Winter-05
帰宅してからは星夜の提案で8月5日リリースのセカンドアルバムを皆で聴くことになった。
ちょうど午後のティータイムの時間だ。リビングのテーブルにはケーキと紅茶とコーヒーが並ぶ。
沙羅は発売前のセカンドアルバムをまじまじと眺めた。星夜がデザインしたジャケットは4月に沙羅が見せてもらった天秤の絵だ。
コンポにCDをセットする。セカンドアルバム〈Wonder〉はトラック番号1の108の煩悩から彼らの物語は始まった。スピーカーを通して真っ先に聴こえてくるのは重低音なドラムの音。
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〈Wonder〉収録曲
01.108の煩悩
02.drastically
03.genesis
04.迷宮回廊(album version)
05.way out(instrumental)
06.オトギバナシ
07.夢逢い~YUMEAI~
08.full moon
09.東京午前零時(instrumental)
10.converge
11.
12.Wonder
music video
01.Wonder
(出演:一ノ瀬蓮)
02.full moon
(出演:一ノ瀬蓮、
03.MV making/一ノ瀬 蓮インタビュー
_________
晴の激しいドラムから開幕したNo.1の108の煩悩を終えると、UN-SWAYEDの軸とも言えるロック要素満載のNo.2のdrasticallyとNo.3のgenesis。
発売3週目でシングルの売上がグループ初の100万枚を突破した本庄玲夏主演ドラマの主題歌、迷宮回廊はシングルバージョンとはメロディのアレンジを変えたアルバムバージョンが収録されている。
アルバムバージョンだと晴のドラムと星夜のベースの要素がより濃くなり、シングルバージョンよりも音の切れ味が増していた。
No.5のインストのway outは悠真のギターが心地よく響き、No.6オトギバナシからはそれまでの強さと激しさのロックから一変して幻想的な雰囲気のミディアムバラードが続く。
オトギバナシのラストからNo.7の夢逢い~YUMEAI~のイントロへの繋ぎはこの二曲でひとつの物語のようにスムーズ。
夢逢いはメインボーカルの海斗の囁くような低音とサブボーカルの星夜のファルセットの調和が見事。海斗のハスキーな声に引き摺られることなく、ほどよい甘さを加えられるのは星夜しかいない。
No.8のタイトルはfull moon。誰も明言しなかったが、この曲がキャンプの時に話題になった隼人と美月をイメージした曲だとすぐにわかった。
full moonは哀愁が漂うギターのメロディから始まった。
*
今夜も
見上げた空 四角い闇に
気高く浮かぶ蒼い月
暗がりに
月影の道しるべが俺を導く
月光灯るその先
見つけた君の後ろ姿
探し求めていた感情とようやく巡り会えた
これが、恋なのだと知った
*
最も盛り上がるラストサビで海斗の声に星夜の声が重なり合う。沙羅はfull moonの世界観に酔いしれた。
作詞をしたのは海斗だとわかっていても、この歌は隼人と美月のラブストーリーが元になっている。
登場する男女が知り合いだと思うと余計に感情移入して心の奥がツンと痛くなった。
No.6オトギバナシからNo.8のfull moonまでが幻想、夢、恋、月のテーマで繋がっている。
full moonの余韻が抜けきらないままインストのNo.9の東京午前零時。静と動、光と闇、ふたつの顔を持つ真夜中の東京が悠真のギター、星夜のベース、晴のドラム、彼らの華麗な演奏で表現される。
No.10からは再びアップテンポな曲に。No.10のconvergeとNo.11の魔葯悲訳劇薬はこれぞUN-SWAYEDと言いたくなる王道のロック。物凄く格好いい二曲だ。
ラストを飾るのはアルバムタイトルにもなっているWonder。日本語で主旋律を歌う海斗のバックコーラスに入る星夜の英語は、二人の歌唱力をまざまざと見せつけた作品だ。
それぞれの想い巡らせ、最後に問いかけるは自分自身……。
『沙羅ー。どうだった?』
放心状態の沙羅の代わりに晴がコンポからCDを取り出した。ケーキも食べかけで聴き入っていた沙羅はぬるくなった紅茶を一口飲んで落ち着いた。
「凄い……。全部いい曲で皆の想いが詰まっていて……最高のアルバムだよっ!」
『ありがとう、沙羅』
『沙羅の満足そうな顔で報われたよ。レコーディングの最中は星夜の脱退騒動があったりで大変だったからなぁ』
『あの時はお騒がせしましたぁー。沙羅が喜んでくれて俺も嬉しいよ。な、海斗?』
『まぁな』
悠真、晴、星夜、海斗、反応は違っても四人共に嬉しそうだ。
「ねぇ海斗。No.8のfull moonが美月ちゃんと隼人くんの歌だよね?」
『ああ。聴いていて恥ずかしくなるだろ?』
無愛想な海斗には珍しい、したり顔だ。
『あれを聴いた時の隼人の反応が楽しみだな。今度、隼人と美月ちゃん呼んでここで聴いてみるか』
『悠真……お前すっげー悪魔面してるぞ』
悠真のブラックな提案に晴が突っ込み。イタズラを企む時の悠真と海斗は兄弟だけあってよく似ている。
『よし。次はMV観ようぜー! あのヘラヘラ野郎の蓮が真面目に演技してるとこ見てやる』
晴が初回限定特典のミュージックビデオのディスクをDVDデッキに入れた。まず再生された映像はWonder。
MVには人気俳優の一ノ瀬蓮が出演している。
幼少期に沙羅は一ノ瀬蓮と会っている。沙羅の父、葉山行成が所属していたロックバンドemperorのリーダーが蓮の父親のSATORUだ。
emperorメンバーは解散後も家族ぐるみの付き合いがあり、SATORUの家を訪ねた時に息子の蓮にも会っている。
幼稚園児だった沙羅よりも12歳年上の蓮は当時高校生。その頃は既に芸能界に入って俳優として活動していた。
あの時の格好いいお兄さんは今や売れっ子の人気俳優。
映像はWonderからfull moonへ。
full moonのMVにも引き続き一ノ瀬蓮が出演、共演は若手実力派女優の富岡愛梨。
蓮が隼人役、愛梨が美月役でひとつのカップルの出逢いと日常を描く。
ヴィンテージ家具が並ぶ彩度の低い部屋。月明かりにキスをして重なる二人の影は官能的なのに美しいラブシーンだ。
『このMVは蓮に出てもらって正解だったな』
画面がメイキング映像に切り替わった時に悠真の呟きが聞こえてきた。
一ノ瀬蓮とUN-SWAYEDは同じ所属事務所。面識があってもおかしくはない。
しかし引っ掛かることがあった。
一ノ瀬蓮はemperorベーシストの息子、沙羅はemperorギタリストの娘。あと二人のemperorメンバーにも子どもがいた。
emperorメンバーの子どもは沙羅を除いて全員が男子。
ドラムのTSUKASAの息子とは同年代で、幼稚園が同じだった。
ボーカルのKEIの息子は二人いた。
――“ゆうくん、こっちだよ”――
――“あー! カイくんがサラのリボン取ったー!”――
やはり、そうなのか。
淡く甘い幼き日の思い出に登場する、ゆうくんとカイくんの正体は高園悠真と高園海斗。
こんな大切なことをどうして今まで忘れていたのだろう……。
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