第7話 苦手な人

 設計の深田ふかださん、この人が苦手だ。

 顔はかなりのイケメンで高身長。設計部署は社内でもエリートだ。

 しかも深田さんは、何処だかの有名大学を卒業して四年目でこの仕事を任されている。それは更にエリートだそうだ。

 それ故に深田さんを狙っている女子社員が結構いるそうだ。

 一緒に仕事をしたことがないのだろう。

 

 深田さんは、最初は愛想が良かった。

 私は愛想が良い人間をあまり信用しない。それは当たっていた。

 今は深田さんに質問があって連絡をすると、電話越しでもめんどくさそうなのが解る。

 そのあとこちらに来てもらうのだが、顔がすでに不機嫌だ。

 出来たての部品、何処かしら不都合があるのは当たり前とは思いつつも。

 設計者にしたら沽券こけんにかかわる、とでも思っているのだろうか。

 東北支社に来て約二ヶ月、私はすでに苦手だ。


    〇


 隣の机では、絢芽が二号機の部品を組付けている。

 中々組付かない部品の設計者に「これ何か間違ったんじゃない?」などと言っている。

 言われた相手は苦笑いをして、絢芽の迫力に押されている。


 更に隣の机では岸田さんが三号機を担当している。

 設計の人と談笑をしている。大人の余裕だろうか。

 けれども明らかに処理していない部品が山盛りになっている。

 岸田さんは仕事を断らずに引き受けると聞いたことがある。

 断らないというか、断れないのでは。


 新川さんは少し離れた所にいる。

 私が担当しているのとは違う型番の製品らしい。

 設計もデータの人とも仲良く話をしている。

 ギャルは違うなぁ。

 深田さんも、新川さんとは笑顔で話す。ギャルには優しいのか。


 データの人と深田さんが話をしていた。不穏な空気を感じたのでそちらを見てしまった。

「強度が弱いよ、これ」

 データの人が真剣な顔で言っていた。

 強度が弱いと大変だ。何千回も動く製品の保証が出来ない。

 渡された部品を眺めて深田さんはしばらく黙った。そして言った。

「測定器、ちゃんと校正に出したの?」

 ※測定器が正常なの?の意味※


 なんという男だ。

 データの人は大変怒っていた。


「冗談に決まってるでしょう、すぐに再計算しますから」小馬鹿にしたような笑顔で深田さんは居室を出て行った。


「今のは許せないですね」私はついデータの人に話しかけてしまった。

「本当、品質第一に考えてほしいよ」データの牧原まきはらさんは少し怒った口調だった。

 牧原さんはちょっと太っている人の良さそうなおじさんだ。

 家では良いパパなのだろう、イメージだけれども。

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