第12話 霊じゃないライバル出現?

昼食をご馳走になり除霊を再開する。

まずは室内に置いた水晶を見て回る。

1階に設置した水晶はやや曇った位だったが、2階に置いてあった水晶はかなり黒くなっていた。


「見てください。水晶が黒くなってますね。2階が強く穢れていますね。そしてさっきからうっとおしい視線を向けられてます。たぶんこの家でお亡くなりになった、もしくは家が建つ前にこの土地で亡くなった方ですね」


2階の廊下の向こうで僕たちを睨みつけてくる男性。そんなに睨んでも怖くないし。


「では除霊をしつつ家の中を清めていきます。原因の霊はこの家に縛られている状態なので祓えば不可解な現象はなくなります」


僕と里奈は血水スプレーを装備した。原因の霊が家から飛び出さないように外周から清めていく。本当は霊本体にスプレーをするだけだが大金を貰うのに簡単に済ませる訳にはいかない。

このようなパフォーマンスも依頼主が安心する為には必要なのだ。

家の外周を清めた後に室内を除霊。部屋の四隅に清めの水を撒き、小声で聞き取れない言葉をつぶやく。これも意味のないパフォーマンスです。

玄関、居間、キッチン、風呂、トイレ、廊下、階段と各所を清め歩く。先ほどまでついて来ていた霊はいない。2階から気配を感じるので清めの血水を嫌がって逃げたのだろう。


「これで残りは2階です。上から霊の気配を感じていますので問題解決は間違いないでしょう」


少し安心したような表情の夫婦に告げた。

2階に上がると奥の部屋から強い気配を感じる。室内を浄化して行ってるのであそこから移動できないんだろうな。


「それじゃ先程と同じように清めていきますね」


まずは廊下と物置から浄化を。


「里奈、霊の気配感じる?」


清めの血水を撒いている里奈に確認する。


「一番奥の部屋じゃないかな?昼間なのにどんよりとした空気と圧を感じるよ」

「正解。彼はもう逃げられない。こうやって周りから攻めていけばいい」


里奈も悪い霊の気配を感じる事が出来るようになってきている。毎回の濃密な霊の気配と、血水により浄化され続けている体が順応しだしているのかも。

手前の部屋から順に清めていく。そして最後の部屋だ。

その部屋に入ると部屋の片隅に浮かぶ男性の霊がいる。紐は見えないけど上からぶら下がってるよね、あれ。亡くなった時の姿勢で揺れているのだ。僕を睨みながら。


「いましたよ、原因が。そこの隅で浮かんで僕を睨んでます。里奈、やっちゃって」


部屋の隅を指さしながら里奈に除霊を指示。里奈は見えない霊に向かって何回も血水をスプレーする。

男性の霊は苦しむ間もなく溶けるように消えて行った。


「OK、里奈。終了だ。念のため部屋の四隅を清めて」


里奈に念のための清めをお願いして僕は依頼者の夫婦に除霊終了を告げた。


「お待たせしました。すべての除霊作業は終了です。原因の30代男性の霊は消えました。追い払うのではなく消し飛ばしました。もう2度と現れることはないでしょう」


除霊したので部屋の空気が変わる。重く感じていた空気が一気に軽くなったようだ。


「確かに家の中の空気が軽くなったみたいだ。お前はどうだ?」


旦那さんも感じることが出来たらしい。奥さんも感じることが出来たか確認している。


「すっきりした感じです。室内の空気?色?昨日までの感じとは全然違うみたい」


そうですよ、全然違いますよ。祓う前と後では全然違うでしょう。夫婦揃って空気の違いを感じているようだ。


「ありがとうございます。原因がなくなったのが霊感のない自分でもわかります」


旦那さんの喜んでいる顔をみると除霊してよかったと感じる。


「月宮さん、あの例は私たちに原因があったのでしょうか?それとも家に憑いていたのでしょうか?」


うん、気になるよね。


「僕は祓いの専門で解析は苦手なんですが、今回のケースに限って言えば家か土地ですね。人についていた場合はすぐ後ろにくっついているのでわかります。ここの敷地に居ついた霊で間違いないでしょう。そして完全にいなくなってます。空気の違いでも分かると思いますが、もう2度と現れないでしょう」


念のためさざれ水晶を家の中に設置して3日程様子を見るように伝える。


「3日たって異常もなく、水晶も濁らなければOKです。水晶は庭の隅にでも埋めてください。花壇に花を植えたら今度はちゃんと育ちますよ」


午前10時前から午後3時までの5時間。昼食付で15万と、今回もなかなかいい仕事だった。




7月初旬。

僕は里奈と昼食をとっている。もちろん里奈の手作り弁当だ。男どもの”月宮は沢木さんの弱みでも握っているのか?”という噂にも慣れた。

今日も教室で里奈と弁当を食べていた。本日はチャーハン・シューマイ・竹輪の磯部上げ・野菜(茹で)・オレンジだ。


「今日も美味しい弁当をありがとう」

「お父さんのお弁当を作っているから手間はかからないよ」


女子の手作り弁当。しかも里奈の手作りだ。最高かよ。

幸せな時間を過ごしていると教室に一人の男子生徒が入ってきた。他のクラスの男子で顔は見た事ある。


「沢木さん、食事中にごめんね。今日の放課後に時間あるかな?」


突然話しかけられた里奈はシューマイを口に入れる態勢で固まった。

ビックリした表情も可愛い。


「はい?」


聞き返す里奈に男子生徒は再度口を開いた。


「俺は4組の天野翔(あまのかける)っていいます。今日の放課後に時間を作ってもらいたくて。すぐ済むからいいかな?中庭で待ってるからお願いします」


頭を下げながら里奈にお願いをする。

あー、これって告白するの?君が好きだ!とか言って。

勇者じゃん。割とイケメンだし。

天野君はそう言って教室を出て行った。


「何だろう?」

「いや、僕に聞かれても知らないよ。放課後に中庭に行けばわかるでしょ?」


そうだねと、里奈は食事を再開する。クラスメイトのひそひそと話す声が聞こえる。

”月宮にライバル?””イケメンだったぞ””明日から月宮の代わりに天野が一緒に弁当食べてるんじゃないのか?”

里奈が天野君とご飯食べたいならそれでもいいけど。

僕は放課後とか週末に一緒にいれるから大丈夫だし。僕は寛大だし。

ちょっと気まずい感じで昼食を再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る