第5話 商店街入場

 あおぞら商店街の入り口は、白地に青い文字で「あおぞら商店街」と書かれたアーチが目印だった。青のペンキは少しはげかかっていて、俺はどうしてもここが高級な商店街だとは思えなかった。

 アーチの下に、黒いスーツにサングラスの男が立っていた。格闘技経験者なのかもしれない。発達した大胸筋がスーツの下からも見て取れた。

「チケットを見せてください」

 男の口角は上がっていたが、サングラスから透けて見える眼は一切笑っておらず、不正があれば、いつでも取り締まってやるという意思が感じられた。こんな安物のスーツだから不審がられているのではないかと俺は思った。中村も緊張していると見えて、チケットを持つ手が小刻みに震えていた。

 サングラス男は、チケットをミシン目で一度折り曲げ、小気味いい音を立てながら半券を切り離した。その一連の動きには無駄がなく、随分と訓練をしたのではないかと思われた。

「確認できました。どうぞお楽しみください」

 中村と俺は、軽く会釈をして半券を受け取った。

 あおぞら商店街の印象は、「古き良き時代」であった。映画やドラマで出てきそうな、昭和を感じさせる商店街であった。

 八百屋があった。魚屋があった。クリーニング店に、駄菓子屋。他にも多くの店が立ち並んでいた。至る所で、店員が客に呼び掛けていた。

「安いよ、安いよ。お、兄ちゃん。今日は何を買いに来たんだ。見てってくんな」

 紺の前掛けの八百屋の店主が、俺たちに声をかけた。

「えっと……。この商店街は初めてで」

「そうか。まあゆっくり選んでくれ。初めてっていうならサービスで負けてやるから」

 八百屋の店主は、早口でまくし立てた。

 俺は、とりあえず何かを買わないといけないと思ったが、普段のスーパーで買っているものよりも割高だったので、どうしようかと悩んでいた。

「大将。今日は大根と人参をもらおうかな。あ、それとミカンも欲しいな」

 俺の後ろから、声が聞こえた。他のお客が来たらしい。どんな人が買っていくのだろうか。俺は、ちらりと声がした方を見た。

 客は恰幅のいい中年の男性だった。俺は、男性を見て、ああいかにもこの店に似合うお客だと感じた。隣の中村も、男性を見て少し目を丸くしていた。

 俺は、中村が驚いている理由がよく分かった。

 大根と人参とミカンを店主からもらっている男性の姿は、高級なスーツ姿なんかではなく、Tシャツに短パン、雪駄というラフな姿だった。どう見てもセレブという感じはしない。その辺でよく見かける中年男性だったのだ。

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