第12話 ミス

 岸田さんのお気に入りが誰か解った。

 調達の青山あおやまさんという人だった。

 岸田さんと同じ位の齢の人で、ちょっとチャラい人だった。

 意外、ああいう人が好みなのか。

 岸田さんは青山さんと話す時、とてもにこにこしている。

 岸田さんはいつもにこにこしているが、加えて目がきらきらしている。

 恋する目とはああいう感じなのだろうか。


 愉しいことが増えてきた。

 反比例するように、深田さんの部品だと嫌だなぁという気持ちが強くなってきた。

 私は小川さんにばかり連絡していた。

 小川さんの部品は難しいから直接聞かないといけない、そんな理由を作っていた。


「百番の部品(深田さんの部品)、進んでないね」

 補佐の中島さんに優しく言われた。


「先に二百番(小川さんの部品)をやろうと思ってて……」

 私はとっさにそう言った。


 この時私は心の中で「あわよくば補佐の誰かが百番に手を付けてくれないだろうか」などと思っていた。


「百番の問題シート、いつ頃解決しそうですか?」

 小泉さんから催促が来た。


「すいません、二百番の確認が終わったらすぐにやります」

 小泉さんから催促が来るのは初めてだ。

 

 嫌だけれど、百番をやらないといけない。

 私はいつもより丁寧に、二百番を確認していた。

 本当はとっくに終わっている。すぐにでも百番に取りかかれる。

 深田さんに連絡をしたくない。あの人は苦手だ、そう思いながら仕事をしていた。


 午後の休憩が終わった頃、深田さんが来た。


「百番、もういいんですか?」

 いきなり私に聞いてきた。

「まだ手を付けていなくて……」

 これからやります、と言おうとした瞬間、深田さんの顔色が変わった。


「百番の締め切り、今日ですよ」

 深田さんは目を見開いていた。


 私は背筋が凍った。

 締め切りを見逃していた、というよりほとんどシートを見ていなかった。

 深田さんというだけで。


 急いでシートを見た。

 心臓がどくどくと、脈打つ音がした。

 百番は角度の調整がどうのこうのと書いてある。

 私は頭の中で一時考えてから部品を取りに行こうとした。

 その時、補佐の中島さんが一枚の紙を深田さんに渡した。


「百番は問題が三点ありました。一点だけ解決出来なかったので、確認をお願いします」


 深田さんは紙を受け取り「解りました」と言い、出て行った。

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