悪魔の思惑
日本は技術立国と呼ばれていた時代もあったがそんなもん、過去の話で政治家や官僚達はその技術者からどれだけ金を巻き上げるかしか考えておらず――その結果、優秀な技術は次々と海外や天照学園に流出した。
その他にも政府は天照学園の技術や富をあの手この手で強引に奪い去ろうとしたり、天照学園の人材を引き抜いて使い潰そうとしたり、政治などに関わらせないようにした。
官僚連中も「どれだけ天照学園から上手く搾取できるか――」で成績が決まるような風潮があったぐらいである。
だが誤算もあった。
日本の政財界――宮園や天村財閥などの二大巨頭。
海外の巨大勢力を取り込み、もはや日本から何時でも独立できるような体制を整え、とっくの昔に主従関係など逆転していたのだ。
さらに悪いことにブラックスカルの反乱により、これまでの悪事が容赦なく暴露された。
ブレン軍との戦いで多少信頼を取り戻した上にブレン軍のテクノロジーを収集出来れば天照学園を出し抜けるかもしれない。
だがそれでも政治家達は不安だった。
それにまだブラックスカルとは比べ物にならない程の組織と繋がりがあるからだ。
そいつらを殲滅するためのカードが欲した。
闇乃 影司を捕まえたのはほんの偶然だ。
そしてこの名前のない極秘施設に放り込まれ、闇乃 影司は想像以上の成果をもたらした。
Side 志堵 レンジ
志堵レンジはよくも悪くも悪の科学者である。
頭脳はあった。
容姿もいい。
だがコネと金がない。
人望もなかった。
"どうして自分を認めてくれない!? どうして自分を讃えてくれない!?"
そんな気持ちを抱えて生きて、後ろ暗い研究に進んだ。
ライバルを蹴落とすためならどんな手段も使った。
どちらかと言うとブラック企業の上司とか、悪徳政治家とかに向いているような人物だ。
そんな彼はこの研究施設に巡り会い、そして闇乃 影司と言うサンプルを手に入れた。
(これは素晴らしい!? 素晴らしいぞ!?)
ブレン軍のテクノロジーも凄いが闇乃 影司は想像以上に素晴らしい。
何しろ"文字通りにあらゆる分野に応用できる"。
軍事分野だけにとどまらずIT分野や医療分野にも応用できる。
控えめに見積もっても天照学園が保有している科学技術と同等、もしくはそれを凌駕する可能性も出た。
今やこの施設にいる科学者達は全員、金脈や石油を掘り当てたかのような騒ぎようだ。
そして問題も出てくる。
「必ずこの技術を狙う奴が出てくる――だがこの技術を使って強化すれば返り討ちになど容易いことでしょう」
会議室でそう発案した。
居並ぶ人間は政治家、経済界の大物など、日本再興後に大物でなりえるであろう人間が集まっており、志堵の意見の方針で話は進められていた。
日本政府の闇――その別働隊でもあるOーTEC社の面々は参加させていない。
天照学園の裏切り者もいるし、ブラックスカルでの失態の責任があるので知らせていないからだ。
志堵としてもその方が都合がよかった。
(ライバルは少ない方がいい。後はどうやって他の連中を蹴落として成果を独占するか・・・・・・)
科学者はただ頭がいいだけではやってはいけない。
政治や経済、法律にも精通していなければならず、でなければ成果を横取りされたり難癖付けられた挙げくに安く買い叩かれる。
科学者に限った話ではなく、技術系企業などでもありえる話だ。
それを科学者や技術社、企業が分かっていなかったし、守るべき政治家や官僚も無理解(と言うか理解する努力があったのかも怪しい)だったから日本は技術立国から転落し、治外法権と化した学園都市に追い抜かれるたである。
だがそんなことは志堵からすればどうでもいい。
そのためなら何だってやる。
どうせモルモットたち(拉致した人間)はどいつもこいつも死んでもいいような奴ばっかりだ。
モルモットに同情するような奴は科学者として三流。
殺してでも成果を独り占めにしてようやく二流。
自分の手を汚さずに成果を独り占め出来て一流なのだ。
少なくとも志堵はそう考えていた。
現にこの場所ではそう言う連中ばかりだ。
だからGOサインされた。
中にはモルモット相手に"息抜き"と称して研究者や兵士問わずにセックスしたりしている奴もいて、女のモルモットが死んだら「なんか勿体ないな~」とかほざいたりする奴もいるが女なんて言う"セックスの道具"は金さえあれば後で幾らでも調達出来る。
そんな暇があるなら他者を蹴落とす算段などを考えるべきである。
☆
Side 阿久津 雅人
この極秘基地責任者の阿久津 雅人。
悪者っぽい中年太り通り越して脂ぎった豚男で、ここ最近の趣味はモルモットのレイプで仕事もほとんどモルモットのレイプやこの基地の職員に相応しい屑のリクルート作業と言う奴だ。
赤いカーペットが敷かれた執務室の横――まるでラブホのような内装の場所でまだ年端もいかない女を犯してふと考え込んでいた。
(成果は順調。せいぜいトカゲの尻尾切りに遭わんように気をつけんとな・・・・・・)
などと考え込んでいた。
これも闇乃 影司様々である。
天照学園の連中やヒーロー達の脅しのカードに使えるかと思ったが思わぬ拾い物だった。
なにしろ不老不死、あらゆる難病の克服だけでなく若返りまでもが視野に入る。
ブレンの御蔭で路頭に迷った人間など吐いて幾らでもいる。
モルモットは幾らでも調達出来る。
(施設の強化も重要だが――精々、身内に寝首を掻かれないようにせんとな・・・・・・)
ブラックスカルの一件を思い出す。
あれのせいで日本は政治的にも経済的にも大ダメージを受けた。
ブレンテクノロジーがあるとは言え、もしここが何らかの形で発見されたらすぐさま焼却処分され、関係者は殺される――もっとも殺されるだけで済めばよいのだが・・・・・・
阿久津は殺されるのもそんな悲惨な末路もイヤだった。
生殺与奪の権利はこちら側にある方が決まっている。
(待てよ? この基地の存在をあえて暴露して、手柄も成果も独り占めして、ついでに天照学園のヒーローごっこしている連中を批難すれば地位は安泰ではないか?)
手柄や地位と言うのは大きくなればなるほど、敵を増やす。
ならば敵だけを擦り付ければいい。
幸い日本国民はバカで大人しい。
デモだってそうだ。
ただ礼儀正しくプラカードを掲げて猿よりもバカみたいに反対の声をあげるだけ。
しまいには何故かラップを歌い出す。
半年もすればどんな悪行も過去のことにしてくれる。
例え教師間のイジメが問題になってもこの国ではカレーを原因のせいにすれば凌ぎきれるのだから。
そんな国民たちだからこそ政治家や官僚は悪徳のかぎりを尽くせるのだ。
十年先の国の未来よりも十年後の自分の地位の安泰。
そのためならどれだけ自分の手を汚さずに蹴落とせるか。
それが出来る奴がこの国で出世できるようになっている。
阿久津もそれが出来た口だ。
だからこそ計画を練る。
もっとも、その計画は発動する前に終わってしまうのだが・・・・・・
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