第25話 できない仕事を受けるな
除霊は順調に進んでいる。
里奈は空気の悪いほうを探してスプレーを噴射。僕は里奈を見守りつつ霊にスプレーをかける。
「里奈がスプレーしてる辺りって結構ピンポイントで霊がいる所ばかりだよ。霊センサーが仕事してるね。精度自体も上がってると思う」
「本当?私は何となく見たくない場所とか行きたくない場所にスプレーしているだけだよ」
「本能だね。嫌な場所をちゃんと察知できるようになってる」
「そのうち姿も見えるようになるかな?」
「もう見えるんじゃないかな。嫌な感じの場所をじっと目を凝らしながら見てみな。最初は影とか靄が見えるようになって、次第に形が見えてくようになるよ」
強いやつはもう見えるかもね。僕たちの除霊は余裕があったので、里奈の練習をしながら作業を続けた。
「さぁ、里奈。どの辺に霊がいると思う?」
「うーん、私の左前。5メートル位?あ、まって正面5メートル位?」
「これはひっかけ問題だね。左前と正面の2体いる。だからどっちも正解。どっちが強い霊かわかる?」
左前は人の形をしている霊。正面は人の形は崩れてる霧状の霊。
「左前かな。正面よりそっちのほうが気持ち悪い気がする」
「正解。左前は人型。正面は力がなくて形が崩れてる」
ブラボー!
里奈はスプレーで霊を消し去っている。
除霊が始まって2時間弱。僕たちのCブロックは除霊をすべて終えていた。
「OK、Cブロックはもう平気かな」
「嫌な感じがなくなったね。他の人たちはどうかな?」
Bブロックの小暮夫婦は、夫人が霊を特定し、旦那が祝詞をあげて成仏させていた。言葉で除霊しているので、まだブロックの除霊は残っていた。
Aブロックは2人でお経をあげて成仏させる手法なので除霊はあまり進んでいない。霊の数も多いAブロックは手伝わないと終わらないな。
まずは現場担当者さんにCブロックの除霊が終わったことを伝え、Bブロック、Aブロックと手伝いに入る旨を伝える。
「小暮さん、Cブロックが終了したのでBブロックの手伝いに入ります」
「あら、Cブロックはもう終わったのね。じゃあお手伝いお願いしますね」
僕と里奈は先ほどと同じように除霊を開始する。里奈に場所を特定してもらい、そこにスプレーをして除霊。祝詞っぽいのを唱えて霊を祓う流れ。
「忍はいつも小声で何を唱えてるの?」
「僕の呟き?お腹が空いたとか、テスト勉強しなくちゃとか、里奈は今日も可愛いとかを、ぶつぶつ言ってるだけだよ。もごもご呟くとそれっぽいでしょ?言葉の意味は全くないからね」
「たしかにそれっぽく聞こえるから不思議だね。あと、私を褒めてくれるのは嬉しいけど、分からないようにしてね。照れちゃうから」
「思っていることを言ってるだけだから褒めてるつもりはないな」
「そうですか。忍はおべっかが上手だね。お礼に肩でも揉んであげようか?」
じゃ、今度お願いしようかな。
Bブロックの作業も残りわずかだ。Aブロックの様子を見るがまだ半分近く霊が残っている。
「Aブロックも手伝うよ。里奈は担当者さんに現状報告してきてもらえるかな。Aブロックの補佐に入る旨も伝えてきて」
里奈に報告をお願いしてAブロックの確認をする。さっき少し感じたのが除霊にかなりてこずっているのだ。
今も祓ってる霊たちに囲まれているし。大丈夫かなぁ。
「Aブロックは少し難航しているようね。私たちも手伝いましょう」
Bブロックの除霊を終えた小暮夫婦とAブロックに向かう。
Aブロックで除霊をしていた2人は大分疲れているようだ。お経を唱えて霊を成仏させようとしているが、なかなかうまくいかないようだ。
まずは遠藤・佐島さんペアに手伝いを申し出る。勝手に手を出すと怒られるかもしれないから。除霊師はやたらプライドが高い人が多く感じる。自分の能力が劣っていると思われるのが我慢できないらしい。
「いや、手伝いは必要ないです。ノルマをこなしたなら休んでいてください」
手伝いを断られてしまった。
これには小暮夫婦も苦笑い。
「手伝いが必要に見えますが?」
小暮夫人が話しかけても必要なしと繰り返すばかり。
佐島さんは手伝ってほしそうな顔をしている。上司の遠藤さんが手助け不要とい言い張っているんだろうな。
「小暮さん、手伝いが必要ないという事なんで集会場に戻りましょう。彼らもプロですから時間内に間違いなく終わるでしょう」
意固地になってる姿は何をいっても無駄だろう。
集会場に戻り担当者に報告をする。B・Cブロックは除霊終了し待機状態。Aブロックは除霊作業がかなり残っているが手伝いをすべて拒否する。今のペースでは時間内に終わりそうもないと告げた。
「それは困りましたねぇ。今のペースでは終わらなそうですか」
「ええ、僕たちが何を言っても聞きません。担当さんから手伝いを受け入れるように言ってもらえますか?こんなことで依頼が失敗の扱いだったら我慢なりません。まさかAブロックが終わらないからといってB・Cブロックが失敗扱いになりませんよね?」
僕たちは与えられた仕事をちゃんとこなしているんだ。失敗扱いされたらたまったもんではない。
「彼らには荷が重いと思いますよ。部下の方は手伝う事に反対はしていませんでしたが、上司の方が全く聞き入れません。プロ意識が皆無です。なんであんな人に頼んでいるのか理解できません。ボランティアなら有りですがお金貰っての作業ですし」
小暮夫婦も担当さんに抗議を行う。
しかし、担当さんも困り顔。何故かというと、あの2人はこの近くの寺から派遣されていて、当初は寺の関係者のみで除霊を行おうとしていたみたい。過去にもその踏切の除霊を行っていて、今回でもう3回目らしい。過去2回の除霊はなんだったのか?
「それって過去の除霊に失敗してるんですよね。完全に祓ったらこんな状態になるわけないですし」
担当さんも、
「ですよねー。おかしいとはみんな思っているんですが、上役関係で今回も依頼がいったみたいです」
「はっきり言ってやったらどうですか?使えない除霊師だ。除霊できてないじゃないかって。そしたら後日、僕が残りを祓ってもいいですよ。別料金ですが」
まぁ、この場で担当さんが決めることはできないだろう。
「とりあえず皆さんはここで休んでいてください」
担当さんは現場に進捗状況の確認に向かった。
結局、Aブロックの2人は残り3割を残し時間終了した。
集会場に除霊師全員が集まった。
「えーと、今回の除霊作業については時間が間に合わなく未完了という結果になりました」
担当さんの言葉に僕たちは驚く。
小暮夫人がが手を上げ反論する。
「私たちや月宮さんは仕事を完了しています。未完了ではありません」
「はい、小暮さんや月宮さんからは終了報告をして頂きましたが、全体で見ると作業は未完成です。除霊作業が終わってないので仕事の代金の振込は完了後となりますので少し遅れてしまうかもしれません」
あれ、この人何言ってるんだ?
僕も声を出す。
「あの、いいですか。僕たちの仕事は完了してるんですが。未完了の遠藤さんと佐島さんに料金を払わなければいいのでは?彼らと僕たちは同じ所属じゃないですよ?」
「いや、しかしですね。今までの支払いは纏めて処理をしていたもので」
「いや、それはそちらの都合であって僕たちには関係ないですよね?なんで僕たちが力のない除霊師に合わせなければいけないのですか?」
担当さんは黙ってしまった。そりゃ担当さんも自分がめちゃくちゃ言ってるって理解してるだろう。
「あの、その、上司に相談して連絡をさせてください」
担当さんが小さく答えた。
そこで小暮さんの旦那が、遠藤・佐島ペアに声を掛けた。
「君たちのせいでこんなことになっている。どうするんだ?仕事は失敗し、応援も必要ないと断った。君は本当に一人前の除霊師か?見習いとかじゃないのか?君たちは我々の手伝いを断った。作業が終わらない事がわかっていて断ったのだろう。つまり君たちは我々の妨害がしたかったのか?」
佐島さんは青くなって下を向いている。遠藤さんは顔を真っ赤にして耐えている。
小暮夫人が止めを刺した。
「この踏切の除霊を過去もしてるそうですね。今日祓った霊の様子をみると失敗してますね。まさかお金をもらってませんよね。霊を祓えないのにお金は払えなんて都合よすぎじゃないですか?というか本当に除霊してるんですか?」
除霊はしていたね。ものすごくゆっくりだけど。
担当さんは僕たちを宥めようと必死になってる。ちょっと担当さんが可愛そうになってきた。
遠藤さんがぼそっと、
「俺たちは予定通りに祓ってる。問題ない」
と小声で言った。その言葉に僕はカチンときてしまった。
「問題だらけじゃないですか。現に除霊作業は終わってないんですよね?予定は今晩中に作業を終わらせる事でしたよね。全然終わってないじゃないですか。そんな技術でよく代金を貰えますね。うちの新人のほうがよっぽど仕事できますよ。うちの新人はこんなに除霊能力も有って、若くて、おまけに器量もいい。担当さん、今度からは僕らが仕事を受けますよ。決まった時間に決まった料金の仕事。おまけに失敗は無しです。自称除霊師なんて雇わないほうがいいですよ」
彼は黙ってしまった。担当さんも困り顔。
結局、担当さんと僕たちで話し合った末、前金20万は本日の支払い、そして残り80万は一ヵ月後に振込で納得した。
小暮さん旦那は、
「一応、今回の事は行政や不動産ネットワークの除霊担当者に話をしておきます。今回のような事が起きないように注意を促します」
小暮さん旦那かっこいい。
今回の一件で件の寺は名を落とすだろう。素直に手伝ってもらえば何の問題も起きないのにね。変なプライドのせいで大事になった。悪い噂が立つと依頼は一気に減るからね。
その後、仕事終了後に小暮夫婦と連絡先交換をした。除霊師のつながりは大事です。
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