夏
第10話 慰労会
六月中旬になった頃、報告を兼ねた慰労会が開かれた。
青森支社から部長と秘書が来て、私たち出向組とお酒を飲む会ということだ。
部長と飲むなんて青森にいたら出来なかったことだろうな。
仙台に出向に来て私の中で、色々なことが塗りかえられている。
仕事帰りにそのまま飲みに行くとか。
昼休みにお化粧直しをして、音楽を聴く時間があるとか。
通販じゃなくても、欲しい靴や服が買えるとか。
部長と飲むなんて緊張しないだろうかと心配したが杞憂だった。
新川さんがタメ口で話しても、部長はにこにこしている。
絢芽が疑問や不満を言うと、真摯に答えている。
岸田さんは真面目に仕事の話をしている。
私は「どうやって部長になったんですか?」と聞いた。丁寧に答えてくれた。
そういえば私は小学校の時、何かのイベントで校長先生の隣に座った。
とても緊張して「黙っているのが気まずいから話しかけよう」と思い、必死で質問を探した。
その時の質問が「校長先生は、どうやって校長先生になったんですか?」
小学生の頃から変わっていない質問力に、少しへこんだ。
じゃあ残りの日数もお仕事頼みますよ、といった感じで慰労会はお開きになった。
私たち四人は一緒に帰った。
そういえば会社以外で四人一緒になるのって珍しいかも。
「今度私たちも飲みに行きませんか? 他の担当の人たちも皆さんと飲みたいって言ってます」
新川さんが突如言った。
「行く行くー」
絢芽がすぐに答えていた。
私と岸田さんも笑顔で頷いた。
〇
生活のリズムも掴んできた頃、休日の過ごし方にも余裕が出来てきた。
こっちに来てからずっとインスタントのお茶ばかり飲んでいた。
今日は茶葉を蒸らしてお茶を飲もう。
こないだ仕事帰りに、ティーカップに茶こしが付いているものを買った。
本当はティーポットも欲しかったけれど来年になると青森に帰るし極力荷物は増やしたくなかった。
それに一人分だとこれで充分だ。
都会には色々なものが売っている。お洒落な食べ物もある。
ここにいる間、色々なものを見たり食べたりしようと思った。
茶葉の蒸らし時間が終わった。
こっちに来てから初めてちゃんとしたお茶を飲んだ。
幽体離脱するんじゃないかと思うほど美味しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます