12話 従姉妹との思い出

 「カノ!お誕生日、おめでとう!これ、プレゼントですわ!」

 「杏里紗ありさちゃん、ありがとうございます。まあ、これは…。わたくしが、前々から欲しいと願っておりました、手帳ですわね?…とっても…嬉しいですわ!…どうして、お分かりになられたのですの?」

 「…うふふ。カノの従姉いとこだから!…と言いたいところですが、実は…叔母さまから、叔母さまが入院されている病院に、お見舞いに参りました折に、お聞したのですわ。カノったら…相変わらず、子供らしい玩具とか、欲しがらないのですもの。偶には、もっと子供らしくて…女の子っぽい物を、欲しがったらいいですのに。」

 「まあ…杏里紗ちゃん。わたくしのお父さまは玩具おもちゃ会社の社長で、経営者一族なのですのよ?…玩具でしたら、見飽きておりますのよ。それに…わたくしは、他のお子さまとは違いまして、そういう物には…興味が湧きませんのよ。」


わたくしと、わたくしの従姉と名乗る杏里紗ちゃんは、現在わたくしのお部屋に、2人でおります。お父さまはお仕事に出かけられておりますし、お母さまは入院中でして、お家にはわたくし達以外には、お手伝いさん達しかおりません。

お家の家事全般やわたくしの世話は、お手伝いさん達がしてくれておりますのよ。今日は、わたくしのお誕生日のお祝いの為、杏里紗ちゃんが来てくださいましたのよ。杏里紗ちゃんのお母さまが、わたくしのお母さまの姉に当たりまして、わたくし達2人の母親同士が、姉妹なのですわ。ですから、わたくしと杏里紗ちゃんは、従姉妹いとこの関係となりますのよ。


 「カノは、一人っ子ですものね。わたくしには弟達がおりますから、毎日…五月蠅うるさ過ぎるぐらい騒がしいですし、落ち着きませんもの。それに…油断していましたら、弟達が何を仕出かすか、分かりませんのよ。」

 「…ふふっ。杏里紗ちゃんこそ、『お姉さま』というより、『お兄さま』みたいに、振舞われておられますのね?…いつも、伯母さまが嘆いておられましてよ?…もう少し女の子らしくしてほしい、と。今も…男の子とケンカとかされますの?」

 「…うっ。お母様ったら…。カノに…何をお話されておられるのかしら?…学校では…しておりません。男子が時折、巫山戯ふざけることがあるんですのよ。そういう時は、…ダメでしょう?…ですから、私が…注意していますのよ。あれは…ケンカではありませんのよ。」


杏里紗ちゃんの見た目は、それはそれは…お花が咲いたような、可憐な雰囲気の美少女なのです。但し…性格は、どちらかと言えば、男の子のようにサバサバしており、姉御肌のタイプなのでして。共働きでお忙しい、伯父さまと伯母さまの代わりとして、弟達のご面倒を見ていらっしゃるのです。弟さん達の愚痴を仰ってみえても、杏里紗ちゃん達姉弟は、とても仲が良いのですのよ。わたくしは一人娘ですから、羨ましいですわ…。


 「冷息令嬢が通う有名私学だと言いますのに、どうして…男子は、仕様しょうもないのかしらね?…会社の社長子息とかが多いですのに、くだらないことでケンカをしたり、女の子に意地悪したりしますのよ?…男のいう者は…年齢や身分に関係なく、世話が掛かりますのよ。カノは、もうすぐ6歳ですわね?…まだ学校には、通っておりませんものね?…学校に通うようになれば、分かりますわよ?」


ふん…と鼻息を荒くされ、怒ったようにお話される杏里紗ちゃんに、わたくしは苦笑しております。わたくし、私学の付属幼稚園には通っておりますのよ。

杏里紗ちゃんが仰られる通り、嫌な男子は実際におられますが、男子全員がそうではありませんからね?…まあ、杏里紗ちゃんのような姉御肌の女子からすれば、男子が頼りなく見えるのは、仕方がないのかもしれませんね?


 「…カノ。もし…叔母さまが来年も退院されず、入学式などの行事にご出席が不可能でしたら、わたくしのお母様を貸し出しますからね?…入学してから何か困った事があれば、わたくしには何でも仰ってね?…カノの面倒は、私が見て差し上げますからね!」

 「…ふふっ。勿論、叔母さまを頼りにしておりますわよ。杏里紗ちゃんも…ですわ。何かございましたら、お助けくださいね?…杏里紗お姉さま?」

 「…!…ええ、勿論ですわ!…わたくしが、…力を貸して、差し上げますわよ!」






    ****************************






 お誕生会のその夜、わたくしは…また夢を見ていたようです。ハッとして目が覚めますと、わたくしはいつもの自分の寝室で、寝ておりました。夢の中とは違い、天幕の張られたベットで。夢の中のわたくしは、ごく普通のシングルベットを使用しておりましたもの。父親は会社の社長でしたし、お祖父さまが会長をされておられましたから、現在の家と同じくらい…の家で、いいえ…きっと、現在の方がお金持ちだと思いますが。


わたくしの父は、有名な玩具メーカーの社長でしたが、開発費などに自分のお給料までぎ込んでおり、他の社長方と比べますと、自分の資産は少なかったと記憶しております。わたくしの父は、前社長である会長とは異なり、玩具を作ることに生き甲斐を感じているお人でした。母は、そのような純粋な父が好きで結婚したと、よくお話してくださいましたわ。


母も父と似たようなお人柄で、自分達が贅沢するというお方ではございません。

わたくしも、値段よりも使いやすい物や、より長く使える物とかを、選んでいた気が致します。但し、生まれながらの令嬢として、長く過ごして来ておりますと、世間一般の常識とは…ズレておりましたけれども…。


現在の両親も、夢の中の父と母に、何となく似たようなお人柄の方々です。

今世のお母様は、身体はとても丈夫でお元気なお方ですし、少々気の強い性格も見られます。夢の中の母は、わたくしが物心ついた頃には、病気がちな体の弱い方でして、入退院を繰り返されておられましたの。一度入院されれば、中々退院出来ずにまた…入退院されるのです。


前回の夢は、わたくしは夢の中の身体の中から、見ているだけでした。今回の夢は、わたくしと夢のわたくしが、一体化しておりましたわね。

わたくしは、この夢が…わたくしの以前の記憶である、と理解致しました。

そうなのです。まさしくこれは…前世の記憶そのものなのですわ。


前世のわたくしは、日本という国に住んでおりました。未だに思い出せた部分は、6歳までの頃まででして、その後は…思い出せておりません。確証はございませんが、どうやら同じ年齢頃までしか、前世の記憶が蘇らない、という感じではないでしょうか?…要するに、5歳の頃には、6歳になるまでの記憶を思い出す、という感じです。ですから、毎年少しずつ思い出すのは、ないのでしょうか?


前世の記憶を頼るならば、ここは…前世とは同じ世界ではない、と思われます。

わたくしは、前世でも本を読むのを好み、幼い頃から既に難しい本も読んでおりました。その6歳までの記憶でさえ、世界の歴史に触れた本も読んでおり、その記憶に頼るならば、この世界は前世の世界とは異なる世界である、と…わたくしの記憶が語ってくるのです。前世から見解では、この世界が異世界である…と。


異世界という単語に、この時のわたくしは、何かしらの引っ掛かるものを、感じておりました。しかし、この頃のわたくしには、それ以上もそれ以下の知識もなく、ただ単に異世界なのだと思っただけで。異世界とは、自分が生きている世界とは、決して交わらない世界。意味自体は理解しておりましたが、わたくしがこの異世界に存在しておりますことに、何かしらの意味があるような、気がして。

少し前のわたくしが、前世の記憶かどうかも理解出来なかったのと同様に、この異世界に生きる意味も、もう少し大人に近づかなければ、理解出来ない事柄なのかもしれませんね?


厄介なことになりました。わたくしは間違いなく、前世の記憶保持者でしたのね?これで…これまでとは異なり、何がこの世界の言葉で、何が前世の記憶の言葉で、という使い分けが可能ですわ。前世にしか存在しない言葉の場合、この世界では使用しないように気を付ければ、バレにくくなることでしょう。

現在は5歳ですが、前の世界でも同じく、わたくしは子供でした。

この年齢の一般的な子供よりも、知識は持っておりますし、表情は乏しいものですから、誰にもバレることはないでしょう。……を覗きましては。


問題があるとしましたら、他の前世の記憶保持者との接触時に、気を付けなければなりません。本来ならば、仲間に会えたと喜ぶところなのでしょうが、相手も同じ気持ちであるのかは、分かりませんもの。もしも、前世で何か因縁のあった方と、こちらの現世でも再会することになりましたら、現世での関係でさえ壊れてしまったり、遺恨が残る原因になったり、と…なるかもしれません。わたくしの正体がバレてしまえば、全ての前世の記憶保持者が、王家から監視されるかもしれません。トキ様が守るにも限りがございますし、十分に気を付けましょうか。


わたくしが思い出した事実は、トキ様には…ご報告しなければなりません。

トキ様を巻き込みたくはないのですが、彼自身がは、わたくしとトキ様は……一蓮托生なのでしょう。

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