第23話 寝顔の写真
翌朝、7時。
ふぁ、気持ちよく寝ていたが体をゆすられて目が覚める。
「忍、おはよう。もう朝だよ。朝ご飯食べるから皆を起こしてね」
目を開けるとすぐ傍に里奈がいた。同級生に起こしてもらえるなんて恋愛ゲームみたいなシチュエーション。
「うん、起きる」
手を伸ばし里奈の頬を一撫でする。あ、やばい寝ぼけて調子に乗っちゃった。
しかし里奈はにっこり笑って、
「二度寝はダメだよ」
そう言って部屋から出て行った。みんなを起こさなきゃ。
「起きろ~、朝飯だぞ~。起きない人は朝飯抜きになるぞ~。ほら起きろ~」
みんなが起き上がったのを確認して顔を洗う。
「よし、今日も気合い入れて頑張ろう」
気合い注入。
横で歯を磨いていた神崎君に何を頑張るのか聞かれたので、
「女の子と仲良くなる」
俺も気合い入れるぞと、ジャバジャバ顔を洗い気合いを注入していた。
食堂に向かうと女性陣が朝食の配膳をしていた。
「忍、ご飯どれくらいよそる?」
「普通で」
なぜか大盛のご飯を渡された。僕にもっと大きくなれという意味なのか。
全員席についていただきます。
朝食メニューは、ご飯・アジの開き・卵焼き・味噌汁・ほうれん草のお浸し・ひじきの煮物・漬物。希望者に納豆・海苔だ。
朝からご飯が進む。大盛りご飯だったのにお替りしてしまった。
「「「ごちそうさまでした」」」
女性陣が食器の片づけをしている間に、男性陣は部屋の掃除。
そして女性陣も部屋の掃除をして水着に着替える。
昨日使った風呂を掃除する。男湯と女湯に分かれて。
それぞれの風呂場掃除が終わったら残りの家族風呂をみんなで掃除。
「家族風呂って誰か使ったの?」
本田君に聞かれたので、僕が使ったと答える。もちろん里奈も一緒とは言わない。
「朝風呂で女子は家族風呂に入ったよ。昨日と違うお風呂に入りたくて」
今井さんが答えた。
そうか、女の子たちは朝風呂に入ったんだ。僕も朝風呂に入りたかったな。
みんなでやる掃除はあっという間に終わった。
その後は荷物を置いて海に向かう。
「今日も泳ぐぞー!」
本田君と神崎君、上原さんが海に走っていった。
残った僕たちはパラソルを立ててサマーベッドを設置し、日焼け止めを互いに塗りあう。
「ほら、忍もちゃんと塗らないと大変なことになるよ」
里奈に念入りにクリームを塗ってもらった。
「ほら、僕も塗ってあげるよ」
昨日同様に日焼け止めを里奈に塗る。昨日と違うのはビキニからあふれそうな乳にもしっかり日焼け止めを塗ってあげた事だ。もちろん他のメンバーには見えないように塗った。
「ありがとう。日焼け対策もバッチリだね。じゃぁ泳ぎに行こうか」
僕たちも海に向かった。
今日も良く晴れている。気温はぐんぐんと上がっている。海の中は冷たて気持ちイイ。まさに海水浴日和だ。
「忍、また浮き輪に入る?」
「ありがとう。それじゃ入れてもらおうかな」
背中合わせに浮き輪入る。互いの背中のぬくもりを感じながらクラゲのように海を漂う。
他のメンバーも海に浮かんでのんびりとしている。
「なんか平和でいいね。本田君よく企画してくれたよね」
中川さんが企画者の本田君を褒めた。
「な、最高だろ?あまり大人数でも大変だから8人位が丁度いいんだよ。今回は上原さんが宿を提供してくれたから予定組むのも楽だったし。また機会をつくってどこか行こうぜ。テントのキャンプでもいいし、日帰りでテーマパークとかもいいな。時間がなければ放課後のカラオケだっていい。みんなで楽しくパーっとやろうぜ」
彼ならいろんなイベントを計画するだろう。大人数じゃなければ参加したいものだ。
途中、喉が渇いたので海から上がった。
里奈はサマーベッドに横になり休憩タイムに入る。僕は海の家で売っていた生絞りオレンジジュースを2つ購入する。
「はい、里奈。生絞りオレンジジュースだって。その場でオレンジを絞ってくれたよ。美味しそうだったから買ってみた」
程よい酸味とみずみずしさが美味しい。
サマーベッドに横になる里奈を見たら、ふと昨晩の事を思い出してしまった。
里奈と僕は結構親しい間柄だとは思うけど、あそこまでするのはカップルくらいだろう。という事は、里奈は僕との関係をその位のレベルで思ってくれているのか?仲が良くてもあそこまではしてくれないだろうし。これはひょっとしてチャンスなんじゃないか?友達以上恋人未満から本当の恋人になる。可能性は高いはず……と思いたいがどうだろう。
「真剣な顔して何考えてるの?」
やべ、考え事してるのバレた。女性と2人でいる時に考え事しちゃだめだ。
「いや、生絞りオレンジジュースの原価はどのくらいか気になっちゃって。手間の割にもうからないなって考えていた」
「そんな事考えてたの。変なの」
とりあえず誤魔化しておいた。
ふと、里奈が僕に言う。
「昨日の事だけど皆には内緒だよ。今まで男性に体見せたことはないんだから。あ、お父さんは抜きでね」
「え、お父さんと今でも一緒にお風呂入ってるの?」
「小学校低学年までに決まってるでしょ。とにかく内緒なんだから。いい?絶対に絶対に内緒だよ」
「うん、分かってるよ。ありがとう、僕の為に勇気をだして来てくれて。とっても嬉しかったよ。僕も母親以外の女性と初めて入浴したけど良かったよ。ドキドキが止まらなかったけどね。今度一緒に温泉巡りでもする?僕が背中流してあげるから」
さりげなく次回の約束につなげたい。
「また入りたいの?」
「里奈と一緒に露天風呂につかりたい」
「いいよ。また入ろう」
よっし!小さくガッツポーズ。そして思わず微笑む。嬉しすぎて喜びを隠せない。
「喜びすぎだよ。どんだけ露天風呂がすきなのよ」
「露天風呂が好きなんじゃないよ。里奈と一緒だから嬉しいんだよ。他の誰でもなく里奈だからだよ」
露骨な位のアピールである。
「私だって忍以外に誘われても行く気ないし」
少し照れながら答える里奈の可愛さは反則だ。
「おーい、月宮、沢木さん。あと30分位で切り上げるよ。電車の時間だって」
神崎君が残り時間を教えてくれた。僕たちがいつまでたっても戻ってこないから本田君に頼まれたらしい。今、いい雰囲気だったのに。
「里奈、最後は体力全振りで遊ぼうか」
「うん、行こう」
僕たちは海に駆け出した。
帰りの電車の中。4人掛けの席に座っている。帰りの電車は空いてたので固まって座ることが出来た。ただ、最後に思いっきり遊んだため、みんな爆睡している。
隣の席に座る里奈も僕に寄り掛かりながら眠っている。僕も目をつむってうつらうつらしているとシャッター音が聞こえた。目を開けると前に座る中川さんがニヤニヤしながら、ベストショット頂きましたとスマホを構えていた。
「あとで送るね」
眠たかったのでその場では何も考えずにいた。
寝ていたのであっという間に地元の駅に到着。
「それじゃ今回の”夏、海、BBQ。肝試しもあるよ”のイベントを終了したいと思います。みなさんお疲れさまでした。みんなの協力があったので楽しいイベントにする事ができました。ハプニングもなく計画通りに進んでよかったと思います。若干一部の人たちが、やけに甘い砂糖漬けの空間を作り出していましたが、他メンバーはそれにめげず次回もよろしくお願いします」
本田君の長い挨拶で解散となった。僕も里奈にバイバイをして家に帰る。
夜、家でくつろいでいると旅行グループのチャットで各々が撮影したスマホの写真がアップされた。
「あっ」
最後にアップされた写真は帰りの電車の中で中川さんが撮った写真。
寝ている僕の肩に顔をうずめて幸せそうに寝ている里奈の姿。寝顔もマジで可愛いな。
すぐにチャットが阿鼻叫喚。
沢「ギャーッ!」
中「どやぁ」
上「おおっ、一番のスクープ」
今「里奈ちゃん幸せそうに寝てるよ」
上「里奈ちゃんの寝顔でご飯3杯はいける」
津「わはは」
本「おい、なんだこの写真」
神「帰りの電車だね」
沢「消しなさい!」
中「い・や・だ」
沢「忍、なにか言って」
月「よく撮れてるね」
中「でしょう?」
津「俺、撮る時に横で見てたよ。ほんと砂糖空間を作り出してたよ」
上「青春だねぇ」
神「これみんなに見せていいの?」
沢「みんなに見せたら恨むからね」
神「あ、はい」
里奈の写真をダウンロードしてパソコンに保管しておいた。
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