第24話 噂の踏切
8月中旬。
今回の除霊の仕事は真夜中の仕事である。
依頼主は鉄道会社。大口の依頼である。依頼内容は踏切の除霊。夜中の電車が止まっている間に除霊の作業を行う。
その踏切では人身事故がやたら多い。まぁ、霊が引き込んでいるんだろうけど。
本当に飛び込んでくる現実の人の他にも、死人の霊が何回も飛び込んでくるらしい。電車の運転手は、またかと思いながらも電車を止めて確認しなければならない。ダイヤが大幅に乱れるので鉄道会社も困っているらしい。
終電から始発までの時間である程度の成果を出さないといけない。その為、複数の除霊師が片っ端から除霊をおこなう事になったのだ。
夜中の仕事なので里奈は休ませる予定だったが、参加したいと言い張り僕が折れた。
親にまでしっかり許可を貰ってるんだもん。断れなかった。
除霊現場には鉄道会社の社員が十数人と除霊師が3組呼ばれている。鉄道会社の社員が多いのは、深夜の貨物列車対策の見張りである。僕らが人身事故を起こしたらシャレにならないからね。貨物列車の通る時間は分かっているけど、念のため踏切の前後に安全対策の人員を配置するらしい。
実際の作業は午前1時過ぎから。現地近くに借りてある集会場に僕たちは集合している。
現在の時刻は21時。
鉄道会社の担当者が最終のスケジュールチェックをする。
「みなさん、本日は除霊依頼を受けていただきありがとうございます。皆さんには現場になる踏切を3分割してそれぞれを担当してもらいます。まずAブロックは遠藤・佐島さんペア、Bブロックは小暮さんのご夫婦ペア、Cブロックは月宮・沢木さんペアとなります。終電の午前1時から始発前の午前4時半まで。3時間半での作業になります。途中、貨物列車が3回ほど通過しますので十分に注意をして除霊作業をお願いします」
3時間半か。余裕でしょ。
「忍、私少し緊張してるかも。他の除霊師さんたちに私も混ざっていいのかな」
「大丈夫だよ。血水を撒くだけなんだから」
今回は里奈も除霊師として参加してもらっている。まだ霊を見ることができないが気配を探って血水をばら撒いてもらえればOKだったから。
「血水たっぷり用意してあるから1~2メートル毎に噴射して行けばOKだよ。取り逃がしたやつは個別に僕が始末する」
「わかった。私はCブロック全体を処理するつもりでやるね」
「うん、僕は霊を個別にやっていく」
Cブロックの大きさは30メートル×100メートル位の範囲。広範囲だけど3時間半もあれば十分だ。
「作業開始まで時間はあるからゆっくりしよう」
テーブルにあるお茶とお菓子に手を付けてくつろぎだす僕たち。
煎餅を食べながら他のペアを観察する。
Aペアは30代位の男2人。2人で小声で話しながら計画を練っているようだ。Bペアは30代男性と20代女性の夫婦。旦那は目をつむり瞑想している。奥さんはお茶を飲みながら……あ、こっち来た。
「はじめまして。小暮麻美と申します。今日はお互いに頑張りましょう」
小暮夫人に話しかけられた。
「初めまして。沢木里奈です」
「初めまして。月宮忍です」
小暮さん、めちゃくちゃエロい。艶っぽくてこちらを見る目が獲物を狙うハンターのようだ。僕たちを値踏みしているようだ。
「今日はお互いに頑張りましょう。沢木さんと月宮さんは同じ宗派の同僚かしら?」
「いや、僕たちはフリーの除霊師ですよ」
「あら、そうなの。この依頼主さんから呼ばれるなんて随分と有能なのね」
その通り。鉄道会社に依頼される個人なんてよっぽど有能じゃないと話はこない。不動産屋や行政からの依頼を失敗なくこなしているので、僕たちもかなり名前を売ることに成功している。
「若いのに素晴らしいわ。失礼ですけど月宮さんのお母様って月宮静江様かしら?」
静江は僕の母だ。昔は除霊師としてブイブイいわせてたらしい。今の母からは想像もできないが。
「ええ、静江は母です。知ってらっしゃいましたか」
「それはもう。私たちが駆け出しの頃に大活躍していた大先輩ですもの。静江様の活躍は今でも語り継がれていますわ。その息子さんも立派な除霊師だなんて。月宮の血は素晴らしいと証明されましたね。私の一族も月宮の血が欲しいくらいですわ」
ちなみに父は入り婿である。
「母には今でも頭があがりません。でもこれからは僕が月宮と言われるように頑張りますよ」
「そうね。頑張ってくださいね。それではまた後程」
小暮夫人は旦那の元に戻っていった。
「忍の家は代々除霊師だったんだ」
「うん。母親も婆ちゃんも除霊師だった。今は引退してのんびりと主婦してるみたいだけどね」
小暮夫人は月宮の血が欲しいって言ってたな。月宮の血を引く子供は、現在僕しかいないから狙われないようにしなきゃ。
月宮の血水の事も知っているのかもしれない。
それから数時間。
終電も通りすぎて除霊の時間になった。
噂の踏切に移動する。
「こりゃ凄いな。ABCどのブロックにも沢山いるよ。強烈なのはいないけど十分脅威だな」
「この辺一帯がもの凄く嫌な感じだね。呼吸しずらい感じ。空気はねっとりしてるし、見える範囲全体がグレーの景色と化してる」
うんうん、里奈も大分感じることができるようになったな。
「そうだね。ざっと見てAに30体位、B・Cは20体位かな。僕たちの手に余るような霊は見えないけど、個々の強さはそれなりにありそう。Aブロックが少し大変かな。そこそこ強いのが見える。ここは事故が多いいのも理解できる濃さだよ」
小暮夫人が僕らに提案をしてきた。
「B・Cブロックの除霊がすんだら、Aブロックの手伝いに行ったほうがいいのかしら。あちらは少し大変そうですし」
「そうですね。Aのペアが頑張ってくれればいいんでしょうけど。とにかく担当箇所が終わったら手伝いに回りますよ」
それぞれの持ち場に分かれて除霊を開始する。
里奈に血水のスプレーと替えのボトル3本を渡す。
「とりあえずこれだけ渡しておくね。替えボトルはあと10本ほど鞄に入っているから。それとスプレーした後の祝詞っぽいのも忘れずにね」
「わかった。忍になったつもりで祓っていく。嫌な感じのするほうへ行くね」
里奈には前もってスプレー後の祝詞みたいな言葉を小声でごにょごにょと唱えるように言ってある。依頼者への除霊してますアピールだ。
歩き始めた里奈にスプレーをシュッとする。里奈に霊が憑かないようにね。
「さぁ、僕も始めるか」
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