第3話 ビールを飲みながら月を眺める
その夜はなかなか眠れなかった。明日は「あおぞら商店街」に行くのだと考えると、遠足前日の小学生のように興奮してしまったのだ。とりあえず目を閉じていれば、自然に眠れるのではないかと思い、ベッドで横になっていた。しかし、壁にかけている時計の音がはっきりと聞こえるばかりで、肝心の眠気はやってこなかった。
俺の部屋は学生用のワンルームマンションだ。ベッドは窓際に置いてあるので、少し手を伸ばせばカーテンを開けることができる。綺麗な月だった。確か一昨日が満月だったから、今夜は立待月というやつだ。今か今かと立って待つうちに月が出るから、立待月だと教授が説明していた。もう少しよく見たいと思い、俺はベランダに出た。月は辺りを白く照らしていて、どこかからコオロギの声が聞こえた。もう秋なのだと思ったが、最近は温暖化の影響のためだろうか、9月の夜に吹く風はまだまだ熱気を帯びていた。ビールでも飲もうか。冷蔵庫に缶ビールが入っていたはずだ。部屋に差し込んだ月光のおかげで、電灯をつけなくとも冷蔵庫までの導線はよく見えた。俺は、缶ビールを一本持ってベランダまで戻ると、月に向かって一人で乾杯の発声をした。ぐいと一口飲んだ後に、少しばかり気障だったなと感じ、誰も聞いてはいなかっただろうかと耳を赤くした。
この缶ビールは、ネットショッピングのセールで買ったものだ。このご時世、リアル店舗の対面販売で物を買う機会なんてほとんどない。スーパーマーケットまでの交通費を考えると、ネットでクリックした方が楽だし、安価である。今どき、リアル店舗で買うことができるのは金持ちだけだ。それも昔ながらの雰囲気を残した「あおぞら商店街」で買うことができるということは、それこそ金持ちの娯楽なのだ。
その「あおぞら商店街」で買い物ができる。俺は興奮していた。多分明日は俺にとって刺激的な一日になるだろう。残っていたビールを一息に飲み干したが、まだまだ眠くはならなさそうだった。もう一本飲もうかな。ベランダから冷蔵庫の前まで俺は移動した。月明かりが部屋の中を白く照らしていた。俺は2本目のビールを飲みながら、不完全な円を眺めた。
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