瞬殺娘☆ダフォディル
「アデッサぁ!」
ダフォディルはアデッサにピタリと飛びついた。泣きはらした目と真っ赤な
「ぞ、ぞ、ぞ、ゾンビ! ゾンビ! 爺さんたちはゾンビだったのよ!」
ダフォディルは背後から迫る爺さんたちを指差して、アデッサを激しく揺さぶりながら絶叫した。
ぶるんぶるんと激しく揺さぶられ、ただでさえ意識を失いかけていたアデッサが白目をむく。
「ぐおおおぉぉぉ……」
二人に迫る爺さんと村人たち。ダフォディルの言うとおり、様子がおかしい。
いちばんマトモな爺さんは一見普通の人間に見えるものの、その目は既に
「ぎゃあああああ!」
パニックに
「うわぁぁぁ!」
「ぐおおおぉぉぉ!」
ストライク!
アデッサの体に押し倒された『爺さんゾンビ』と『村人ゾンビ』がバタバタと瞬殺されてゆく……。
悲鳴が止み、しんと静まりかえった地下聖堂、
ダフォディルは恐る恐る目を開けて周囲の状況を確認し――
「あ、アデッサ! しっかり!」
と、ぐったりと横たわるアデッサへ駆け寄った。
アデッサが薄っすらと目を開く。
「だ、ダフォディル……」
「
ダフォディルはくるりと振り返り、タイミングを
「やっぱりアンタだったのね! アデッサになんて酷いことを!」
「……」
一番酷いことをしたのはダフォディルである。
「ダフォ……」
意識が
「アデッサ――」
アデッサの体がぐらりと揺れる。
そして、しがみつくかのように、アデッサはダフォディルの肩へかけた腕に力を入れた。
ダフォディルの体はその腕にぎゅっと引き寄せられ
唇のすぐ脇に、アデッサの唇がそっと触れた。
アデッサはそのまま意識を失い、ガクリとうなだれる。
「アデッ……サ」
ダフォディルは自分の腕の中で静かに目を閉じている
――えッ、えッ、えッ、えーーー!!
どっち? どっち? ねえ、今のどっち!?
わざとなの? 偶然なの? 本気なの? ただのラッキー
ねぇ! どっち? どっちなのよぉー!!
「茶番は終わりだ!」
サザンカが声を張り上げる。
その声を背中で聞いたダフォディルは、腕の中のアデッサへ向けた優しい目をそっと閉じ、ゆっくりとサザンカを振り返えり、キッと
その鋭い眼差しに、サザンカは
ダフォディルはサザンカを
「フッ、【鉄壁の紋章】か。防ぐ力はあっても攻める力は
サザンカは余裕の笑みを浮かべた。
「もとより貴様らが二人揃ってここへ侵入してくることも想定済み。知っているぞ、その【鉄壁の紋章】の弱点を」
サザンカの額に刻まれた【審判の紋章】から黒いルーン文字の帯が噴き出し、宙に魔法陣を描く。
魔法陣の中央にどす黒い
サザンカの身長ほどある巨大な腕に続き、圧し潰された牡牛のような顔、固い毛に
「ブオオオオオぉぉぉ!」
化け物は巨体を震わせ、緑色の
「ふははは! 心理攻撃特化型の悪魔『ウシエテル・ヤッサ―』を召喚した! どうだ、【鉄壁の紋章】は心への攻撃は防げないのであろう?
「内向的悪魔爆裂!!」
ぼん!
サザンカの口上が終わるよりも早く、ダフォディルが呪文を唱え終わると、『ウシエテル・ヤッサ―』の体が内側へ向けて爆発し、体液を撒き散らせながら粉々に千切れて崩れ落ちた。
「……!?」
何が起きたかわからずに、サザンカは今まで『ウシエテル・ヤッサ―』が立っていた場所と崩れ落ちた肉片とダフォディルを交互に見る。
「そ、それは、神に頼らぬ
「いかにも。私はソーラン家のダフォディル。ダフォディル・ソーランハイハイ!」
「……いや、嘘を付け! ソーラン家の人間がゾンビなど恐れる訳がない!」
「ウチは悪魔払い専門よ!! アンデッドと悪魔は別モノよ、べ・つ! アンタそれでも聖職者なの!?」
「………………いや、同じような――」
「別よ!!」
「……」
「それに、
ダフォディルがサディスティックな笑みを浮かべる。
――
けど、【審判の紋章】に悪魔を呼び出す力なんてない。
つまり、このアホ聖職者は、あろうことか悪魔との契約を交わしていると言うこと。
ならば、この呪文で……!
ダフォディルは呪文の
「灰は灰に 水は水に
「クッ!」
身の危険を感じたサザンカは咄嗟に【審判の紋章】を発動させる。
額から噴き出した黒いルーン文字の帯が宙に四角い魔法陣を描いた。魔方陣の内側はまるで空間を四角く切り取ったかのような闇が見える。サザンカはその中へ飛び込んだ。サザンカの体が闇の中へ完全に消えると共に、魔方陣もフッと掻き消える。
同時に、広間に満ちていた邪悪な気配が消えた。
ダフォディルは呪文の詠唱を止める。
「冥界の扉。そんな使い方もできるなんて……」
ダフォディルは独り言を言うと腕の中のアデッサへと視線を戻した。まだ気を失っているアデッサを崩れた祭壇の前に座らせ、血と埃に汚れた頬を拭う。
「アデッサ……」
ダフォディルの目から熱い涙がじわりと溢れた。
アデッサの頭を胸へ強く抱きしめ、傷だらけの腕と身体を優しく撫でる。
そしてブロンドをかき上げ、こめかみへそっと唇を寄せた。
◆
翌日。昼なお暗い森の中。
次の街、チョイトを目指し旅を再開したアデッサとダフォディル。
「でも、あの爺さんたち。いつからゾンビになってたんだろう」
アデッサはあっけらかんとそう言った。
体のアチコチには絆創膏が貼ってある。
「もうその話はやめて。思い出したくもない」
ダフォディルはクールな澄まし顔で応えた。
体はピッタリとアデッサにくっついている。
「ダフォ……歩きづらい」
アデッサがそう言ってもダフォディルは一向に動じない。
「私の言う事を聞かなかった罰よ。森を抜けるまで、しっかり私を守りなさい」
ダフォディルはそう言うとアデッサの手を取り、指と指とを絡ませた。
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