9話 婚約者の決定
今日は、わたくしの5歳のお誕生会。トキ様にエスコートされて、広間に入場致しました。先ず、両親がわたくしのお誕生会へ、ご出席くださった御来賓の方々にご挨拶をされました後、主役であるわたくしもご挨拶を申し上げましたのよ。
後は、大人の方々から順に、わたくしにお祝いの言葉を掛けてくださいまして、その後には、わたくしの幼馴染であり、お友達でもあるリナ、エイジ、ユイ様がお祝いに来てくださったのです。
エイジがいつも通り、気安く挨拶されたお言葉が、あまりにも…でしたので、トキ様がエイジに冷たい態度を取られております。彼はエイジにも何度か会われておりますが、エイジのことを普段から良く思っていないご様子ですのよね?
まあ、エイジは侯爵家の次男ですのに、品がないのですよね?悪い子ではないのですが、騎士を目指しているのもあり、騎士は身分関係なく男性ばかりですから、彼もその影響を受けているようなのです。頻繁に、騎士団にも見学に行っているようですからね?(幼馴染で婚約者である、リナ談ですのよ。)
そしてリナも…エイジを睨みつけておりました。リナはエイジよりも頭1つ分ほど背が高く、また大人っぽい容姿ですので、結構な迫力がありましてよ?リナと目が合ったエイジは、タジタジとなっておりますわね?うふふふっ。お2人は中々お似合いですわよ。ただ…エイジは、わたくしよりも背は高いのですが、リナには負けておりますから、その点が悔しくて仕方がないようなのですわ。ですから、リナに対しても、中々素直に接することが出来ないのでしょうね?
「カノンちゃん、5歳になったんだね?おめでとう。また、エイジが何か言ったんだろうけど、気にしないでいいからね?エイジには後で僕が叱っておくからね。
…エイジ。家に帰ってから、じっくりと事情を訊くからね?」
……あら、あら。エイジは…反抗期なのかしら?…たった今、ご挨拶にいらしたのは、サンドル侯爵家の長男で嫡子である、『リョルジュ・サンドル』様ですわ。
エイジの実のお兄様なのです。周りからは『リョー』様と呼ばれており、わたくしもそう呼ばせていただいておりますの。エイジは、茶髪茶眼の比較的多い色素を持つ容姿ですが、兄であるリョー様は、銀髪パープルの眼の珍しい色素を持ったご容姿で、遠目でもとても目立つお
「リョー様。ありがとうございます。ふふっ。…エイジの態度につきましては、トキ様もリナも、わたくしの代わりに言ってくださいましたから、もう気にしておりませんわ。それに……いつものことですもの。」
「カノン……。」
リョー様は、エイジとの遣り取りを見ていらっしゃってないのに、実の弟のやりそうなことは、分かっておいでですのね?…エイジはリョー様のお言葉に、すっかり捻くれた子供のような顔をして、そっぽを向いておりました。そう言えば、以前からあまりにも兄が自分にだけ厳しいと、俺は嫌われているとか何とか、申しておりましたわね?
わたくしは別に、助け舟を出した訳ではないのですが、エイジには庇ってもらったと思われたようでして。感激したような表情でわたくしを見つめてくるのです。
その途端、わたくしの横にいらっしゃるトキ様が……。トキ様の笑顔が…変わった気がしたのです。何となく冷気が漂うと言いますか、周りの温度が下がったと言いますか……。笑顔のままなのに……、目が笑っていないような…?
トキ様が…怒っていらっしゃる?誰に…?……何に対して?理由が分かりません。
…トキ様。今のお顔は……わたくしでも、ちょっと怖いですわね…?
…え~と。トキ様のご機嫌が、何故か悪くなりましたので、エイジも……そういう顔をするのは止めてくださいませ…ね?
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「あ、あの…カノンフィーユ様。…は、初めまして。わたくし…ア、アリッサ・テオドールと申します。…こ、この度は、カノンフィーユ様のお誕生会にご招待いただき、…御一緒にお祝いできること、…心より嬉しく…思っております…わ。…ご、5歳を迎えられましたこと、ま、まことに…おめでとう…ございます…。」
「…初めまして、アリッサ様。ご丁寧にありがとうございます。今日は、わたくしのお誕生会にご出席いただき、ありがとうございます。ごゆっくりとなさってくださいませ。それから…宜しければ、わたくしのことは、『カノン』とお呼びくださると…嬉しいですわ。」
「……は、はい、カノン様。では……わたくしのことは、『アリー』と……。」
わたくしはユイ様と、リナとエイジと、トキ様とリョー様とで、それぞれお話をしておりますと、ブルーの髪とグレーの瞳の色素を持った少数派の容姿で、リナとは異なる将来は美人系の少女が、わたくしに声を掛けて来られましたわ。恐る恐るというように。どこかオドオドとした自信のないご様子でしたけれど、ご挨拶はしっかりされており、身分の高さが窺えましたのよ。それに…テオドール家と言えば、確か…侯爵家でしたわね?この前、家庭教師の先生から教えてもらったばかりですが、早速役に立ちましたわね?
この目の前の少女は、わたくしたちと同じくらいの年齢と思われます。
でも…テオドール侯爵家には、わたくしと同い年の女の子は、おられない筈で。
…え~と。確か…年の離れたお兄さまがお2人で、末っ子とのことでしたわね?
ということは……末っ子の女の子は、わたくしよりも1歳上だった筈。
「失礼ですが、アリー様は6歳になられておられますか?」
「あ…はい……。4月生まれですから、お誕生会は…既に終わっております。じ、実は…わたくし…物凄く緊張してしまって……。このようにどなたかのお誕生会に出席させていただいたのは、は…初めてなのです。わ、わたくしのお誕生会も、…今までは家族と親戚だけでしたので……。」
「まあ…。そうでしたのね?…アリー様。我が家のお誕生会に出席されている方々は、皆さん良いお方ばかりですから、気楽になさってくださいませね?」
どうやら…アリー様は、人見知りの激しいお方なのですね?…アリー様のお話からは、わたくしのお誕生会を切っ掛けに、お友達を作られて、ご自分のお誕生会でもお友達を呼びたいと、思っていらしたようなのです。そうですわよね。貴族は縦と横との繋がりが必須ですから、人見知りでは通りませんものね?…特にアリー様の立ち位置は、侯爵家の人間ということで、見本を見せる立場の人間なのですのよ。
アリー様のご両親は、我がアルバーニ侯爵家と同じく、中立派なのですわ。
今回両親が初めてご招待致しまして、初めてご出席するのに丁度良いと、アリー様のご両親はご判断されたそうです。確かに、行き成り男子のお誕生会にご出席されるのは、難易度が高いでしょうからね?…女子のお誕生会にも、こんなにも緊張されておられるのですから、暫くは無理なのでしょうね。
わたくしはこの機会にと、すぐ傍に居られます面々を、アリー様にご紹介致しましたのよ。アリー様は、トキ様やリュー様にだけでなく、エイジでも噛み噛みでご挨拶されておられましたわ。リナやユイ様にも、緊張をされておられましたし…。
アリー様のお話では、今までにお話されたことのある男性は、お父君と侯爵家の執事と従者ぐらいだそうでして。…まあ、それでは…緊張致しますかしら?
「本日は、わたくし共の娘であります、カノンフィーユ・アルバーニの5歳誕生会に来てくださり、誠にありがとうございました。…これにて、誕生会の方を終了させていただきたいと思います。…しかし、その前に…本日いらした皆さまには、ここで重大なご報告をさせていただきたく存じます。」
さて、そろそろお誕生会もお開きかしら?…と、思っておりましたところに、お父様がお誕生会の締めのご挨拶をされまして。ここまでは…例年通りでしたのよ。
問題は…ここからでしたのよ。広間では、出席者一同…不審に思われたご様子で、ザワザワとされておられます。……お父様ったら、終了間際の今更に、何をご報告される気…なのかしら?…そう呑気に思っておりました、わたくしは。
「実は…この前日に、トキリバァール・ラドクール様より直々に、我が娘カノンフィーユ・アルバーニとの婚約の件を、正式にお申込みいただきましたので、本日この場にて、正式にお受けいたしましたことを、ご報告させていただきます。」
………。……えっ!?…トキ様が…わたくしに…申し込んだ……?!…ええっ!?
何を……?!………婚約?!…わたくしとトキ様が……婚約?!
わたくしは…呆然としておりました。一瞬の間、何も聞こえない程に……。
わたくしはゆっくりと、隣に居られる筈のトキ様の方に、自分の顔を向けまして。
トキ様もわたくしの方を振り返られて、わたくしとトキ様は、暫く見つめ合うような感じとなっておりましたら、わあ~と盛り上がるような大歓声が聞こえまして。広間にいらっしゃる出席者の方々が、割れんばかりの拍手をされながらも、「おめでとう!」と口々に仰っておられまして。
わたくしはもう一度、緩慢な動きでトキ様を振り仰ぎまして、彼がわたくしに向けて、にっこり微笑み返るのを見つめ返し…。……ああ、こういうことでしたのね?
要は、トキ様は前世の記憶を守る為にと、わたくしと…婚約をされたのですのね?
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