追跡
笑顔で
ましてや、その会話の中に入り、一緒に笑うことなど、絶対に。
だから、私はその場から逃げ出すしかなかった――
――けど、そんなの放っておけるワケないじゃない!!
ダフォディルはバルコニーから二人が去るのを見届けると駆け足で屋敷のエントランスへ先回りをした。そして周囲に誰もいないことを確認し、前庭の植え込みの中へ
ほどなくして。
アデッサと
ダフォディルはその様子を
まずはそのまま二人をやり過ごし、つかず離れずの距離を保ちながら尾行を開始した。
高台にある屋敷の門からは街へと、赤い
その脇のよく手入れされた
――冗談じゃないわよ!
ダフォディルは得物を狙う
(もしアデッサに触れでもしたら、切り落としてやるんだから!)
そのとき――
「足元、水たまりですよ」
ハイホがアデッサの肩へさり気なく触れた。
ダフォディルの【鉄壁の紋章】から青いルーン文字の帯が噴き出す。暗殺者のような暗い眼差しで短剣を抜き、
「瞬殺」
と、呟いてハイホの背に向けて走り出す。
その目の前へ突然、巨大な壁が立ちはだかった。
「ひぃッ!」
驚いて急停止したダフォディルが見上げると、壁に見えたのは背が高く肩幅の広い、屈強な男。そして、その脇にもう二人の男たち。ただ大きいだけではなく、並みならぬ鍛え方をしているのは服の上からでさえよくわかった。
ダフォディルは目の前へ立ちはだかった男たちから間合いをとり、あらためて短剣を構えなおす。
「しーッ、ダフォディル様! どうぞこちらへ……」
男は首からさげたペンダントを掲げた。コイン型のペンダントトップにはエッサ
「エッサの……近衛大隊!?」
「そうです。ささ、ダフォディル様、こちらへ……」
ダフォディルはアデッサとハイホのうしろ姿を気にしつつ、男たちの先導に渋々と従って道端の植え込みの中へと移動した。
「いやあ、すみませんダフォディル様。我々はエッサ近衛大隊第三隊、
三人の男たちは引きつった笑顔で挨拶をした。
ダフォディルは不機嫌をむき出しにして大男たちを
「で、あの
「はは……はははは。あの、我々はアデッサ姫をお守りするために派遣されておるのです。だが、アデッサ姫は派手な警護は望まれていない。しかし、いつダンチョネ教の刺客が現れないとも限らないのが現状。そこでこうして遠巻きに警戒をしていたのですよ、アデッサ姫に隠れて」
ダフォディルはその言葉を聞き安心する……どころか逆に、怒りに顔を引きつらせた。
場の空気が固まる。その迫力に男たちはごくりと
「何が警護よ! ぜんぜん役立たずじゃない! アンタらどこに目を付けてるの!? 触ったのよ!? アイツ、アデッサの肩に触ったのよ!?」
「い、いえ……あれは不可抗力と言いますか……」
「あ ら。 よ く き こ え な か っ た わ」
「ひぃっ! あ、あの、任務が終わりましたら隊長にはよく言って聞かせておきますので! こ、ここはどうか
三人の男たちは青ざめながらだらしなく笑った。
(ま、コイツらに構っていても仕方ないか……)
と、ダフォディルは溜め息をつく。
――それより、アデッサの尾行を続けねば。そもそも、二人はどこへ向かっているのだろう。
と、アデッサたちが歩いているであろう方向を藪のなかからうかがった。そのとき――
三人の近衛兵たちが同時に血を吹いて倒れた。
ダフォディルは反射的に【鉄壁の紋章】を発動させる。
だが、冷たいものが深く、肌へ引っかかるような感覚が体を横切る。
【鉄壁の紋章】を発動しているのに、体が刺激を感じる。
その違和感に、ダフォディルは反射的に左腕の【鉄壁の紋章】へ視線を向けた。
アデッサから受け取った【鉄壁の紋章】が、自分の血で濡れている。
――逃げなくては。
ダフォディルは三人の男たちを倒し自分へ傷を負わせた敵の強さを瞬時に悟り、植え込みの中を元来た道へと必死で走る。敵を、アデッサから少しでも遠ざけるために。
そして道端の花壇を飛び越えようとするが、足が上がらず、赤い煉瓦の道の上へ倒れ込んだ。
花壇の色とりどりの花びらが飛び散り、ダフォディルの体から流れ出た血の池の上へ舞い落ちる。
――体が、重い。
倒れ込んだダフォディルの視線の先に、遠く、あの男と談笑しながら、曲がり角を曲がってゆくアデッサの背中が見えた。
「アデッサ……」
ダフォディルの視界を白いローブが
「よお、鉄壁さんよぉ」
もう一度、【鉄壁の紋章】から青いルーン文字の帯が噴き出す。
「へへへ。おめぇの紋章は研究されつくしてんだよ」
白いローブの男が面倒臭そうに呟く。
「
ひとつは心理系魔法攻撃だ。心理系魔法が込められた武器もダメ。
へへへ、詳しいだろ?」
霞む視界の中で男が笑ったように見えた。白いロープ。ダンチョネ教。巻き毛の男……。
「そして、もうひとつがよぉ――」
男の右腕の紋章から黒い霧が漂う。
「――この俺様の攻撃だ」
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