2-2

 一年に一度の晩餐会。

 国の催しの中でも、豪華な方に入る催しだ。

 各国の要人、王族、貴族が一同に介して、大広間にて食事を楽しむ。

 和やかな雰囲気で進められるが、交わされる会話はシリアスなことが多い。


 敵国の情報。

 同盟国の関係の確認。

 会談の日時、場所の約束。

 そのほか、そのほか……。

 

 書面には乗らない難しい話が、会場のそこここから聞こえてくる。

 雰囲気を壊さないでおけるのは、彼らの面の皮が厚さがなせる技か。

 それとも、腕の立つ者同士の会話だからか。


 サラは会場の隅で様子を見守っている。

 毎年恒例。要人たちの警備のために騎士団も駆り出されている。

 サラも例外ではなく、彼らが帰宅するまでの間、気を張っていなければならない。


 ただ、彼女は晩餐会はあまり好きではなかった。

 水面下での交渉。

 華やかな場所を隠蓑にした、腹の探り合い

 

 権力者にとっては当たり前のことかもしれないが。

 どうもまどろっこしいと思ってしまう。

 もちろん国にとって必要なことだと理解はしている。

 だが、この穏やかさと緊張感のある空間に、長居をしたいとは思わない。


「暇ですね」


 料理をぱくつきながら、ロバートがやってくる。


「職務怠慢よ」


「出されてるものを食べてるだけですよ。別にいいじゃないですか」


「私たちのために用意されているわけじゃないのよ、あれは」


「大丈夫ですよ。まだまだ料理はありますから」


「そういうことを言ってるんじゃないわよ」


 サラはため息をつく。


「団長の方こそ、少しは気を抜いたらどうです。何も、団長だけが警備をやっているわけじゃないんですから。俺だっているし、ほら、近衛隊長も出席しているんですから」


 ロバートがスプーンの先を向ける。

 そちらに目をやると、王のそばに仕える、ギルモアを見つけた。

 

「そうかもしれないけど、万が一があったらダメでしょ」


「例の連続殺人の捜査だってあったんですから、少しは気を緩めることをした方がいいですよ。そうでなくても、いつも気張ってばかりなんですから」


「あんたはもう少し気を張りなさい。そんなんじゃ、警備は務まらないわよ」


「それが務まるから、ここに呼ばれたんじゃないですか」


 皿に乗った最後の料理。

 小さなカップに入った、グラタン。

 スプーンを使ってきれいにすくうと、ロバートは口へと運ぶ。


「減らず口もいい加減にしないと、給料からしょっぴくわよ」


「それは勘弁願いたいものですね。大目玉くらう前に、任務に戻らせていただきます」


 スプーンを口にくわえながら、ロバートは敬礼をする。

 きびすを返して去っていくロバートを、サラはため息とともに見送った。


「ウィリアム団長殿」


 気を取り直して、警備に専念しよう。

 そう思った矢先のこと。

 目の前に女が立っていた。

 年の頃で言えば、二十代も半ば。

 帯剣をしているから、おそらく参加者の1人ではないのだろう。


「何?」


「ギルモア隊長がお呼びです。ここは私が引き継ぎますので、そちらにお向かいくださいませ」


「ギルモアが?」


 ギルモアに目を向けると、彼はまっすぐにサラを見つめている。


「お急ぎを。隊長がお待ちです」


「わかった。ありがと」


 女はかかとを揃えて、敬礼をしてくれる。

 見本通りのきれいな敬礼だ。

 しかし緊張しているのか。少しだけ動作がぎこちなく見える。


「晩餐会の警備は、初めて?」


「はい。皆様の命を守れるよう、精一杯努めさせていただきます」


 女は胸を張って、力強く答えた。


「名前は」


「ジョアンナ・パーシーです」


「そう。肩肘貼らずにやりなさいよ。緊張して体がガチガチだと、有事の時に動けないからね。わかった、ジョアンナ」


「はっ。ご忠告、肝に銘じます」


「ガチガチよ」


「も、申し訳ありません」


 ジョアンナの顔が、少し赤くなった。

 サラは笑いながら、ジョアンナの肩を叩く。

 初々しさに心を和ませながら、サラはギルモアの元へと急いだ。

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