地下の攻防
巨大な人型魔道兵器『デージ・マギームン』の腹部の操縦室にむけて木の
カトレアは梯子を駆け上るとぽっかり開いた搭乗口から計器がひしめく操縦席をのぞきこみ『ほおお……』と、満足そうな唸り声をあげ、
「ちょっと大きい」
と、操縦席に座って手足をぱたぱたさせた。少しどころか、どれだけ浅く腰かけても、手も足も
追い付いてきたサザンカが搭乗口から顔を出す。
「あとで座布団を持ってきましょう」
「うん……。ポチッとな。あれ? あれ? うごかないよ?」
カトレアは操縦桿やパネルをデタラメに操作するがなんの反応もない。
「はい。起動するにはまず封印を解除する必要があるのですが、やや難航しており……」
『うわぁぁ!』
そこへ、男の
サザンカは
「おい!
だが、視線の先に立っていたのは――
「サザンカ、カトレア! やっぱりお前たちか!」
ブロンドの少女が差し出した左手に黒髪の少女が右手を合わせ、二人は深く指を絡ませた。黒髪の少女はスカートを
二人の肌はツヤツヤだ。
ブロンドの少女は長剣の切っ先をサザンカへ向けた。
右腕に刻まれた赤い紋章がキラリと光る。
黒髪の少女はブロンドの少女の胸の中で目を細め、口元に冷たい
「正義を
今日こそこの瞬殺姫が決着をつけてやる!」
ブロンドの少女の、綺麗に
まるで青年のように
「おのれ……アデッサ!」
サザンカが敵意をむき出しにした鋭い視線で二人をにらむ。
ダフォディルが涼やかな声で応えた。
「サザンカ、悪魔と契約をしたのが命取りだったわね。今日こそ――」
ダフォディルは左の中指の先をそっと眉間へつけ、呪文を
「灰は灰に 水は水に
サザンカはチッと舌打ちをしてデージ・マギームンの操縦席から飛び降りた。同時に、サザンカの額に刻まれた【審判の紋章】から黒いルーン文字の帯が噴き出し、宙に魔法陣を描く。
魔法陣の中央から現れた四体のレイスが巨大な鎌を手に二人へ襲いかかる。
「――ぎ、ぎやああああああ!」
レイスに怯えたダフォディルは呪文の詠唱を中断するとアデッサの背中へリュックサックのようにピタリとしがみついた。
「瞬殺!」
ダフォディルを背負ったまま、アデッサが放った一撃でレイスたちが消滅する。
「今日は二人揃ってるんだ。この前のようにはいかないぞ!」
「……
サザンカはローブをはためかせると、腰から黒いオーラを放つ剣を抜き――
「ふん、この剣の前では【鉄壁の紋章】など無意味!」
と、
押し寄せるゴーストの波間から、サザンカの黒い剣が突き出し、アデッサのブロンドを掠めた。ゴーストの群れとのコンビネーション。変幻自在の攻撃。手数では圧倒的に有利に見えた――だが、二人の敵ではない。
「瞬・殺ッ!」
強風に
「クッ!」
危うくアデッサの攻撃に触れそうになったサザンカは舌打ちをして大きく飛び下がった。
「まだやるかい?」
アデッサは余裕の笑顔を浮かべ、【王家の剣】をくるりと一振りし、切っ先をサザンカへ向けた。
いまだにアデッサの背中に張り付いているダフォディルが首元からひょっこりと顔をだし、サザンカをキッとにらむ。
――その二人の目に、サザンカの背後に立つ黒い影が
サザンカが召喚したアンデットとは異なるその様子に、二人は警戒する。
「――!」
甲高い金属音。
一瞬遅れて気付いたサザンカは、黒い影が突然放った攻撃を辛うじて剣で受けた。
「……これは!?」
アデッサは気配を感じて振り返る。
いつのまにか、何体もの黒い影が周囲を取り囲んでいた。
その数は次々と増えてゆく。
今まで敵味方であったアデッサ、ダフォディルの二人組とサザンカは互いを警戒しつつも背中合わせとなり、新たなる異形の敵に目をみはらせた。
アデッサが叫ぶ。
「これは『グナァムン』! 封印の守護者だ!」
低い振動音と共に、三人を取り囲むグナァムンが一斉に口から光線を放った。
サザンカは体術でかわし切る。
アデッサとダフォディルを囲む【鉄壁の紋章】の輝くルーン文字が光線をさえぎるが……。
バシッ!
光線を受けた【鉄壁の紋章】のルーン文字が火花をあげて焼き切れる。
「あわわわッ! アデッサ、なによこれ!」
「古代の魔道兵器だ。魔王のダンジョンで見たことがある。中枢を壊さねば、長くはもたない!」
アデッサは剥がれ落ちそうになる【鉄壁の紋章】の
「中枢は……どこだッ!」
一方、サザンカはグナァムンの攻撃がアデッサへ集中している隙に戦いを離れ、デージ・マギームンの操縦席へと梯子を駆け上る。
「カトレア様! 危険です、ここは一時退避を!」
カトレアはほっぺを『ぷっ』とふくらませた。
「やだ」
サザンカの動きがピタリと止まる。
ふた呼吸後――
「御意!」
サザンカはカトレアへ頭を下げるとくるりと振り返り、赤いヘムに縁どられた純白のローブをなびかせて光線が飛び交う地上へと飛び降り――
「うおおおおおお!」
と、雄叫びをあげながら、押し寄せるグナァムンをなぎ倒しはじめた。
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