第9話 彼女は除霊初体験

日曜日の朝7時。

駅で沢木さんと待ち合わせをした。

昨日は沢木さんと買い物に行きスニーカーを購入した。僕も同じ型の色違いをさりげなく購入。お揃いとかカップルみたいじゃないか。あとはショッピングモールが混んでいたので、買い物中にさりげなく手をつないだ。嫌がらなかったのでセーフ。顔が真っ赤になった沢木さんはめちゃくちゃ可愛かった。

新しいスニーカーに白シャツにカーディガンとデニムのパンツでイケメンな沢木さんと合流。電車で1時間半の山に向かう。現場に向かう道中は除霊の質問タイム。仕事の依頼の受け方や段取りなどの質問を受けた。


「なんか質問事項ある?」

「仕事と関係ない質問していい?昔の霊ってどの位前の時代の霊が存在してるの?」

「あー、あんまり古いのは見た事ないな。ほとんどが現代の霊だね。古いのは何回か侍の霊を見た事あるけどね。僕の考えでは霊も風化すると思う。だって恨みや無念で残ってられるなら戦国時代の霊なんてすごい数になっちゃうもん。でも全然見かけないのは時間で風化しちゃうんじゃないかな。平将門とか菅原道真とか力のある霊だけが少し残っていて、あとは時間で消えていくと僕は思っている」


縄文時代や弥生時代の霊なんて見た事ないし聞いた事もない。恨みつらみで霊が残るなら世界は霊で埋まっている。


「たしかにそうだね。話に出てくるのは昭和以降の霊ばかりだね」

「大昔の霊は僕が能力的に感じることができないのかもしれない。でも感じることができないような霊は悪さできないと思う。力自体がないからね。まぁ、僕の推測なんで正しいかはわからないよ」


移動時間はそんな質問を受けていたらあっという間に現場最寄り駅に到着。駅には不動産屋が車で迎えに来てくれてるはず。

駅の改札をでるとで小型のマイクロバスと担当の男性が僕たちを迎え入れてくれた。


「月宮さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。そちらは助手のかたですね。私、〇×不動産の片田と言います。あ、名刺をどうぞ」


片田さんは沢木さんに名刺を渡し、マイクロバスに僕たちを乗せて車を発車させた。


「今、現場はどんな感じになってますか?」


僕は現在の最新情報を片田さんに聞く。


「工事関係者が体調不良でみんなダウンしてます。工期が過ぎてしまっているので夜間も工事を行おうとしたんですが、重機が動かなくなったり明かりが消えたりで散々です」


おう、結構力のある霊なのかな。


「関係者が現場付近で中年男性の霊を見ています。スーツ姿の40代と、他にも女性や子供の霊も見られているようです。いずれも祠の辺りで見られてるようですよ。僕は見てないんですが数十人の目撃者がいます。近所のお寺でお祓いを依頼しましたが効果はありませんでした。お祓いした次の日には工事がストップしてましたし。なんとか工事を進めないと数十億の損害です。月宮さんが最後の頼みなんです、どうかうちの会社を助けてください」


ここの不動産屋さん関係はアパートや戸建ての除霊で顔見知りの会社である。


「結構強そうな霊ですね。最善は尽くしますが1回で祓えるかはわかりませんよ」


霊がいればすぐにでも祓えるが、そんな事は絶対に言わない。

僕らの会話に心配そうにしている沢木さんに声を掛けた。


「沢木さんは現地で歩き回る僕に同伴してもらうよ。除霊のスプレーを渡すからね。気になる所や空間に吹きかけてね。まぁ、全部僕が祓うけど念のためスプレーを渡しておくから。憑かれても自分にシュッとすれば大丈夫。すぐに消えるか離れていく。霊がきても沢木さんに憑かせるつもりはないけどね。僕がちゃんと守ってあげる」


沢木さんは隣で僕のやる気スイッチを押してくれればいい。



車に乗り10分で祠のある山に到着する。

山裾にマイクロバスは停まり、車を降りるとプレハブでできた事務所で荷物を下ろした。まずは祠を確認してから造成地を見て回ろう。

片田さんに祠の場所を聞いた。ここから歩いて5分の山の中になるみたい。スプレーボトルを2本出して、1本を沢木さんに渡した。


「怖いと思ったところにシュッとしていいよ。こういうのは直感も大事だからね。まずは祠に行って様子見かな」


僕と沢木さんは祠まで歩いた。祠は山肌をくりぬいて作った洞窟にあった。洞窟は奥行き5メートルほどの小さなもので、その中に漬物石みたいな塔ががある。小さくて高さ30センチ位の石である。石だけだったら祠と気がつかないだろう。石にはしめ縄みたいな荒縄とコップが前に置いてある。


「月宮君、これが祠なの?あたりに霊はいるのかしら」

「今は全然見えないよ。でもこの祠はなんか嫌な感じがするね」


男性の霊や子供の霊は見えないが嫌な感じはする。ここにずっといれば現れそうでもある。


「造成地をぐるっと見て回ろう。その前にこの辺りにシュッてしておこか」


沢木さんに洞窟内や祠を清めてもらう。


「あ、沢木さん。そんなに沢山かけなくても平気だよ」


念入りにスプレーする沢木さんに声を掛けた。その半分の量でも十分だし。

洞窟を清めた後に僕たちは造成地の外周を歩く。


「どこかに霊の姿を確認できる?」


沢木さんは少し怖いようだ。そりゃそうか、見えないと怖いかもな。


「沢木さん、手をつなごうか。一緒にいれば怖くないし、近づいてくれば遠くからでもわかる」


沢木さんの手をとって歩き出す。真面目な表情で辺りを伺いながら歩く沢木さん。僕は沢木さんの柔らかくて暖かい手に一生懸命で辺りを全く気にしていない。だって可愛い子と手をつなぐんだぞ。緊張するじゃないか。

祠の奥に続く山道を登ると丘の上にでる。山道は木々に囲まれて視界が悪かったが、丘の上からは造成地が一望できる。造成地には工事関係者がポツンポツンと作業をしているが見える。


「あ、いた」


造成地の一角に重機が置いてあり、その重機にそばに小学生位の男の子が立っていた。


「沢木さん、あそこのに重機が置いてあるよね。その重機のドアの下あたりに、小学生位の男の子が立っているの見える?」


沢木さんは目を凝らして見ているが、その場所に人を確認する事はできなかったようだ。


「私には何も見えないけど。あそこに子供の霊がいるの?」

「うん、重機の前に棒立ちでいるよ」


沢木さんの手を少し強く握り重機へとむかった。

重機まで歩いていくと子供の霊が佇んでいるのがはっきり見える。沢木さんは見えないようだが、先ほど重機のドアの下に霊がいると伝えてあるので、辺りを見ながら少しずつ慎重に歩いている。


「ドアの下、手前2メートルの辺り。小学校低学年の男の子。半袖半ズボンで俯いて立ってる」


沢木さんは言われた場所を確認しているようだ。ただ、やっぱり見えてはいない。


「スプレーかけてみる?じっとして動かないから余裕だと思うよ」

「私がやっても平気なの?襲われたりしない?」


怖いらしい。


「平気だよ。襲われる前に消えてくと思うから。隣に僕がいるから平気だよ」


沢木さんは子供の霊がいる辺りにむけてスプレーを放つ。

シュッシュッシュッ

3回ほど噴霧すると子供の霊はそのまま溶けるように消えて行った。


「溶けていなくなった。ばっちりだね。はじめての除霊おめでとう」

「見えてないけどね。うまくいったならよかった」


ちょっと嬉しそうに答える沢木さん。


「引き続きこの辺を歩きながら霊を探そうか。っとその前に」


僕は除霊した時間と場所、そして相手の霊の特徴をノートにメモする。


「クライアントに報告する時の説明用だよ。除霊時にクライアントがいればメモらないけどね。いない時は報告する必要があるでしょ、だからその時にちゃんと報告できるようにね」


僕たちはまた歩き始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る