第11話 霊のQ&A
休み明けの学校。
少し眠たいのを我慢して登校する。
教室に入り席に着くと里奈が来て小声で話しかけてきた。
「忍、バイト代なんか多かったよ。間違えじゃないのかな?」
おぅ、多く感じた?
「ん?あの仕事のバイト代は2万円でいいんだよ。一日歩いたしね。拘束時間も長かったし。それにこれからは除霊の助手と、スケジュール調整なんかも入るし大変なんだよ」
山の中を一日歩く仕事なんて辛過ぎでしょ。1人だとほんとにキツイからね。話し相手がいると飽きないから楽だ。その相手が里奈ならばデートみたいなものだしね。依頼のスケジュール管理なんかもお願いするし。
「ありがとうございました」
「いいって。それだけ仕事してるんだから。基本的にバイト代は、除霊は当日払いで事務系は月払いでいいかな。事務は都合のいい放課後に、僕の部屋でメールや電話で受けた依頼の整理かな」
「うん、わかった。それでいいよ。色々と覚えないといけない事とかあるだろうから教えてね。忍の助手として頑張るよ」
小声で話してるので顔の距離が近い。少し顔を動かせばキスできる距離だ。そのせいでクラスメイトの視線が熱い。特に男子。生霊でも生み出しそうな熱視線が僕に集まっている。我が校のアイドルと親しくなりたければお前らも頑張れよ!
しばらく話をして里奈は自分の席に戻っていった。
放課後。
里奈は用事もなかったので僕の部屋にきた。帰りも教室から一緒に帰ったので、”おい、あの二人!””なんで月宮と?””朝も親し気だったぞ”などの小声が聞こえる。まぁ、無視だな。
家に着き、僕の部屋でさっそく事務作業の説明をする。僕の除霊HPにくるメール問い合わせや仕事の確認。仕事の日時の確認やスケジュールの決定を説明。1日に何カ所か回る場合の順番決めなども仕事に入る。
「今ある依頼ってどの位あるの?」
里奈に依頼メールをプリントアウトしたものを渡す。近県で3件ほど溜まっている。依頼者と日時のすり合わせもしなければならない。移動時間を考えると1日に回れるのは2件かな。ビルや戸建ての除霊なら時間はかからないし。
「あとは不動産屋の紹介で除霊の仕事がくる。それは基本的には電話での依頼が入るかな。細かい事はちょっとずつ覚えてくれればいいや」
里奈はさっそく除霊依頼の場所を調べだした。下調べは大事。依頼主の住所をネットの地図で調べてから訪問する。道に迷うとか無駄な時間は使わない。タイム・イズ・マネーだ。
依頼のある場所等を調べながら、里奈から霊についての質問タイムを設けた。
Q霊ってどんな感じに見えるの?
Aそれぞれです。大体はぼやけた半透明ないわゆる幽霊って感じ。首がなかったり顔が半分だったり色々です。大体グロいですが慣れます。たまに普通の人間と見た目が同じ奴もいます。遠目に見ると普通の人に見えます。
Q悪い霊と良い霊ってどうやって見分けるの?
A襲ってきたり後をついてくるのはのは全部悪い霊です。見かけたら除霊してあげましょう。ただそこに存在しているだけの霊は道端の石ころと同じで無害です。無視するのが一番です。良い霊はその辺にいません。ご先祖様が守ってくれるとか聞きますが、本当に守ってくれているかは不明です。僕は守ってくれる霊を見た事ありません。
Q霊の強さはどうやって測るの?
A感です。何となくわかります。はっきり見えているのは強いです。意思疎通できるのはかなりヤバイです。その辺を漂っている霞みたいな霊はクソ雑魚ナメクジです。
Q霊って話が通じるの?
A通じるやつもいるそうです。しかし僕は霊との会話スキルがあまりないです。
Q霊はどこにでもいるの?
Aどこにでもいます。漂っている霊もいますが、大体は因縁のある場所に紐づけされています。いわゆる地縛霊です。地縛霊は自分の苦しみや辛さをみんなに分け与えようと必死な霊です。実に迷惑な話だね。
Q憑かれたりしない?
A憑かれません。血水は霊が嫌がって逃げます。沢山浴びせると霊は消えます。成仏じゃなくて存在が無になる感じです。理由はわかりませんが僕の一族の血筋の能力と思われます。
Q今までで一番危険だった霊は?
Aお城跡地にいた侍の霊です。恨みつらみの感情が強く、辺りの空気がやばかったです。仕事中に気分が悪くなり昼食をもどしました。除霊?もちろん一瞬で終了しました。
Q除霊の難しい霊はいますか?
A逃げる霊は大変です。あいつら壁の中や天井など関係なしに逃げますから。僕の除霊方法だと血水を掛けれるかが勝負ですから。掛けたら勝ち、逃げられたら負け。
他にも色々と質問に答えた。普通の生活をしてると霊のことなんて知る機会がないからね。僕のわかる範囲であればいくらでも教えよう。里奈とのトークは楽しいからね。
ある週末。
今日の依頼は個人からの依頼。中古で買ったマイホームの戸建住宅で、不可解な事象が悩みとの事。
僕と里奈は都心から少し離れた依頼者の自宅に着いた。里奈のスケジュールはバッチリ。乗り換えもスムーズだったし、最寄り駅から依頼者宅までの道も迷わずに行けた。
里奈も毎週のように除霊に付き添っているのでかなり慣れただろう。
依頼者の家は比較的新しく綺麗な戸建住宅。お洒落な感じの家だが、庭を覗くと花壇は枯草だらけだ。
依頼者宅の玄関前で里奈に聞く。
「里奈、ここのお宅だけど何か感じる?」
僕の霊感センサーはビンビンに霊を感じている。というか、2階の窓から視線を感じている。窓から目だけが見えているよ。
「うん、感じる。何かに見られている感じ。ねっとりとした視線かな」
「正解。2階からめっちゃ見てる。お前くるなって視線だね」
インターホンを鳴らすと依頼者夫婦がドアを開けて迎え入れてくれた。
30代の夫婦で旦那さんは普通だが、奥さんはげっそりと痩せてしまっている。かなり参っているようだ。
居間に通されて改めて依頼内容の確認をした。
中古住宅を購入したのが半年前。入居してすぐに視線を感じるようになる。2階の寝室で寝ていると金縛りや人の気配を感じる。日中も1階居間やキッチンにいる奥さんが2階を歩く音を聞いたり、階段を上り下りする足音を聞く。庭の花壇に花を植えてもすぐに枯れてしまう。風呂やトイレに入ってるときに、ドアの向こう側でブツブツと人の声が聞こえるらしい。
奥さんは1人で家にいるのが怖くて日中は無理やりパートをして家を空けてるらしい。可愛らしい感じの奥さんだが、日々の恐怖から疲れ切ってしまっているのか辛そうである。
最初に自己紹介や料金の確認を済ませる。今回は前金5万、成功報酬10万の料金15万円也。
「最初に霊のいる場所を特定しますね。話を聞いてると2階だと思いますが確認です」
僕たちは家を隅々まで見て回り、家の各所にさざれ水晶を紙皿に入れて設置する。
「この水晶が時間経過により濁っていくと思います。一番濁っている場所が危ない場所ですね。まぁ、先ほどから僕たちを見ている奴がいますけどね」
室内を移動する僕たちを追って、男の霊が先ほどからチラチラと視界に入る。天井や壁を突き抜け、部屋の隅や階段からじっと見つめてくるのだ。30代の男性で首が長い。あれは首吊ったんじゃないかな?
「原因は間違いなくその霊だと思います。問題なく祓えますよ」
その言葉に夫婦は安堵の表情を浮かべた。
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