Winter-06
8月10日(Mon)
東京から岡山まで新幹線で3時間。朝7時の新幹線で岡山に向かった沙羅達は岡山駅からさらに電車を乗り継いで午前11時に倉敷駅に到着した。
「やっと着いたぁっ!」
白いワンピースに身を包んだ沙羅は夏空に向けて両腕を伸ばした。新幹線で3時間座りっぱなしで肩も腰も凝り固まっている。
倉敷駅南口。二階の自由通路の下はロータリーになっていて駅前の街並みが見渡せる。
世間は盆休み直前の月曜日、サラリーマンやジャージ姿の学生もちらほら見えた。
悠真が借りた六人乗りのレンタカーは運転席に悠真、助手席に星夜、二列目に沙羅と晴、三列目に海斗が座った。
『ラーメン!』
『カレーがいい』
『ラーメンもカレーもクドイ』
『近くにとんかつ屋もあるぞ』
『とんかつなんてもっとガッツリじゃねぇか!』
『うどんかパスタ』
『えー、パスタ昨日の昼飯だったー』
『こうなったらドライブスルーのハンバーガー?』
『岡山まで来てハンバーガーは嫌だろ』
車内での議題はランチのメニュー。
旅行のメインである星夜の兄の職場を訪ねる前に腹ごしらえだ。
ラーメン、カレー、とんかつ、うどん、パスタ、東京にも店舗のあるチェーン店のハンバーガー……ランチメニューに様々な希望が挙がったが、多数決でうどんに決定した。
五人は倉敷駅から車で数分走った場所にあるうどん屋に入った。
沙羅は卵とじうどん、悠真はきつねうどん、海斗はカレーうどん、星夜は天ぷらうどん、晴は肉うどん。
追加で天ぷらの盛り合わせを頼んだのは海斗と晴、おむすびを頼んだのは星夜、悠真はいなり寿司を頼んでいた。
注文する料理にも四人の個性が窺える。
『でもなんでジーンズの工場なんだろうな?』
とんかつを所望していた晴は肉うどんをすすりながら天ぷらを頬張っている。早朝出発だったこともあり誰もが空腹を感じていた。
沙羅もうどんだけではなく、悠真が分けてくれたいなり寿司や海斗がくれた天ぷらを食していた。
『俺も意外だった。純夜は服には興味なかったのに』
『ジーンズの工場で働くつもりで岡山に来たのかはわからないが、国内のジーンズはここで作られているらしい』
悠真が岡山のガイドブックのページをめくる。
純夜の職場はジーンズの製造工場。倉敷は江戸時代、綿花や米の集散地として栄えた天領(幕府の直轄地)の町。
綿の集荷の中心だった倉敷、玉島、児島は繊維産業の発展を支え、児島は国産ジーンズの聖地と呼ばれている。
これから向かう純夜の職場も所在地は
「純夜さんはどんな人なの?」
『見た目は瞳の色が違うだけで俺とそっくりだよ。でも性格は真逆』
『純夜の方が堅物だよな』
海斗の発言に星夜は苦笑い。
『純夜の堅物は親父似。瞳も性格も親父似と母さん似で真っ二つに分かれちゃったんだ』
沙羅には兄弟姉妹がいないからわからないが、純夜と星夜の双子の間には複雑で曖昧なままのシコリがあるのだろう。
沙羅は海斗を一瞥した。平然とカレーうどんを食べている海斗も、ここに来るまでは普段の輪をかけて口数が少なかった。
海斗は最初は純夜と友達だった。そこにフランスから帰国した星夜が加わって海斗は星夜とも友情を築いた。
3年前に純夜が家出。長男だった純夜が背負っていた重圧は弟の星夜へ。
海斗にしてみれば星夜に責任を押し付けて逃げた純夜と今さら友達に戻るのは無理なのかもしれない。
昼食後、車を児島方面に走らせること数十分。
今日の岡山県は快晴。夏の青空と太陽が照らす倉敷市の風景は東京のゴミゴミとしたビル群とは違ってゆったりとしていた。
車のナビが目的地周辺のアナウンスを告げる。純夜の職場のジーンズ工場の前を通り過ぎた先のコンビニの駐車場に車が停まった。
沙羅達はここで待機。緊張の面持ちの星夜が開けた助手席の扉から夏の熱気が車内に流れ込んできた。
いってきますと手を振る星夜に沙羅も手を振り返す。外に出た星夜が扉を閉めると侵入していた熱気も消えた。
(星夜……頑張ってね)
星夜が自分の気持ちに素直に、純夜と正面から向き合えることを沙羅は願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます