魔道兵器 デージ・マギームン

 コリャサの町は街道に沿った細長い形をしている。


 なだらかな草原が延々と続くこの一帯で、この場所に街道町が発展した理由は、二つある。


 ひとつは周囲の都市からほどよい距離にあること。


 そしてもうひとつが、街道脇の草原にぽつりとそびえる丘、『コリャサの丘』である。目標物のとぼしい平原の街道で丘が目印となり、この地で休息を取る者が多かったのだ。


 コリャサの丘には伝説があった。


 コリャサの丘は、もともとは遥か昔に造られた『何か』を封印するための施設だった、というものだ。


 何かとは魔道兵器だ。その魔道兵器は途方とほうもなく強力で、一撃で町を焼き払い、山を崩し、湖を干上がらせる力を持っていたという。時の権力者はあまりにも強力なその力を恐れ、封印術式により魔道兵器を地中深くへ封印したのだ。


 その封印術式のための施設が時代と共に忘れられ、土に埋もれた成れの果てが現在のコリャサの丘であり、丘の地下深くには今でも魔道兵器が封印されている――そんな伝説だ。


 だが、時と共に伝説さえも忘れ去られてゆく。長命なエルフたちの間でさえ語りつがれず、記録は風化し、ことの真偽しんぎを知るものは少ない。


 仮に信じていたとしても、そんな厄介な殺戮兵器さつりくへいきなど、誰も好き好んで掘り起こそうとはしないのだ。



 あの少女を除いては……。



 コリャサの丘地中深く。掘り起こされた遺跡の、封印の間。端が見えないほど広大な地下空洞。


 中央に鎮座ちんざする、巨大な人型の像。周囲に据えられた無数の蝋燭ろうそくがその異様な姿をてらしている。


 伝説は真実だったのだ。


 巨像の正面の空中にスッと亀裂がはいり、空間が四角く切り裂かれ、中から漆黒の闇がのぞいた。


 闇の中から歩み出る白いローブの女僧兵。赤毛のウルフカット、サザンカ。


 その腕にひょいと抱きかかえられているのは同じく白いローブをまとう少女。


 陶器とうきのように白い肌、淡い金色の長い髪。カトレアだ。


 カトレアは待ちきれないとばかりにサザンカの腕から飛びおりると巨像へとかけよった。


 その左目はいまだに鎖の眼帯に覆われているが、反対の瞳をキラキラと輝かせ、口をぽかんと開いて巨像を見上げた。


「ふわあああ……」


 開いた口もとに、徐々に喜びがあふれて、満面の笑顔にかわってゆく。


「ロボだ!」


 巨像を指さし、嬉しくてしかたがない子供そのもの表情で、カトレアはサザンカを振り返った。自分がどれだけ嬉しいか、言葉ではなくその顔で伝えようとしているようだ。


「サザンカ様。これが魔道兵器『デージ・マギームン』です。やっと掘り当て――」


「ロボだ!」


 カトレアはサザンカの言葉をろくに聞かずにキラキラと輝く隻眼せきがんを再び巨像へ向けた。嬉しくて今にもぴょんぴょんと跳ねだしそうな勢いだ。


「いえ、これは魔道兵器デージ・マギー……」


「ロボ」


「はい。ロボでございます」


 サザンカは深々と頭をさげた。


「今朝やっと掘り当てました。少々痛んではおりますが腐ってはおりません。プロトンビームも問題なく発射可能かと」


 ビームと聞いたカトレアは動きを止め、クワッと目を見開き、カクカクとぎこちない動きでサザンカを振りかえった。


「……う、撃てるのか……アレを撃てるのかっ!」


「撃てます」


 カトレアは驚きとも期待ともつかぬ表情のまま、ままゆっくりとデージ・マギームンの口からのぞく砲門を仰ぎ見た。ごくり、と固唾かたずをのむ。子供のような笑顔が、陰のある不敵な含み笑いへかわる。


「サザンカ様。デージ・マ……いえ、ロボさえあればミンヨウ大陸全土を焼き払うことさえ容易たやすいこと。再生の時は目前――もはや、アデッサなど不要かと思われますが」


「……いや」


「……」


「ロボとアデッサ、両方だ。いまは紋章が封印されてしまったが、これが取れたらこんどこそアデッサを【絶望の紋章】で私の手下にするのだ!」


 サザンカはひと呼吸置いてから深々と頭をさげた。


「御意。ところで、ここを掘りあてた人足どもですが」


「……ん?」


 カトレアはくるりとサザンカを振り返り、何の話かと眉間みけんにしわをよせた。


 そしてすぐにその意図を悟るとことげに、明るく透き通る声を封印の間に響かせる。


「ああ、殺しておけ」

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