三章

3-1

 アルフォンスが消えてから、早くも3日がたった。

 彼の行方は依然としてつかめず、捜索は暗礁に乗り上げつつあった。


 市民への聞き込み。

 人相書きの配布。

 懸賞金等々。

 できることを片端からやってはみた。

 だが、結果として経費がかさんだだけ。

 いたずら、もしくは勘違いの連絡が増えたばかりで、彼につながるものはなかった。


 今日も成果はなし。 

 ロバートからの報告を聞いた後、サラは疲れた体を椅子の背もたれに預ける。

 ギルモアの襲撃の前後では、比べようもなく忙しくなった。


 個人個人が注意しましょう。

 一人きりにならないようにしましょう。

 貴族と市民への注意喚起と市中の巡回。

 必要とあれば、憲兵を数人警護として立たせる。

 これまではそれぐらいで(言葉が過ぎるかもしれない)済んでいた。


 顔も名前もしれたギルモアが襲われたことで、市民の関心がより集まったことで、より一層の警備と注意を強いられるようになった。


 司令部には市民への窓口が開かれているが、そこへの駆け込みが日に日に増している。

 彼らの不安がわかる分、強くいうわけにもいかない。

 だが何度も同じような内容の意見を聞けば、正直辟易してくるだろう。

 対応に追われる係員を思うと、ふびんでならない。

 

 ノックの音が聞こえてくる。


「誰」


 サラが言うと、聞き慣れない女の声が聞こえてきた。


「私です、ジョアンナです」


「ジョアンナ?」


 彼女のことを思い出すのに、数秒かかった。

 ジョアンナ・パーシー。

 晩餐会であった、近衛隊の隊員だ。


「ああ、あの時の。どうぞ、入って」


 サラが背もたれから体を起こす。

 ドアが開き、ジョアンナが入ってきた。


「今日はどうしたの」


「ええ、隊長から団長殿を送るように言われてきました」


「送るって、どこへ」


「あの、憶えていらっしゃらないのですか?」


「憶えてないって……」

 

 メモ帳を開いて、予定を見る。

 今日の日付。

 それを見て、思い出した。


 ヘンリー・ゲイルとの面会が今日だったのだ。


「時間は、まだ大丈夫」


「ええ。大丈夫ですよ」


「そう。よかった」


 ほっと胸を撫で下ろしながら、机にたまった資料を引き出しにしまう。

 仕事の跡を片付けて、椅子から立ち上がる。


「馬車はもう用意してあるの」


「城門の前に待機してあります。ご準備が出来次第、出発できますよ」


「そう。じゃあ、先に入っててくれない。ロバートにだけ、連絡してきちゃうから」


「かしこまりました」


 かかとを揃えて、ジョアンナは敬礼をする。

 彼女が部屋を出て行ったあと、部屋をあらかた片付けて、サラも部屋を出る。

 向かったのは隣の部屋。

 部下たちの執務室である。

 ドアを開くと、6つの机で作られた茶色い島が三つ。

 部屋の左右中央に気づかれている。

 ロバートの姿を探すも生憎留守のようだ。


「ロバートは、どこかに行ったの」


 ちょうど手が空いていたのか。

 机に座ってあくびをする部下に、サラが尋ねる。


「さぁ、タバコでも吸いに行ったんじゃないですか」


 目に涙を溜め、背伸びをしながら部下が言う。


「そう。今から出てくるから、後の仕事お願いね。ロバートにも、そう伝えておいて」


「ギルモア隊長のところですか」


「いえ。今日はもうちょっと真面目な会談よ。長くかかるかもしれないから。よろしく」


「了解しました」


 力を抜いた敬礼と返事。 

 ジョアンナのものを見た後だと、肩の力が抜けすぎているように思えてしまう。

 肩をすくめながら、サラは部屋を出て、城門を目指して歩き出した。

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