第6話 霊それは下半身

僕は3人を連れて庭に出た。

霊のいる場所は庭にある縁側の端っこ。小さな水槽が置いてある。


「あそこに水槽がありますよね。あそこに男性の下半身のみが立っています。見えなくても気配とか、嫌な感じとかしませんか?」


懐中電灯で下半身幽霊を照らす。そいつは腰から下だけで存在していた。擦り切れたジーンズを履いた裸足姿、泥で全体が汚れている。

父親と里奈さんは嫌な気配を感じることができたそうだ。母親はよくわからないと回答。


「あの下半身君が、自分の上半身を探しているんだと思います。上半身を呼んでいるんです。上半身がくるかわりに、その辺りにいるいろんな霊を呼んじゃってるんですね。多分ですが」


あの下半身君は直接の悪さはしてこないが、呼ばれた霊が悪さをする可能性が高い。原因となる霊を祓ってから、呼ばれちゃって家の中を漂ってる霊を祓うのが一番ですと伝えた。

一度リビングに戻る。


「月宮くんはその霊を除霊できるのかな?」

「もちろん。できますよ。きれいさっぱり消滅できますよ。家の中にいるやつらも消せます」


安堵の表情を浮かべる母親。しかし父親の表情は硬い。


「この除霊を行うにあたって費用はどのくらいになるのだろうか?私は自分でお祓いの事を調べたんだが、かなりの費用がかかるのは理解している。すでに娘も除霊してもらっているしね。払える金額ならいいんだが」


なるほど。費用が心配なのか。


「僕は仲のいい友人からは費用は頂きません。商売ならお金を貰いますが、彼女は商売相手でなく友人ですから」

「それだと君は損をするのではないかね。水晶もこんなに使用しているだろう?」


真面目な父親だ。気にしなくていいと言ってるのに。

だけどイヤな気はしない。


「実は、里奈さんにお弁当を作ってもらう約束をしてるんですよ。仲のいい女の子に手料理をご馳走になるなんてすごい報酬じゃないですか?お父さんも男ならわかるでしょう?」


父親は吹き出して笑い出した。


「確かにそうだね。僕も学生時代だったらお金よりも嬉しいかもしれないな」


母親と里奈さんは何?といった表情だ。

この感情は男しかわからないだろう。


「それに除霊の原価は想像以上に安いですよ。僕はお札とか使いませんし」


お父さんも納得してくれたようだ。

恩を感じるなら娘を嫁にどうか?位言ってほしい。


「じゃあ、やっちゃいますね」


鞄から小さいアトマイザーを取り出して庭に向かう。

突っ立っている下半身君を狙ってシュッ、シュッ、シュッ!

ぐずぐずと溶けるように消えていった。

本当はこれで終わりなんだけど、簡単すぎて信じてケースがあるため、水晶を握ってぶつぶつ呟く。そして水晶を辺り一面にばらまいた。

僕は同じことを何回か繰り返して、それっぽい行動をする。


「下半身君は消えました。この水槽の中に下半身君本体がいます」


その水槽の中には沢蟹が何匹か飼われていた。

3週間前に家族でBBQをしに山奥の川に行ったと。沢蟹は下の娘さんが捕まえて飼育するために持って帰ってきたらしい。


「この中を見てください。ほら。ここに白い物があるでしょう」


水槽の中を懐中電灯で照らす。大小の石と枯れ枝でアクアリウム風に仕上げてある。

下に敷いてある石の中に白い欠片が混じっている。そのアクアリウムの中で異質な存在感を放っているモノ。気が付かない人が見れば白い軽石のようなもの。


「これ骨ですよ。下半身君の骨です」


人骨という言葉に沢木さん家族が息をのむ。


「石とか枝を川から持って帰ったんですよね?その時に水難死した人の骨を持って帰ってきちゃったんですね。骨の人、ってさっきの下半身君ですが、上半身を必死で探していたんだと思います。それで色々呼んじゃってたんですね」


骨を見ながら僕は語る。ほんの小さな2センチ位の欠片だ。


「あの下半身君自体は悪霊とかじゃないです。無差別に呼び込むから迷惑な事にはかわりないですけどね」


父親はしばらく考えた後、


「この骨はどうすればいいのかな。燃やすとかお寺に持って行くとかか?」

「僕ならば拾った場所に戻します。上半身も下半身を探しているでしょうから」


骨に憑いているものは、すでにいないからゴミに出してもいいんだけどね。


「明日、土曜日ですが戻しに行きますか?どこにあったんですか?」


自宅から車で一時間位の山奥らしい。

父親も会社が休みということなので僕も付き合う事にした。

ここまでやったら最後まで付き合いますよ。


「じゃあ、ここは大丈夫なので家の中を除霊しちゃいましょう」


先ほどと同じように、各部屋・玄関・水場などをシュッとしながらぶつぶつと祈る。水晶を皿に入れて各所に置いてまわった。


「全部祓っていますのでこの家の敷地には霊はいません。水晶がくすむこともないでしょう。一応、明日の朝に確認してください。変わりがなければもう3日くらい置いておいて、問題なければ庭にでも埋めてください。それもガードになるので」


本当はガードになるかはわからない。ただ、出たらまた祓えばいいよね。

家の中を一通り見て回り、特に問題もない。今日はこれで切り上げよう。

祓った後なので注意事項なんかもない。普段通りで大丈夫と説明した。

骨の返却は明日。

午前9時にうちまで車で迎えに来てもらって一緒に返しに行く。

最初は父親が一人で行ってくると言い張っていたので、美味いラーメン奢ってください、だから僕も付き合うからと強引に話を進めた。


「じゃあ、僕は帰ります。何かあったら電話してください。24時間大丈夫です。ただし、起きれなかったらごめんなさい」


皆に見送られ沢木家を後にする。

はぁ、疲れたけど楽しかった。

沢木さんは一家は楽しくはなかったろうけど、僕は彼女と過ごせて幸せだった。

明日に備えて早めに寝るかな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る