11話 この世界の事情

 「…トキ様。少々お聞きしたいことが…、確認したいことがあるのですが…。」

 「…何?…僕が分かる範囲でならだけど、何でも答えるよ?」

 「確認なのですが……。この世界に、魔法や魔術は…ありませんですわよね?」


わたくしは不安になって来てしまい、一応確認してみることにしたのです。

トキ様でしたら…もしかして、と思いましたので。トキ様は少し驚いたようなご様子で、目を見開かれた後、目を瞑り…暫く考え込むような素振りをされています。

わたくしは、この間は大人しく待っておりましたわ。暫くして、トキ様は目を開けられて、まっすぐわたくしを見つめ返されます。


 「…いや、無いと思うよ。勿論、この国では、魔法や魔術は発見されていない。

後は…他の国々だろうけど…、今までには聞いたことがないかな?…でも…そうだよね?…魔法とか魔術とかのってことは、どこかの国に存在していてもおかしくないよね?…元々、こういう言葉は…前世の記憶保持者から、発せられた言葉と記録に残っていた。しかし…確かに少なくともこの国の本に、魔法と魔術の物語が載っているということは、…そういうことなのかもしれない。ただの物語の本だと思っていたから、今までは疑問にも思っていなかったけど…ね?……でも、どうして急にそう思ったの?…カノンの前世と、魔法や魔術に関係あるの?」


そうなのですね?…この世界では、魔法やら魔術やらは、という認識なのですね?…もしかしたら、魔法とか存在するのかもしれませんが、今のところは確証が殆どない、ということなのですね?…トキ様は本当に鋭いお方です。わたくしの質問から、わたくし自身の前世にとやらに、魔法とかがあったのかもと気が付かれたようですわね?…ただ…わたくしにも断言は出来ませんけれど。


 「…いえ、はっきりとは…覚えておりません。自分が使ったという記憶もございません。単に魔法を使う女の子を見た……?…いえ、でも、あれは…絵だったような気が致しますし……。…あっ!そう言えば…で見た気が…?」

 「…魔法を使う女の子が…絵だったというの?…箱のようなもので見た?…全く意味が分からないな…。前から思っていたことだが、カノンの前世の世界は、この国より…いや、この世界よりもずっと進んだ技術を持っている、と思うよ。魔法に関しては、存在したかもしれないけど。聞いている分には…存在しない気がするんだよね。魔法を全否定している訳ではないが、飽く迄も…、ということも…否定できないかな…。」


トキ様の仰りたいことは、よく分かります。魔法や魔術は存在すれば、途轍もなく便利なのでしょうが、のです。どの世界にも悪事をする人々がおり、そして…この国にもお隣の国にも、存在しておりましてよ。

お隣の皇国の皇帝が悪政をおこなっている、という噂が我が国まで、流れて来ておりまして、皇国はおかしくない、という状態なのですのよ。


魔法や魔術が存在するならば、武器を持てないでも、強い魔法が使えれば、戦争に出陣させられるかもしれません。魅了が使える者も存在すれば、使い方次第では、他者を意のままに操ることも可能ですから、存在自体が…怖いですわ。

魔法や魔術などは…存在しない方が、そういう意味では良いのかもしれません。


 「カノンの気持ちは…よく分かったよ。この国が便利で、もっと豊かになるのならば、前世に近づけることで改善したいし、君の知恵を借りたいと思うよ。但し、慎重にならなければ。あまりにも行き過ぎた改革は、君が前世記憶保持者という事実に、気付かれてしまう恐れがあるからね。そういう便利な記憶は、誰もが利用したいと思うし、君が狙われることになり兼ねない。王家が保護したい理由は…ここにある。僕としては、誰にも知られたい。君を監視することに…繋がるからね。」


トキ様は、監視される立場にしたくないと、ご自分の隣に置くことで、わたくしを守ろうとされたのです。これが…トキ様の本心なのですね?…わたくしを…こんなにも、大切に…大事にと思ってくださり、とても擽ったく感じますわ。

トキ様を本気で疑ってはおりませんでしたが、わたくしは…自分自身に、自信が持てなかっただけで…。公爵家には王位継承権がなく、それでも王家に何か起こった場合は、復活可能な権利を持っており、のが公爵家なのですから。別に…王妃になりたい訳でも、皇太子妃になりたい訳でもございません。

その方が、気が楽というものなのですわ。







    ****************************






 我が国ではで、第一王子が第一継承者、第二王子が第二継承者、他に王子の弟が存在すれば、第三・第四…と続きます。そして、王弟が存在されれば、王子達の次に継承権が発生致します。もし何かが起これば、公爵家の子息がその次に、という順になりますね。公爵家令嬢には、全く継承権がございませんが。

王女様がご誕生された時は、同じく継承権がございます。過去に何度か、女王様も存在されておられますのよ。


隣国の皇国では、皇女と言えど…女性には何の権利もないという、国により対応が各々異なります。我が国での女性の扱いは、随分とマシな方なのでしょう。

それでも、前世の記憶と比較し、まだまだ女性の権利も狭く、恋愛結婚も少ないという事実ですが。女性が自由に発言して自由に出歩く、そのことだけでも…前世の世界が、どれほど恵まれていたことでしょう。


これが…わたくしの前世と言うならば、このように発達が遅れた世界に、生まれ変わったのでしょうか?…何か役割が存在するというならば、使命を与えられていたとしても、正直…とても面倒に感じております。もし…神様がいらっしゃるのでしたら、「配役を間違えていますよ。」と、指摘するほどには…不満でしてよ?


我が国の神は、宗教上の観点では…存在する、と信じられてはおりますが、どちらかと言いますと、庶民には殆ど信じられておりません。教会を建てて神父が祈りを捧げておりますが、庶民には生活上に変化がない為、祈りを捧げる時間より働く時間を惜しむ、と我が家の従者達でさえ、申しておりますのよ。寧ろ、貴族だけが…髪を崇めている、という状態でしょうか?


教会は、慈善活動をしたり、親のいない孤児みなしごを預かったり、維持が大変なのです。神父は、教会を守ることが役目でして、特に収入がありません。

その為、貴族の寄付が必須条件となりますのよ。国の決まり事として、教会の管理をすることが、貴族としての義務とされており、我が家でも教会を幾つか管理しておりますのよ。


わが国には、教会が多数存在致しますので、なるべく上位の貴族が面倒を見ておりまして。子爵家・男爵家では貧乏なお家柄もあり、教会の管理どころではない、というお家柄も一部存在致します。余裕のある子爵家・男爵家には、教会の管理をしていただき、後は経済状況により、振り分けられておりますのよ。何処かの教会が潰れ、子供達が路頭に迷わないようにと。貴族でさえも、教会を義務で維持している、との考えを持つお方がおられるのですから、神様の存在を信じている庶民が少ない、のは仕方がありませんね。神様を祭る行事の際だけは、神を崇めてお祝いする、というのは…前世の世界も、同じなのかもしれません。


来年には、わたくしの弟か妹が誕生する予定でして、王家でも現在、皇太子妃様が妊娠されておりまして、似たような頃にご出産される予定と、聞いておりますわ。

我が国の王族の婚約者は、女性が年上となる場合には、3歳までが好ましいとされております。当然ですが、これはのことで、恋愛結婚ではこの限りではないのですが。王家では政略結婚が多い為、対象を態と狭めておられます。現在の殿下は、学園で見染められた侯爵家のご令嬢と、恋愛結婚をされましたわ。王家でも先代頃より、恋愛結婚をと取り入れられておりまして、何も問題が起こらなければ、次代もそうなることでしょう。こそ…ですわ。


我が国の王家も貴族達も、そして庶民達もこの国では、一夫一妻と決まっておりますのよ。と言いましても、現皇太子様がお決めになったことなのですが。

まだ最近になってから、決まったことなので、現国王には側妃様がおられます。

お隣の国では、まだ王妃様以外の側妃も、許可をされておられます。その為、まだ反対される貴族のお方が、多数おられるそうですわ。国王の跡継ぎが誕生しなければ困るとか、自分達も堂々と愛人が持てなくなるとか、騒いでいるそうでして。

いつの世も、男性は…浮気性な部分がありますのね?…その点は、前世の方がマシなのかしら?


これに対して王家側は、他にも王位継承者はおり、側妃を娶れば余計に軋轢を生じさせ、跡継ぎ問題で揉めるだけだとして、却下されておられますのよ。

公爵や貴族も増え過ぎますし、貴族のバランスも崩れますわね。男性だけが妻を沢山貰うという考えは、もうだと思いましてよ。


殿下には…1人の女子として、とても好感を持てましてよ。子供が沢山誕生すれば良い、という考えは古過ぎましてよ。実際に前世では、王家と言えども一夫一妻の国が多いのですからね。

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