13話 異世界かもしれない
早速、わたくしはトキ様にお手紙を書きます。表向きは、お誕生会のお礼が記載された
手紙には、前世の内容は全く書いておりません。わたくしははっきりと、前世の記憶だと気が付きましたから、もう区別はついておりますので、不用心な行動は致しませんわ。前世のことは、会ってからお話すれば良いことですものね?
それにしても…本邸に帰ってからは、どうしたらよいのでしょうか?
今はもう10月です。暦は何故か、前世の日本と同じようでして。四季という季節も、この国には存在致しますし、ただ…春夏秋冬という言葉は、存在しませんが。
4つに分かれた時期がある、という考えがあるだけなのです。1年が365日あるとかは全く同じでも、日本にあった記念日などは当然見当たりませんし、長期休暇として夏休み休暇とか冬休み休暇があり、どちらかと言いますと、欧米風のお休みに倣っている感じでして、日本とは少々異なります。但し、1週間は同じく存在しますし、土日は休みというのは全く同様で。…う~ん。何だか、良いとこ取りのような気が…致しますかしら?
日本があった世界とは、この世界は全く違う次元に存在しているのでしょうから、別に異なっていても良い筈なのですが、あまりにも都合の良い部分だけ、日本と似過ぎているのも、引っ掛かります。わたくしの勘が…嫌な予感をさせており、こういう時ほどよく当たる可能性が、高いのです。溜息を…吐きたくなりますわ。
因みにこの国の言語は、日本語ではありません。この国の文字は、元の世界にはない文字だと思われます。但し、発音は…日本語若しくは、限りなく近い日本語風なのですのよ?…文字は日本語ではないですし、発音だけが日本語とは…。
何となくおかしな気分です。生まれてから暫くは、前世の記憶は有耶無耶でしたから、特に気が付かなければ、当たり前に思っていたことでしょうね?
隣国では、日本語の発音とは違うようですわ。まだお隣の言語を、きちんと学んでおりませんので、以前に聞いた発音で判断しているだけですが。わたくしはまだ、5歳になったばかりですし、貴族の勉強も本来なら、まだ始まったばかりの頃なのです。わたくしは物心ついた頃から、それなりの知識がございまして、わたくし自身が望んで、3歳頃から勉強を始めておりますのよ。お陰様で…既に、2年分の勉強の成果は、わたくしの知識として表れておりますわ。
このように…日本に似たような、部分が見られる国ですが、発達は遅れていると思われます。何と言うか…西洋の中世時代と、雰囲気がよく似ておりますね。
あの時代ならば…この世界に似ておりますけれども、異世界のようですから、違和感が半端ないのです。この時代背景に…日本語が合いません。チグハグな感じが否めませんけれど、こういうのを昔…よく読んだ気が致します。物語として。
まさか…と思うのですが。疑似世界では…ございませんわよね?…予め決められたシナリオが存在する世界とか、ある時を切っ掛けに、自分の意志疎通が出来なくなるとか、では…ございませんわよね?…もしも、そのような決められた世界であるならば、わたくしは…全力で抗いますわよ?…決まられた運命など、真っ平御免なのです!…例え、この世界が消滅することになろうとも、わたくしは誰かの犠牲になることも、誰かの幸せに付き合うことも、全力でお断り致しますわ。
他のお方の犠牲も要りません。例え…全員が消滅することになろうとも、誰かの犠牲の上で生き残るのは、納得が…行きません!
このような不確定の要素は、トキ様に説明するつもりはございません。
この世界が、誰かに作られた世界かどうかは別として、似た文明が存在する可能性は、ございますのよ。他の国のことはまだ分かり兼ねますし、この国には『パラレルワールド』という言葉も考えも、存在しておりません。異世界という概念もないようですし、以前の前世の記憶保持者が、「前世は異世界に住んでいた」と語っておられるそうでして。それでこの『異世界』という言葉も、王家の関係者に認識された模様です。
王家がこの事実を隠し通しておりますし、それ以外の貴族や庶民達は、『異世界』という言葉も意味も知らない、と思われます。『前世』という認識があるかどうかも、分かりません。来世は何に生まれたいなどと、我が家の従者が語っておりましたので、『前世』という言葉も…存在しておりますのかしら?
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「やあ、カノン。君の誕生会以来だね?…会いたかったよ。僕の婚約者殿。」
「…まあ。トキ様。お誕生会の折には、大変お世話になりまして、また…わたくしの初めてのエスコートをしていただき、ありがとうございました。正式な婚約者に決定致しましてからは、お久しぶりにお会い致しますわね?」
トキ様にお手紙をお出しましてから、3日後に我が家に顔を出されました。
あれから暫くの間、トキ様もお忙しかったご様子です。やっと都合をつけて来られたようなのです。前世とは異なり、お会いして直ぐにわたくしの部屋に入る、という訳にも参りません。もう2年も、お互いの家を行き来しておりますのに、本当に貴族とは…煩わしいしきたりですわね。
先ず、相手の屋敷に到着しましたら、真っ先に当主にご挨拶を致しまして、当主が不在ならば、当主の正妻にご挨拶しまして、それから執事がメイドに指示を入れ、そのメイドがお相手の部屋まで呼びに行き、そこでやっとお相手に婚約者の到着が知らされるのです。婚約者と言えども、この世界では面倒な対応ですこと。
本日も、お部屋にご招待しておりまして、トキ様がお部屋まで来られますと、わたくし専属メイドであるララが、部屋の戸を開けて、わたくしは部屋の中からご挨拶した次第ですのよ。
挨拶が終わり次第、メイドがお茶の用意を致します。我が国にはコーヒーが存在しないようで、紅茶しかございません。紅茶の種類は幾つかあるようですが、前世の記憶を思い出したわたくしには、日本茶が…恋しいですわね。緑茶とか煎茶や玄米茶が、わたくしの好みでしたのよ。ああ…そう言いましたら、お抹茶も飲みたくなりましたわ。よく前世のお母さまが、抹茶を
懐かしくて…悲しい気分になりそうです。
当然の如く、日本茶もお抹茶もごさいませんので、飲みたくても…飲むことが出来ません。紅茶と緑茶は栽培方法や加工方法が異なるのですが、それだけと言ってしまえば簡単に感じるかもしれません。しかしながら、その紅茶の栽培方法や加工方法を、緑茶用の栽培方法と加工方法に変えていくよう、頑張って模索して行けば、将来的には緑茶が飲める日が、やって来るかもしれませんわ。わたくしの家もトキ様もお家も、お金には比較的余裕がございますし、緑茶の栽培や加工に投資することも、出来そうですわね?
コーヒーに関しましては、前世日本でも他国からの輸入で、コーヒー豆を手に入れておりましたから、この世界でコーヒー豆が見つからなければ、諦めざるを得ないでしょうね?…今のところは、コーヒーのお話は聞いたことがございません。
名称が異なるかもしれませんし、全く存在しないのかもしれません。どちらにしましても、お茶とは製造方法が異なり、加工方法はわたくしも存じませんけれど。
さて、トキ様は、わたくしの姿を見られた途端に、わたくしに会いたかったと、やや大袈裟にご挨拶されました。わたくしはお誕生会のエスコートのお礼を、改めてお伝えしながらも、ご挨拶の内容にはスルーし、無難な挨拶を致しまして。
ララとミリィは、わたくし達がソファに座るのを見計らって、絶妙なタイミングで紅茶を用意した後、部屋を出て行きます。戸を開けたり、タイミングを計ったりするのは、ララが得意な分野なのでして、紅茶を入れるのはミリィの方が、上手なのです。わたくしの好みも把握しておりますし。
「もしかして、また前世の夢を見たの?…カノンからの初めての呼び出しだったから、何か重要なことでも思い出したのかと、何とかこの数日で都合をつけて来たんだよ。」
「…はい。トキ様が…仰る通りなのですわ。わたくし、自分の夢がわたくしの前世であることに、やっと…気が付きましたのよ。」
わたくしのお部屋で2人っきりになりますと、トキ様はすぐ本題に入られます。
わたくしからトキ様に、お会いしたいので来てほしいとお願したのは、生まれて初めてでしたので、わたくしの事情を察してくださったようですわ。ですから、わたくしも前世に気付いたことを、正直に打ち明けましたのよ。
「つまり、カノンは…前世でも、『カノン』という名前なの?」
「はい。そうなのです。わたくしも、以前から夢を見る度に、不思議には思っておりましたけれど、名前の読みが同じでしたのよ。但し…この世界と前世の世界とは、言語が異なりますので、筆記では…全く違いますわ。」
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