第7話 霊 お家にお戻り

翌日、朝9時。

家の前で待っていると沢木さんと沢木パパが車できてくれた。

後ろの席に座ってる沢木さんは隣の席をぽんぽんと叩き僕が座るのを促す。隣いいんですかっ!


「「「おはようございます」」」


大きな声で挨拶をする。

朝の挨拶は大事だよね。


「昨日はどうでした?霊は祓っているからゆっくり寝れたんじゃないですか?」

「うん、夜中に聞こえる話し声や気配がなくなってた」


そうだろう。まだ聞こえてたらそれは幻聴だと思う。

でも安心して寝られるのはいいよね。


「こんなにぐっすり寝れたのは久しぶりだったよ」


沢木パパもにっこり。


「そうだ、月宮くんに言われた通り水槽はそのまま持って来たよ」


助手席の足元においてある水槽を見た。


「骨はただの骨になっていますね。霊の気配がしませんのでこれはただのカルシウムです。そのまま処分しても大丈夫だとは思いますが念の為、元あった場所に帰しましょう」


これなら問題はないだろう。安心である。


「昨日の帰りに月宮くんに声を掛けてもらってよかった。あのままだったら私の家族はどうなっていたか」


徐々に精神が蝕まれていっただろう。骨の呼び込む霊たちに押しつぶされてね。一つ一つの霊は貧弱な奴だったけど、数が集まるとヤバイ。もっと凄いやつが来ていたかもしれないし、合体して凄いのが生まれていた可能性もある。


「もう、安心して下さい。もし他のが寄ってきてもまた何とかしますよ」


それからは学校の話題なんかを話しながらBBQをした川原まで1時間のドライブを楽しんだ。あ、楽しんでるのは僕だけかな。2人はまだすべてが終わってないから落ち着かないだろう。

周りの景色が変わってきた。ビルはなくなり畑や果樹園が広がっている。さっきから川沿いに山に入っているので、この川の上流がBBQの場所なのだろう。

それから15分ほどで広くなっている川原に着いた。

川原には同じようにBBQをしている家族やグループがいる。


「私たちもあんなふうに楽しんでいたのに。何時どうなるかなんてわからないね」


沢木さんが呟いた。


「目に見えないからね。避ける事は難しいね」

「私には月宮くんがいて助けてもらった。でも助けてくれる人がいない人たちも沢山いるんだよね」

「そうだね。お寺や神社に助けを求める人もいるし、病院に行く人もいるしね。考えたらキリがないかもね」


彼女は運がよかったのだ。祓える人が側にいたんだから。

パパさんがBBQ場の上流を指差した。


「あの辺りで沢蟹を捕まえたんだ。石や木も同じ場所で採取したんだよ」


指差した辺りを見たけど上半身はいない。


「上半身はいませんね。とりあえずとった場所に戻しましょう」


川の浅瀬が続く場所に沢蟹と骨を沈めた。

そして辺りにお清め代わりの血入りスプレーをシュッとかける。

意味なんてないけどね。霊がいるわけじゃないから。


「上半身がそのうち探し出すでしょう。この川沿いをウロウロしてるんじゃないですかね。いれば除霊をしますが、この付近にはいないようなのでどうしようもないですね」

「月宮くん、あの骨は水難事故で亡くなった人の骨なの?」


骨の由来が気になるのかな?


「それはわかんないね。僕は祓うことしかできない人間だから。霊能力者っていろんな人がいるんだよ。見えるだけのひと、話ができる人、祓うことができる人、成仏させることができる人とかね」

「月宮くんは祓う人?成仏させる人とは違うの?」

「全然違う。成仏させる人は霊の心残りを解消して昇天させたり、説得をして昇天させたりする。僕は話を聞かない。問答無用に消し去ることしかできない」


僕は霊の話なんて聞く気もない。邪魔だから消すだけだ。

冷たい人と思われるかもしれないが、あいつら問答無用に縋ってくるから。

僕の血に気がついた霊が、逃げさることも何度も体験してる。


「でも私たち家族はあなたに助けられた。本当にありがとう」


遠慮がちな笑顔を見せる沢木さん。

やめてくれー、惚れちまうだろ。


「行きましょうか。ここにいてもしょうがないですし。あ、パパさん。ラーメン楽しみです」


パパさんは任せてくれとラーメン屋について熱く語りだした。

清楚な沢木さんのパパとは思えないほどのラーメン道を説いてくれたのだった。

車の置いてある駐車場までの帰り道。

川原を歩いているのだが、細かい石で歩きにくい。

石に足をとられて転びそうになった沢木さんをそっと支えた。

これはチャンス。


「そこまでだけど危ないから手をつなごうか」


そっと沢木さんの手をとる。

本当なら手をつないだほうが危ないかもしれない。僕が狼化するから。

でもチャンスだからね!


「おい、人んちの娘を誘惑しないでくれよな。せめて俺の目も届かないところでやってくれ」


パパの言葉に沢木さんも笑う。


「パパ頭おかしくなったんじゃないの?彼は私が転んで怪我をしないようにしてくれてるんだよ」


沢木さんゴメン。下心ありの手つなぎです。

すいません。女の子と手をつなぎたいからです。


「そうか?パパの気のせいか。ゴメンゴメン。転ばないようにしっかりとフォローしてもらうんだぞ」


パパさん、ニヤニヤしながら謝っても説得力に欠けますよ。

でもフォローありがとうございます。

車まで手をつなぐ僕たちだった。



帰りにパパさんお勧めのラーメン屋に寄った。魚介スープの美味しい店だった。

個人的にまた来たいと思える味であった。

今回の事件で沢木さんと仲良くなれたのは最高の報酬だったかも。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る