じ。
そう思ったら、ますます自分の意見は言わなくなった。
教室での価値基準は学力だろうか、美しさだろうか、コミュニケーション能力だろうか。
それは社会でも同じだろうか。
新川さんは何でも許される。若くて可愛くて人なつこい。
岸田さんは優秀だ。難しい仕事もどんどんこなす。
絢芽は相手に反論しながらも結果を出すし、皆彼女の人柄に惹かれてゆく。
今の職場でカーストがあるとしたら、設計が間違いなく一番上だろう。
じゃあ一番下は……? 私だろう。
私が地味でおとなしいと思って、深田さんはあんな態度をとっているのだろう。
どのみち来年には青森に帰るんだ。問題を起こさずにやり過ごしたい。
それに、今回は深田さんだけではなく仕事まで避けてしまったのが原因だ。
完全に私のミスだ。
仕事にもっと真剣になろう。同じミスは絶対繰り返したくない。
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